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届けなくても、届く心

箱は、

静かに局内の中央に置かれていた。


赤札は外れ、

白い札だけが揺れている。


〈特別取り扱い〉


「……開けるの?」


従業ぺんの声は、

小さかった。


こころんは、

すぐに答えられなかった。


この箱は、

ずっと閉じられていた。


送り主も、

宛先も、

決まらないまま。



でも——



箱はもう、

開きたがっている。


こころんは、

そっとペン形を取り出した。



押印のためじゃない。



——覚悟のため。



「開けます」



ふたに手をかけた瞬間、

箱が自分からほどけた。


音もなく、

やわらかく。


中から出てきたのは——

光でも、文字でもなかった。



小さな、ぬくもり。



形はない。

でも、確かにわかる。


それは。


言えなかった「ありがとう」

間に合わなかった「ごめんなさい」

伝える前に終わった時間





そして——


もう会えない誰かへの心。


局内の空気が、

しん、と静まる。


「……あて先が、ない」


ようぺんが、

震える声で言った。


こころんは、

ゆっくり首を振る。


「ううん」


そして、

箱の中のぬくもりを、

そっと抱き上げた。


「これはね」



“相手に届ける心”じゃなくて

“自分の中に戻る心”なんだよ



従業ぺんたちが、

息をのむ。



「届けなくてもいい心がある」

「でも、出さないと壊れちゃう心もある」



保留棚が、

かすかに光る。


今まで眠っていた箱たちが、

静かにほどけていく。



送り先は、外じゃない。


送り主の胸の中。


時間課の時計が、

ゆっくり進む。


やくぺんが、

帳簿を閉じた。


ようぺんが、

封印を解いた。


ときぺんが、

白い印を押す。


こころんは、

最後にペン形を掲げた。


「ぺんぺん」


従業ぺんたちが応える。


「ぺぺぺん」



それは、

発送の合図じゃない。


“受理完了”の合図。


局内に、

やさしい光が満ちる。


取り扱い不可寸前だった箱は、

もう箱の形をしていなかった。



ただ、

あたたかい心になって、

静かに還っていった。




その夜。


業務を終えたココポスは、

いつもより静かだった。


こころんは、

窓の外を見ながら言った。


「届けるだけが、仕事じゃないね」


従業ぺんたちが、

うなずく。


心には、いろんな行き先がある。


誰かへ。

未来へ。

役割へ。



そして——



自分へ。



こころんは、

灯りを落とす前に、

今日最後の押印をした。


「ぺんぺん」


明日もまた、

箱は届くだろう。



ありがとうの箱。

ごめんなさいの箱。

不思議な箱。



でももう、

怖くない。


ココポスは知っている。


こころんのココポスは、これで終わりとなります。

ありがとございました。

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