動き出した保留品
局内は、いつもより静かだった。
……いや、
静かすぎた。
棚のすき間、
天井の梁、
仕分け台の下。
そこかしこに、
“気配”だけが残っている。
「……どこ行った、ぺん」
ようぺんが、箱の影をのぞき込む。
「気持ち、完全に分裂してる」
「一つじゃない」
やくぺんの声は、
いつもより低かった。
逃げた気持ちは、
ばらばらにほどけていた。
・言えなかった言葉
・待ちすぎた時間
・やさしくしてほしかった夜
それぞれが、
自分の行き先を探している。
「……局長」
ときぺんが、
保留棚の前で立ち止まった。
保留棚。
あて先が決まらない箱、
時間が必要な気持ち、
まだ動かすべきでない想い。
——すべてが、
静かに眠る場所。
でも。
「……動いてる」
棚の奥で、
箱が、かた、と音を立てた。
ひとつ、
またひとつ。
「保留便が……」
「起きてる、ぺん」
こころんは、
その場に立ち尽くした。
保留便は、
勝手に動かない。
動くとしたら——
理由は、ひとつ。
「……待てなくなった」
気持ちは、
時間を超えられない。
でも、
限界を超えることはある。
保留棚の箱が、
一斉に、淡く光る。
あて先未定。
時間指定なし。
役割保留。
——なのに。
〈今〉
という文字だけが、
箱の表面に浮かび上がった。
「まずい」
やくぺんが即座に言う。
「今、送り出したら」
「どこに届くかわからない」
「止めよう!」
ようぺんが駆け出す。
「全部、再封印——」
「待って!」
こころんの声が、
局内に響いた。
止める?
それとも——
聞く?
こころんは、
逃げた気持ちのひとつを、
そっと抱えた。
小さくて、
震えていた。
「……この気持ち」
耳をすます。
〈ずっと、待ってた〉
胸の奥が、
ちくっと痛んだ。
「保留にしたのは……」
「正しかったのかな」
こころんの声は、
自分に向けられていた。
その瞬間。
保留棚の一番奥——
いちばん古い箱が、
ぎ、と音を立てて動いた。
局内の灯りが、
一瞬、落ちる。
「局長……」
ときぺんが、
息をのむ。
それは、
ココポス始まって以来、
誰も動かせなかった箱。
〈取り扱い不可寸前〉
赤い札が、
まだ付いたまま。
こころんは、
気づいてしまった。
逃げた気持ちと、
保留便と、
この箱。
——全部、
同じ送り主だ。
「……これは」
こころんの判断ミスは、
ひとつじゃなかった。
もっと前から、
始まっていた。




