赤札の箱
その箱は、最初から重かった。
大きさのせいじゃない。
材質でもない。
——気持ちが、詰まりすぎていた。
「……まだ、赤札ついたまま」
ようぺんが、
そっと指さす。
箱の角には、
色あせた札。
〈取り扱い不可寸前〉
「この箱……」
「何年、ここにある?」
やくぺんが記録をめくる。
「……わからない」
ときぺんが首を振る。
「時間課の帳簿にも」
「最初から、載ってない」
こころんは、
箱の前に立った。
ぴったり閉じられたふた。
でも、
中から——
とん、とん
小さく、
叩く音がする。
「……生きてる」
ぽつりと、
こころんが言った。
この箱は、
一度も配達されていない。
あて先不明。
役割未定。
時間指定、なし。
それでも、
ずっと——
“送りたい”気持ちだけが残っている。
「局長」
やくぺんが、
珍しく迷いを含んだ声で言う。
「これは……」
「もう、保留じゃない」
「限界、だね」
ようぺんが、
静かにうなずいた。
保留棚は、
“待てる気持ち”の場所。
でもこの箱は、
待ちすぎた。
「……私が」
こころんが、
一歩前に出た。
「これ、私が止めた」
従業ぺんたちが、
一斉にこちらを見る。
「前にね……」
「“今は送らない方がいい”って」
「判断した」
そのときは、
正しいと思った。
送り先の人が、
まだ受け取れない気がして。
でも。
箱の中から、
声がした。
〈届かなくてもいい〉
〈ただ、出してほしかった〉
胸が、
ぎゅっと縮む。
「……」
こころんは、
ペン形を握りしめた。
「私、間違えた」
その瞬間。
箱が、
ひび割れた。
ばり、ではなく、
ぴし……と。
中から、
光があふれる。
強くて、
あたたかくて、
でも——
泣いている光。
「まずい!」
ときぺんが叫ぶ。
「これ以上、溢れたら——」
「取り扱い不可になる!」
局内に、
警告音が鳴る。
〈感情量、限界〉
〈封印維持、不可〉
こころんは、
深く息を吸った。
「……送ろう」
「局長!?」
「今すぐじゃない」
「でも……」
「“どこにも送らない”のは、やめる」
こころんは、
箱に手を置く。
「この気持ち」
「ちゃんと、行き先を探そう」
光が、
少しだけ、落ち着いた。
赤札が——
ひらりと、落ちる。
代わりに、
白い札が浮かび上がった。
〈特別取り扱い〉
〈配達方法:未定〉
局内に、
静けさが戻る。
でも、
誰も安心していなかった。
なぜなら。
この箱は、
一度も“開けてはいけない”箱。
けれど——
もう、開き始めている。




