25.聖女にとってのお得。
「大聖堂の方、ご迷惑はお掛けしていませんか?昨日町の連中に話したら、早速感謝をお伝えしたいと盛り上がってしまいまして……。聖女様に直接会えずともあくまで礼拝程度で済ますようにと強く伝えましたが、……大丈夫でしたか?」
私には被害来てないし教皇様に迷惑かかる分は大丈夫!!!
心の中でそう叫びながら「大丈夫です……」とか細い声で答える。むしろ教皇様は調子に乗ってるかもしれないし町の人たちにごめんなさいくらいだけど!
ラウナがほっとした顔をしてくれる中、遠巻きに見てる店員さんやお客さんもそーっと視線を私達から顔ごと逸らしていった。思い切り聖女様呼びされちゃったけど、ラウナが話しかけてくれてるから逆に気にしないふりをしてくれてるとわかった。
なんか、聖典の旅を思い出す。時々お店で食事してて依頼とかもあった時も他のお客さんが見て見ぬふりしてくれたことがあった。逆に店中大注目もあったけど!
「ところで、昨日の件は考えて頂けましたか……?」
ラウナの可愛い声に、心臓ごと大きく身体が跳ねる。
申し訳なさそうな顔で眉を寄せるラウナに、思わず背中を反らしてしまう。
いや駄目だよ?!ラウナの為にも絶対!!旅なんて寒いし暑いしきつくて汚くて危険で良いことなんか何もないし天才魔導師の研究職のラウナには絶対合わないから!!そう旅でラウナが何度も言ってたから間違いない!!
どう言えば良いかわからなくて、唇を噛んで目が泳ぐ。その間もあのラウナが「お願いします」と私を覗く。ラウナの方が背が高いのに、座ってる私に合わせて腰まで落としてくれる。
「決して足手纏いにはなりません。この命をかけて必ず貴方の使命を全うさせてみせますから……」
それが嫌なんだよ!!!!!?
アクセルやニーロも様子がおかしいところはあったけど、ラウナが一番違い過ぎて困る!確かにラウナは真面目なところがあるし、憧れの人には素直なところもあったけど、私はラウナにも足手纏いで迷惑ばっかかけてたし、私に対するラウナは最初からもっと、もっと……!
「〜〜っ……そ、の……!聖女様という呼び方、やっ……やめて頂けますか……?!」
話を逸らしたくて、顔にぎゅっと力を込めながら言ってしまう。言った後にまた後悔した。また、また!こんな下手な話の逸らししかできない!!!
昨日のアクセルも今朝の夢もそうだけど本当に私に説得は向いていない!
呼び方?と、きょとんとした顔になるラウナも可愛い!けど、本当に意味がわからない顔だ。私もわからない!!でも今一番頭に浮かんだのはそれだった。
だってラウナはこんな話し方私にしないし!!ニーロもアクセルも慣れた話し方してくれるのに、ラウナにだけこんな呼び方で低姿勢にでられるのが辛い!!!ラウナは羨ましいくらい堂々としてて格好良い自信満々の私の憧れなんだから!!
「申し訳ありません。ですが聖女様……でなければ、どのようにお呼びすれば宜しいでしょうか?」
どのように。
困ったように小首を傾げるラウナの言葉を聞きながら、どきりと心臓が鳴った。以前通りなら「聖女」と呼んでくれれば充分だけど、……ちょっと、欲が。
今度こそラウナも巻き込まないんだし、それなら一緒に旅もしないんだし、つまりは旅に出たらラウナにも滅多に会えない。なら、ちょっとくらい良いよねと自分に唱える。
でもなんかラウナに言うのはすごく恥ずかしくて、言う前から気持ち悪く口が緩んだまま目を逸らす。動悸がどきどきと鳴りながら、これ以上気持ち悪くなる前に思い切る。
「え、エンヴィーと……呼んで下さい。私、それが本名ですので……」
「エンヴィー様、ですか?」
「ッエンヴィーで!!はなっ、話し方も敬語いらないです!!〜〜っ……、……」
思わず食い気味に言ってしまった。直後に余計な希望まで言ってしまい、ぐわぁあと顔が熱くなる。
うわーーーどうしよう。完全に今のは変に思われる!!名前で呼んでもらうくらいならまだしも、仲良くないのに敬語も無しでとか!!……いや?!でも聖典の旅中は仲良くないから敬語無しだったし!!あれ?!どっちが正しいのかわからなくなってきた!!
でも目の前のラウナは明らかにわからない顔をしているし、なんとかそれらしい理由を考えないとと足りない頭を必死に回す。「あー」と「あ」を何度も溢して間を持たす。
「あー……あー、その、ラウナ様は元素魔導の第一人者とも呼ばれる御方ですし……。わ、私はまだ十六で、神聖魔法以外は未熟なので、天才魔導士のラウナ様のことをとても尊敬しておりまして……?」
「!!そうなのですか?!」
嘘じゃない嘘じゃ嘘じゃない嘘じゃない嘘じゃない嘘じゃ嘘じゃない嘘じゃないけどズルですごめんなさい!!!!!!
嬉しそうに目を見開くラウナにすごく悪いことをしている気分になって、顔が正直に引き攣る。それでもラウナは気にしないように嬉しそうに笑ってくれた。
嘘じゃない!!私はラウナのこと本当に尊敬しているし!魔法だって私は本当に底辺以下で、だから元素魔法を使えるラウナの偉大さも偉さも知っている!!
この時から元素魔法の第一人者って言われていたことも知ってるし、神聖魔法至高主義の我が国よりも異国での方が正当な評価ですっごい一目置かれる魔導師だって知ってる!!…………けど!それは私が今逆行して二週目だからだ。
当時の私はラウナがどれくらい偉いのかどころか元素魔法も殆ど知らないし、ラウナの名前や存在すら全然知らなかった。ずっと教会で神聖魔法を勉強ばっかりしていたから。だからそれがラウナからの第一印象が最悪だった理由と言える。それなのに………!!
「嬉しい………!!教会に元素魔法の良さをわかってくれる人がいたなんて……!」
すっっっごい嬉しそう!!!!緑色の瞳の中にお星様飛んでるよ?!本当にごめんねごめんなさいラウナ!!!こんなに喜んでくれるならもっと最初から大聖堂の外について学んでおくべきだった!!!
もう、最初に知り合った時にこれくらい言えたら、ちょっとはラウナとも仲良くできたのかなと思うと今から後悔してもしきれない。家族も故郷も失ったその後で、頑張ってきた元素魔法のことも自分のことも何も知らないのが旅のお供ってすごい嫌だったよね?!!?
神聖魔法の権威である教会では元素魔法は下等に見られやすい。だけど私はそう思わない、誰もが使用できる可能性を持っている魔法こそ、……と。ラウナお得意の魔法論が放たれる中、ひたすら頭で謝り続ける。
「あ……あの、なので尊敬する御方に様とか敬語とかは落ち着かないので………。是非、そのまま気負わずにお話頂けたら……」
「そんなにいってくれるなら……わかりました。なら、私のことも「ラウナ」で良い、わよ?」
ちょっと言いにくいそうに頬を指で掻きながら苦笑するラウナに、思いっきり心臓が高鳴った。どうしようすっっごい嬉しい!!
本当に、初対面って大事なんだなと思い知る。ニーロも言ってたけど、人の出会いは最初の一回目がずっと影響するから仲良くとかなんとか!!でも良いのかな?!ラウナとそんな友達みたいなっ……!
思わず叫んでしまいそうな唇をぎゅっと内側に噛んで堪えながら、拳を握る。ラウナがすごい辿々しく「エンヴィー……エンヴィー」と慣れようとするように繰り返してくれるのがすごい可愛いし嬉しい!以前はずっと最初から最後まで私のことニーロと揃って「聖女」だったのに!!!
「ら、ラウナ……」
「はい、なにかしらエンヴィー?」
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁ………!!!
もう!以前の呼び方するだけで緊張したのに、ラウナが名前呼んでくれると破壊力が違うよ!!?にこにこ笑って名前呼んでくれる人生なんて想像もしなかったよ!!?
なんだろうこのラウナの感じ……と記憶を巡らせれば思い出した。ラウナ、経由した集落で仲良くなった子どもとかにはこんな感じだったね……。あああぁラウナに優しくしてもらえる子ども達羨ましかったなぁぁあ。
死にそうな声で「呼んでみただけです……」と白状すれば、クスクス笑われた。あああ幸せ過ぎる………!!
「そうだ。元素魔法に興味があるのなら、私から指南しましょうか?あんなすごい神聖魔法使えるならきっとすぐできるわよ」
!ラウナから!!!?
まだ名前呼びの余韻が残っているのにここで新たに嬉しい提案に、顔が緩みきる。嬉しい!!旅中は神聖魔法習得に必死で習う余裕もないし、見よう見まねじゃ初期魔法すら全然で、まずラウナから教わるほど仲良くもなかった!!ラウナの格好良い元素魔法を、他でもないラウナに教わるなんてこれ以上はない!!ずっと旅中こっそり夢にみたことがこんなにすぐ
「一緒に旅をしながら。それならエンヴィーも得でしょ」
ね?と、………にっこり笑顔で提案するラウナに完全に顔の筋肉が固まる。〝策士〟という言葉が頭に駆け巡る。
いやラウナはそんな計算高い……ところもあったけど!!そうじゃなくて今のは純粋な提案だ。お互い円満勝利解決と言わんばかりの笑顔に、今は別の意味で心臓がばくばくして一気に血圧が下がる。どうしよう、いつの間にかさっきよりも逃げ場がなくなっている。
旅をしながらラウナから教わるとかっ………!!憧れたよ?!憧れたけど!!!でも今回こそラウナは巻き込まないと決めたんだから!!そんな一時の感情でラウナも人生棒に振っちゃ駄目だよ?!せっかく故郷も家族も生きてるんだから、都会の城下でのんびり研究進めながら楽しく平和に生きないと!!
「……ら、ラウナは……妹さんもお子さんが産まれますし、傍にいた方が良いんじゃ……」
「妹は妹、私は私。あの子はもう良い旦那捕まえたんだから私がいなくても平気」




