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『ドラゴンテイマーと魔人』 ~追放された不遇職の僕は、婚約者だった公爵令嬢と共に、何とか生き抜いていこうと思いました~  作者: 星衛門
2章 ヴァンパイアと魔人

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31公爵




 その女性は、天井に足を突き、頭を下に向けた状態だった。

 宙ぶらりんになっているまま、女性はレーナを見下ろしていた。


 「我の作業場に、客人?果て、招いた覚えが無い」


 そして、女性は天井から足を放ち、ゆっくりと地面に降りる。


 地面の足をついた際は、全く音がしない。

 女性自身が綿のような軽さを持っているのか。


 推定の年齢は、20代後半?30代前半?


 その女性は、まず大きかった。

 16歳の女性にしては高身長のレーナよりも、さらに背が高い。


 真っ赤な色の髪に、これまた真っ赤な目。

 黒いドレスを見ており、街中ならば誰もが振り返る美人である。


 けれど、女性の口元には、長く鋭い前歯が見える。


 予想していたけど、ヴァンパイアである。


 「………」


 レーナは最大限の警戒で、ヴァンパイアから少しずつ距離を取る。


 このヴァンパイアはヤバい。

 体から出る魔力が凄まじい。

 佇まいも素人では無い。


 はっきり言って、怖い。


 感覚的に理解できた。

 このヴァンパイアが何者なのか。


 「公爵……」


 無意識に、ぼそりと呟く。


 推測だが、レーナには確証があった。

 これほどまでの強者の風格。


 間違いなく、彼女がヴァンパイア公爵だ。


 「ほぉ…我を知っているのか?」


 レーナの推測は当たっていた。


 ヴァンパイア公爵は鋭い眼光で、レーナの下から上をじっくりと観察する。

 そして、ニヤリと笑う。


 「其方…魔人か」

 「………」


 レーナは答えない。

 自身が魔人だなんて、公爵には、お見通しだろう。


 「ヴァンパイアではない。姿は完全に人間の魔人」


 ヴァンパイア公爵は顎に手を当て、考え込む様子を見せる。


 「しかし、妙だな。ここに、ヴァンパイア以外の魔人がいるのもそうだが、其方からは魔人以外に人間の匂いがする。人間と魔人とが混ざり合った存在のような」

 「っ?!」


 これには、レーナも驚く。

 自分が半魔人だと、観ただけで見抜かれるとは。


 「興味深い。其方の体を研究してみたい」

 「研究ですか?」


 明かりがある、この子部屋には、様々な器具が置いてある。

 初めて見た時は驚いたが、考えてみれば実験の道具に見える。


 それも、器具に血が付いているのを考えれは、生物…もっと言えば、人間や魔人といった生き物に限定した実験では無いだろうか。


 「そうだ。我は、こう見えても研究者。興味のあるものは、つい実験をしたくなってくる。其方、我の実験体になってくれるか?」

 「お断りします」


 それを聞いた公爵は、目を見開き、顔を下に向かせる。

 少しして、


 「クックック…」


 公爵の不気味に笑い声が、レーナの耳に入る。


 そして、獰猛な顔をレーナに向ける。


 「まぁ…そうだろうな。態々、実験体になるような物好きもおらん」


 公爵は、徐々にではあるが、レーナとの距離を積める。


 「とは言え、其方が実験体になることに変わりは無い。こんな興味をそそられる実験対象を我が見逃すはずが無いからな」

 「!」


 公爵が、そう言った瞬間…レーナは瞬間的に、近くにあった器具を公爵に投げつけ、自身は距離を取る。


 器具の中には、ナイフや針など尖ったものが混ざっている。

 この投げつけに、少しくらい怯んでくれれば良いが、


 「何をする。我の大切な研究器具だぞ」


 公爵は投げつけられた器具を全て手で払う。


 速い。手の速さが。

 これだけで、実力の一端が分かる。


 まともに戦ったりはしない。

 レーナは自分の力を過信していない。


 あの公爵と、まともに戦っても勝てないだろう。

 戦わずに逃げられるなら、それに越したことは無い。


 だけど、そう上手くはいかない。


 「逃すか」


 公爵の背中から何かが出る。

 それは黒い大きな何か。


 バサ。

 黒いものは対をなして、広げられる。


 それは羽だ。

 黒い大きな羽。


 蝙蝠の羽が公爵から生えていた。


 ビュン!

 羽を生やした公爵が物凄い速さで飛翔する。


 折角、レーナが広げた互いの距離が瞬くする間に、縮まる。


 迫る公爵に、レーナは正拳突きを放つ。


 「ほぉ…拳か」


 いきなり突きを放ったレーナに驚きつつも、公爵は身を捻って体捌きで躱す。


 公爵とレーナがすれ違う。


 カシュ!

 何かがレーナの顔の横を通り過ぎる。


  即座に、レーナは首を横に移動させるが、完全には間に合わなかった。


 少し鈍い痛みが右頬に走る。

 母に手を当てると、少しだけ血が出ていた。


 レーナは後ろを抜く。


 先ほど、レーナを通り過ぎた公爵は愉快な笑みを浮かべていた。


 「実に面白い。我の爪を受けて、その程度とは」


 よく見ると、公爵の手先からは獣のような爪が生えていた。

 羽に加え、今度は爪である。


 これがヴァンパイアの特殊能力。


 いや、公爵の特殊能力なのか。


 「我の爪は鉄をも切り裂く。人間ならば顔を大きく切り裂かれている。同じ魔人でも、もっと切られているはず。其方、なかなか頑丈な体を持っているな。益々、其方を研究したくなった」


 公爵の軽口に付き合わず、レーナは息を大きく吐き、構える。


 逃げられない。

 羽を生やした公爵は俊敏だ。


 逃げられないのなら、戦うしかない。


 レーナの構えを見て、公爵は愉快な笑みから興味深い笑みに変える。


 「ふむ…さっきも其方は拳で攻撃していたな。そして、今の構え。其方も、素手で戦うのか?」

 「其方も…ですか?」


 つい、レーナも反応する。


 「そうだ。我も素手で戦う」


 そう言って、公爵はレーナの魔闘術とは、また違う格闘技の構えを取る。


 こうして、レーナと公爵による格闘技対決が始まる。




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