第789話「リオネル様の流出など、絶対にあってはいけません! 私は、イエーラの長ソウェルとして、断固、阻止致します!」
商業ギルドにおける打合せから、1週間が経った。
ナタリーは、勤めていた冒険者ギルドを無事に円満退職。
やはりというか、自分のマンションには戻らず、宿へ最低限の荷物を運び込み、
幸せいっぱいに暮らしている。
ちなみに、ナタリーの本チャンの引っ越しは後日、という事となった。
王都バルドルにおける滞在が予定より延びたので、
ワレバッドで待つエステルへは、魔法鳩便で、
迎えに行くのが若干遅れると連絡を入れてある。
そして、リオネル達は、相変わらず多忙な日々を送っていた。
無理も無い。
冒険者ギルド講座の受講、宿屋プロジェクトの進行、
そして愚連隊蠅団改め、新生モノリスの更生等々と、
数多の案件を抱え、こなし、進めているからだ。
少し、補足すると……
冒険者ギルドの講座は、新たにナタリー、風の魔人達が加わり、
各自が自分に合った講座をチョイス。
個人差はあるが、初級、中級、上級と次々にクリア。
知識習得と実践を重ねていた。
風の魔人達にとっては、人間社会で暮らす良きトレーニングにもなっている。
加えて、リオネル達とも、すっかり馴染み、
ヒルデガルド達女子の良きボディーガードも務めている。
一方、宿屋プロジェクトは、先の打合せで上がった、
用意する厨房設備、調理器具、食器、店舗スタッフが着用する衣服、
実験的な店舗候補リストを、リオネル達が各下見をし、
全ての項目において、商業ギルドへ『希望』として、バック。
対して、商業ギルド側は、各サンプルの手配、
希望店舗の3つまでの仮押さえを行い、
ギルド内での紹介候補を『推薦』という形で絞り、
その上で、約束通り、打合せをセッティングしてくれた。
という事で、再び、リオネル達は、商業ギルドにおいて、打合せを行った。
まずは厨房設備、調理器具、食器、店舗スタッフが着用する衣服、
プロトタイプショップとなる『実験的な店舗』の概要が決定。
同時に、デザイン案が複数、工事のスケジュール予定表、見積書も提出され、
全てがリオネル側の希望を汲んだものであったから、問題無く了承された。
この『実験的な店舗』も本工事のプロデューサー的な進行役、
工事を請け負う施工業者が、店内設計、内装を請け負う事となった。
ズバリ、本番前の、工事、運営のテストも兼ねており、
参加するスタッフ達は、良い物を造ろう! 良い店にして利益を出そう!
と気合い充分である。
そしてこの店舗は、まずはギルド内紹介スタッフにより、
候補者の絞り込みをし、面接を行った。
結果、飲食業経験のある者達のみで、オープンし、
運営する事が決まったのである。
経験者ならば、一から教える事も無く、
スムーズに事を運べるであろう。
何か、あれば、修正し、改善して行けば良いのだから。
ちなみに、スタッフに関しては、窓口となったギルド曰はく、
公募の状況も絶好調との事。
ドラゴンスレイヤーの英雄たるリオネルが、
オーナーの店という事で、応募が殺到しているようだ。
さすが、商業ギルド。
段取りはスムーズで、隙が無く、完璧に近い。
餅は餅屋、やはりプロの仕事は違う。
改めて、適材適所の言葉を実感したリオネル達。
大いに満足し、追加予算の金貨1万枚を支払ったのである。
最後に、新生モノリスの更生。
リオネルが指示をした、清掃、警備の業務を、
本部、経営する店、及び縄張り内の店でしゅくしゅくと行い、
経験を積んだ事ですっかりと慣れ……
ボス代行のマチアスや幹部達、団員が皆、上手くこなせるようになった。
そして、何と何と!
身内以外の店、個人からも、仕事の依頼が続々と!
ひたむきに、愚直に、決して手を抜かず、懸命に仕事に励む彼らを、
王都の人々も見直すようになっていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そうこうしているうちに、一通の魔法鳩便が、宿へ届いた。
冒険者ギルド王都支部に届けられ、ギルドマスターが預かったのだ。
ギルドから、一報が届き、リオネルが回収したという次第。
……差出人は、ソヴァール王国侯爵で、冒険者ギルド総マスターでもある、
ローランド・コルドウェルである。
実は、ローランド。
数日前に、この王都バルドルへ到着していた。
張り巡らされた索敵により、リオネルは到着を察知していたが、
先日、ローランド、ブレーズと会った夢魔法の中で、
来訪の際の段取りに関して、打合せを行っていた。
この案件、王国上級貴族、デスタン伯爵が絡んだ事情が事情である。
リオネルが、いきなり「懲らしめる!」というわけにはいかない。
それなりの『手続き』を踏まなくてはならないのだ。
まあ、息子のガエルには、架空の地獄へ堕とすなど、
容赦無くお仕置きしたのではあるが。
……話を戻そう。
まずローランドが王宮へ出向き、
王弟で宰相のフェリクス・ソヴァールと会い、話し合いをする。
ローランドから、今回のナタリーの事件に関し、報告が為される。
その際、ローランドは、リオネルから託された、
事件の経緯書と顛末書、
そして複製した自白を始めとした音声付映像の予備を、フェリクスへ見せる。
証拠を見せられたフェリクスが、了解したら、
ローランドは、リオネルと会い、『証拠の本品』を受け取る。
フェリクスへ証拠本品を見せた後、
ローランドは、当事者たる臨時の監察役として、
デスタン伯爵と息子のガエルを王宮へ呼び出し、尋問する。
尋問の結果、ふたりが罪を認めたら、
フェリクスはデスタン父子を、王国貴族が連なる貴族評議会にかけ、
審議し、処分を決定するとの事。
その際、手先となった蠅団の処分も下されると。
補足すると、
貴族を裁いたり、資格を審査したりする仕組みは、時代や国によってかなり違う。
ソヴァール王国の場合は、まずは、貴族内、
つまりは『身内』で秩序を保つという考え方が強い為、
上記のような流れとなり、必要に応じ、公的な裁判を行う事となる。
告発された者は弁明の機会は与えられ、抗う事も出来る。
だが、今回の場合は、本人が自白し、明確な証拠もあるので、
抗うなどした場合、罪が重くなるだけだと、ローランドは笑っていた。
そして、今回届いた魔法鳩便の手紙には、こう書かれていた。
いろいろ書かれてはいたが、シンプルにすると、こうなる。
リオネル・ロートレック殿。
例の件……宰相閣下との話はついた。
全てが、上手く行くと思う。
件の愚連隊も、情状酌量の余地があるとおっしゃって頂いた。
よって、貴君が所有する証拠本品を持ち、急ぎ、王宮まで来られたし。
折り返し、連絡を待つ。
ローランド・コルドウェル。
リオネルはその手紙を一読。
ローランドに感謝し、まず当事者たるナタリーへ見せた。
ナタリーも、大いに喜び、ローランドに感謝した。
そして、ヒルデガルド、ミリアン、アンセルム、そして従士達にも見せた。
皆も大いに喜んだが、ローランドへの返事を書く前に、
リオネル以外、誰が王宮へ行くのか?という話になった。
まずは、当事者たるナタリー。
今回、ローランドの供には、
彼女の遠い親戚、身内たるブレーズも居るというから、尚更妥当。
ここで「はい!」と手を挙げたのが、ヒルデガルドである。
自分も同行したい、否、断固として同行します!と言い切ったのである。
「ローランド様がいらっしゃれば、無茶な事にはならないと思いますが、万が一、という事もあります」
ヒルデガルドの持つ懸念とは……
宰相フェリクスに謁見した際、
リオネルが、無理やり祖国ソヴァール王国へ帰還させられ、
挙句の果てには、取り込まれてしまうというもの。
「万が一、そんな事になったら、私はおじいさまに、いえ、イエーラの全国民達へ顔向けが出来ませんわ」
そう言う、ヒルデガルドの眼差しは鋭く、表情は真剣。
「リオネル様の流出など、絶対にあってはいけません! 私は、イエーラの長ソウェルとして、断固、阻止致します! 幸い、私はローランド様に面識がありますし、その場で非公式の訪問という事で、フェリクス宰相閣下へもごあいさつの機会があれば、したいと思います」
ここまで言い切り、ヒルデガルドは「ふう」と息を吐く。
「リオネル様はご存じですが、私とおじいさまで、既に手続きは終了しております。リオネル様は、ソヴァール王国の国民ではありますが、イエーラの正式な国民でもあるのですから」
柔らかく微笑むヒルデガルドではあるが、発した言葉には、
鋼鉄のような意思が込められていたのである。
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