第784話「ああ、お互いに頑張ろうな!」
新生モノリスの本部を出て、冒険者ギルド王都支部へ赴いたリオネル。
時刻は、午後5時少し前……
まもなく、依頼を完遂した冒険者が報奨金を受け取ろうと押し寄せる、
いわゆる『ラッシュ』が始まる時間であり、
既にロビー、特に業務カウンターは、大勢の冒険者でいっぱいである。
そんな中、堂々と、
『絶世の美女』だと知れ渡ったギルド職員のナタリーを連れ歩くと、
さすがに、悪目立ちすぎる。
なのでリオネルは、受付から連絡を入れ、許可を貰って、事務所内へ入り、
1階の職員用応接室で待つ事に。
そして、午後5時を過ぎ、支度を終え、制服から私服に着替えたナタリーを、
職員用の通用口より、連れ出した。
しばし歩き、ギルドから離れると……
ナタリーは、「ぴたっ」と、リオネルにくっつき、寄り添って来る。
「リオネルさん、1か月先のギルド退職の件ですが、上司の業務課長へお話ししました。ギルドマスターの確認待ちとの事ですが、多分、了承して貰えそうです」
「おお、良かったですね。詳しい話は、宿へ戻ってからお聞きしましょう」
「はい!」
元気良く返事をしたナタリー。
しっかりと、リオネルと手もつなぐ。
「ごめんなさい、リオネルさん、私は年上なのに、いつも、こんなに甘えん坊で……」
ナタリーは、照れたように苦笑しながら、か細い声で、
リオネルへささやいて来た。
そうは言っても、心底、嬉しそうなナタリーを連れ、宿へ戻ったリオネル。
戻ると、アンセルム、ヒルデガルドとミリアンが、
厨房で、夕食の前準備、つまり『下ごしらえ』をしてくれていた。
ちなみに、従士たる火の魔人のブライムは、
厨房には入らず、宿の警備にあたっている。
「こ、これは……」
ずらりと並んだ、夕食素材の『下ごしらえ』を見て驚くナタリー。
「はい、実は……」
驚くナタリーへ対し、リオネルが説明。
ナタリー不在時のランチに、リオネルが作ったソヴァール王国、イエーラ、
アクィラ王国の3か国料理を食べた事。
メニュー内容は変わるが、ナタリーが帰宅したら、
「同じく、リオネルが作った3か国料理を食べて貰おう」と話していた事を伝えた。
4人は了承し、アンセルム、ヒルデガルド、ミリアンは料理の下ごしらえを、
ブライムはその間、宿の警備につくべく決めていたのだ。
このような気遣いを、ナタリーが喜ばないわけがない。
「あ、ありがとうございます! 凄く、凄く! 嬉しいです!」
「はい、アンセルムさん達が、手間のかかる、下ごしらえをしてくれていたので、ありがたいです。俺は、調理をするだけですので」
「で、では! 私も手伝います!」
勤務後で疲れているであろうナタリー。
しかし、ここで、リオネルが、きっぱり断ると空気が悪くなる。
そこでと、リオネルは全員へ回復魔法を行使。
各自の体力が100%満タンな、万全の状態で、
全員が協力し、3か国料理の夕食を作った。
中でも、リオネルの鮮や過ぎる手並みを見て、
全員が見惚れたのは言うまでもなかった。
そして、リオネルが作業をしながらも、索敵を使いつつ、
不審者が居ないか、念の為に、宿の周囲を警戒。
当然、従士ブライムも警備を行いながら、索敵でフォロー。
安全を確保した上で、楽しく、
全員で、その夕食を摂ったのである。
良い雰囲気のまま、夕食の席の会話は弾んだ。
まずナタリーの冒険者ギルドの退職だが、先に彼女が告げた通り、
すんなりOKされそうだ。
ナタリー曰はく……
そもそも冒険者ギルドの業務が、きっかけで、
クライアントの子弟ガエルに、強引に一方的に、好意?を寄せられ……
挙句の果てには業務中に押しかけられ、愛人になれと言われ、
衛兵を呼ぶ騒ぎとなった。
当然ながら、断ると、ガエルの息がかかった愚連隊の蠅団からも、
散々、つきまとわれ、脅迫され、
心身ともに、とんでもない迷惑と被害を被った事。
まあ、これらはギルドそのものの責任ではないのだが、
お詫びの意味もあり、ナタリーの退職にはすんなりOKが出るであろう事。
加えて、幸いと言うのか、
あくまでも業務課長の個人的な見立てではあるのだが……
残り1か月間、フルに勤務する必要は無く、
溜まっていた有給休暇が使用可能なので、
引き継ぎをし、1週間の勤務で退職がOKだろうとの事。
「今回、助けて頂いたリオネル顧問とも、先の事を相談したと、業務課長へ告げた事も影響していると思います」
とナタリーは笑顔。
明日以降、退職の確定は、冒険者ギルドの指示待ちであると告げ、報告を終えた。
次にリオネルが、ナタリーが不在中、共有した話をナタリーへ告げる。
彼女が知っている認識に上書きして行く感じである。
宿屋プロジェクトを進め、目途を立てる。
アンセルムとナタリーの引っ越し作業とその買い物、及び備蓄用物資の買い物。
王都の料理店等々の食べ歩きに、冒険者ギルドの講座受講。
リオネルによる、愚連隊蠅団改め、新生モノリスのケア等々……
対して、ナタリーは状況を改めて認識し、把握。
また先の商業ギルドにおける打合せに同席したナタリーは、
改めてリオネルの考えを聞き、大いに賛同、やる気満々。
進行中の『宿屋プロジェクト』を、
ぜひ、自分のやりたい仕事として、希望職種の選択肢へと入れたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……翌日、早速リオネル達は立てた課題と予定に沿って行動して行く。
まずは早朝、市場へ行き、またも滞在中の当座の食料と備蓄用食料を購入。
備蓄用は、ケースバイケースで、イエーラにおける販売用にもする。
朝、ナタリーを冒険者ギルドへ送った後……
リオネル達はギルドの講座を受講し、各自がスキルアップをはかった。
さすがに、勤務中のナタリーがギルドの講座を受講する事は叶わない。
リオネル達が、多くを学び、スキルアップして行く事に焦りはあるが、
イエーラへ移住後、落ち着いたら、様々なスキルアップを行う事で納得した。
講座受講の合間に、リオネルは新生モノリスの本部へも顔を出す。
確認すると、マチアス曰はく、
やはり、他組織からの『ちょっかい』は無いと言う。
約束が無事履行されている事に安堵したリオネルは、
彼らがやる気になっている『清掃』の腕を更に磨くよう命じ、
実施個所を拡大するよう命じた。
そして、もうひとつのシノギの柱となる『警備』について、マチアスと相談する。
「マチアス」
「はい!」
「お前達はこれまで、縄張り内で敵対組織とやりあったり、トラブルがあった際のケツ持ちをしたり、店の用心棒をしていたな」
「その通りです、ボス」
「ただその際には、得物となる武器を使用したり、腕っぷしに物を言わせ、『解決』したという事だな」
「同じく、その通りです。ウチの団、いえ、旧蠅団のモットーで、相手を出来る限り殺しはしませんが、いわゆる半殺しにはしますね」
「成る程、半殺しか。冒険者である俺も戦いは重ねて来たし、否定はしないが、警備となると勝手は違って来る」
「と、言いますと?」
「あくまでも俺の個人的な意見だが……警備は出来る限り不審者の排除と捕縛を目指すべきだ。そして、相手には致命傷を与えず、無力化をはかるべきだと思う。半殺し以上にするのは最後の手段さ」
「成る程。警備とは不審者の排除と捕縛を目指し、相手には致命傷を与えず、無力化をはかるべき、ですか……俺にも理解は出来ますが、中々、難しいですね」
「まあな。口で言うほど、簡単な事ではない。訓練と実践が必要だ」
「訓練と実践、ですか?」
「おう! 本当は俺が、お前達へ直接教授出来れば良いんだが、キャパ的に難しい」
「残念です」
「ああ、だな。ただ訓練の良き方法がある。お前達の中には、冒険者ギルドに登録している冒険者が居るだろう? 以前、そいつらを使い、ナタリーさんや俺を監視していたはずだ」
リオネルが、ズバリ言えば、マチアスは口ごもる。
「そ、それは……」
「ああ、俺には分かっていたよ。だが今更の話だ。それよりも団員へ、自分が警備というシノギをやりたいのか、簡易調査を行い、希望者で問題が無い者に冒険者登録をして貰おう」
「冒険者登録を?」
「ああ、そして冒険者ギルドの護身術講座を受講させるんだ」
「おお、冒険者ギルドの護身術講座を!」
「ああ、護身術は、襲って来た敵と戦うだけではなく、身を守る為の危機回避力、対応力を習得するスキルだ。警備の仕事に応用出来ると思う。それと冒険者登録の際に、受ける基礎講習には、冒険者の心得以外に、マナー、社会常識の教授もあるから、社会的に、まだまだ未熟なお前達にはもってこいだ」
「な、成る程!」
「更には、登録して受け取れる冒険者ギルドの所属登録証は、世界共通の身分証明書だ。数多の特典もあるし、とても使い勝手が良い。そしてギルドへは日々、様々な依頼がもたらされる。自分達の持つスキルに合った、そんな依頼を受諾し、完遂すれば、新たなシノギのきっかけにもなる」
「成る程! 成る程! 良い事尽くしですね」
「おう! 俺がギルドの顧問だから、まるで宣伝みたいになってしまったが、やってみるか?」
「はい、ぜひ!」
「よし! では先ほど言った通り、まずは冒険者ギルド登録者を集めろ。彼らに登録等々の流れを聞いた上で、警備の希望者を募り、人選して、該当者を冒険者ギルドへ送り、登録をし、講座を受講をさせるんだ」
「了解です、ボス! すぐに動きますよ!」
「ああ、頼むぞ。俺はギルドへ戻る。実は俺も、ギルドの講座をいくつか受講しているからな」
「え、えええ!? ボ、ボスも!? ギ、ギルドの講座をですか!?」
「ああ、俺もまだまだ修行中の身だ。学ばなくてはならない事は、数えきれないほど、たくさんあるよ」
「……………………」
「む? どうした? 黙り込んで」
「い、いえ、ドラゴンをもあっさり倒す、ボスほどの方が……まだまだ修行中ですか」
「ははは、お前達が思うよりも俺は未熟で、全然発展途上さ。もっともっと上を目指したいよ」
対して、マチアスは、しばし黙った後。
「……………………ボス」
「おう!」
「ボスには到底及びませんが、俺も……頑張りますよ」
何か新たな決意を秘めたような、マチアスの真剣な眼差し。
同じく、リオネルも真剣な眼差しで返す。
「ああ、お互いに頑張ろうな!」
「はい!」
マチアスは、リオネルの生き様を見て、モチベーションが大幅アップしたようだ。
これも、究極の隠しスキル『生きる励み』の効果かもしれない。
という事で……
マチアスとの打合せを終え、リオネルは冒険者ギルドへ戻ったのである。
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