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おひとりさま歴33年、白髪の忌み子に転生しました  作者: 花金男爵


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第七話 咆哮の主

第七話 咆哮の主


 咆哮が、広場の空気を震わせた。


 落雷した場所には、まだ青白い放電が走っている。その向こうで、ゆっくりと大きな影が立ち上がった。


 最初に見えたのは、額から伸びる一本の角だった。


 一本の角を生やした、巨大なライオンだ。


 青黒い体は五メートルほどもあり、首から背にかけて青紫の長いたてがみが逆立っている。太い前脚の先には鋭い爪がのぞき、長い尾の先で房になった毛が揺れていた。


 全身にまとった電気が、たてがみの間で絶えず弾けていた。


 見たことのない魔獣だ。


 五歳の俺から見上げると、壁が四本の脚で立っているみたいだった。しかも、その壁は雷をまとい、さっきからこちらを睨んでいる。


 刀の柄を握る。小さく魔力を流すと、引かれることなく、すぐ手元へ感触が返ってきた。


「大きいね」


「見れば分かる。集中しろ」


 魔獣が前脚で地面を打つ。


 爪の周りから放電が広がり、浮いた岩の表面を青白く照らした。


「アリス、ウルスナ、カリーナ。里の者を近づけるな。イーサックは人家側を守れ」


 ディアルが短く指示を出す。


「アリソン、周囲へ飛ぶ放電と石を頼む」


「承知しました。ハーバード様、お二人の護衛をお願いできますか」


「任せよ。危なければ、わしが止める」


 ハーバード様は俺たちの少し後ろへ進み、魔獣を見据えた。


「皆さん、こちらへ来ないでください!」


 アリスはウルスナ、カリーナと一緒に里へ続く道へ走る。異変を聞きつけて顔を出した人たちを、それ以上近づけないためだ。


 イーサックは魔獣と人家の間へ回り込み、地面から厚い岩壁を立ち上げた。


 広場の外側は大人たちが守ってくれる。


 なら、俺たちは目の前の魔獣を止めればいい。


「フィル、左右に分かれるぞ」


「分かった」


 俺は刀を抜き、ディアルと距離を取った。


 魔獣が角を低く向ける。


「来るぞ!」


 たくましい後ろ脚が地面を蹴った。


 巨体が一気に迫る。走った後へ青白い電気が残り、地面を跳ねた。


 俺とディアルは左右へ地面を蹴り、空間魔法で体を浮かせる。角が足元を通り過ぎ、まとった電気が靴の裏をかすめた。


 髪の先が引かれるような感触がして、思わず首をすくめる。


 直接触れていないのにこれだ。まともに受けたら、痛いでは済まない。


 着地と同時に振り向く。


 巨体からは想像できない速さで、魔獣はもうこちらへ向き直っていた。


 今度はディアルへ突進する。


 ディアルが片手を地面へ向けると、厚い岩の盾がせり上がった。


 角が岩へぶつかる。


 重い音と一緒に亀裂が走り、盾の前半分が砕けた。破片と放電を避け、ディアルが後ろへ跳ぶ。


 魔獣は岩盾を割った勢いのまま前へ出る。その横へ回ったディアルが、片手を振り抜いた。


「風斬・烈刃(ふうざん・れつじん)」


 鋭い風の刃が魔獣の肩を捉える。


 青紫の毛が数本散った。けれど、青黒い体についた傷は浅い。


「浅いな」


 魔獣が頭を振り、ディアルへ前脚を振り下ろす。


 ディアルが横へ避けると、爪が地面を大きくえぐった。そこから放電が枝のように走る。


 俺は足元から岩をせり上げ、放電との間を塞いだ。


 けれど、一瞬遅い。岩が形になる前に伸びた一本が腕をかすめ、指先まで痺れた。


 横へ飛んだ石の欠片と残りの放電は、広場の端に張られたアリソンの障壁が受け止める。


「周囲はこちらで抑えます。魔獣に集中してください」


「助かる!」


 魔獣がディアルへ向き直る。


 今なら、横が空いている。


 俺は痺れの残る手で刀を握り直し、魔獣の脇へ踏み込んだ。


 角の向きを確かめ、前脚へ刀を振る。手首を固めず、刃の反りに沿って引いた。


 今までより、ずっと素直に刀が動く。


 刃は青黒い体を捉えた。けれど、ついた傷は細く、魔獣の動きは止まらない。


 たてがみで放電が弾ける。


 俺は刀を引き、飛び退いた。直後、魔獣の前脚がさっきまでいた場所を薙ぐ。


「俺のも浅い」


「なら、次だ」


 魔獣は低く身を沈めると、俺たちの間へ飛び込んできた。


 爪を避けて横へ転がる。起き上がりかけた頭のすぐ上を、放電をまとった尾が薙いだ。俺は慌てて身を伏せる。


 その間にディアルが進路へ低い岩柱を三本並べる。


 魔獣は一本目を前脚で砕き、二本目を跳び越えた。着地した前脚が三本目を蹴り倒し、また角をこちらへ向ける。


 速くて、力もある。放電のせいで近づき続けるのも難しい。


 けれど、走る時は必ず四本の足で地面を捉えていた。なら、まずあの脚を止めればいい。


 前世のゲームでも、速くて近づきにくい相手は、まず動きを止めていた。


 魔獣の視線が俺を捉えた。角を低く構え、こちらへ駆け出す。


 俺は刀を右手に下げ、空いた左手から地面へ魔力を伸ばした。


 爪が土を蹴るたびに、巨体が近づいてくる。


 狙った場所へ前脚が踏み込んだ瞬間、左右から岩をせり上げた。


「土縛・岩牢(どばく・がんろう)」


 岩が二本の前脚へ絡みつき、爪先まで囲んで固まる。そのまま後ろ脚の周りも岩で囲み、四本の脚を地面へ縫い止めた。


 巨体が止まり、青紫のたてがみから放電が散る。


「止めた!」


 魔獣が吠えた。


 四肢へ力が入り、岩に一斉に亀裂が走る。


 拘束を厚くするより先に、前脚を囲んでいた岩が砕けた。続けて後ろ脚の岩も弾け飛ぶ。


 アリソンの障壁が、こちらへ飛んできた破片を受け止めた。


 魔獣は自由になった前脚で地面をかき、また走り出す。


 あの岩まで砕くのか。


 それなら、固めずに沈めればいい。


 土だけではなく、水も一緒に使う。


「土と水を、混ぜる」


 魔獣の進路へ土と水の魔力を重ねる。二つの属性を一つの魔法にまとめ、地面を泥に変えていく。


 乾いた地面が水を含み、少しずつ柔らかくなっていく。


 どちらか一方ならすぐに形にできる。けれど、二つを混ぜるとなると、まだ遅い。


「間に合え」


 泥の範囲が広がる。


 魔獣の前脚が、その手前へ踏み込んだ。


 あと少しで、足を取れる。


 けれど、魔獣は地面の変化に気づいた。前脚を深く沈める前に強く蹴り、泥の上を跳び越える。


 五メートルの巨体が頭上を通り過ぎた。


 泥沼はその直後に完成した。


 土と水はきちんと混ざり、踏み込めば足を取られる深さになっている。


 ただ、そこに魔獣はいなかった。


「遅かった」


 着地した魔獣が、地面を削りながら向きを変える。


 泥沼の位置を避け、別の場所から俺たちへ角を向けた。


 青紫のたてがみで、放電が大きく弾ける。


「また来るぞ」


「うん」


 俺たちは左右へ分かれた。


 魔獣が突進する。


 角が届く直前、俺は地面を蹴って横へ浮き、ディアルも反対側へ跳んだ。


 巨体が二人の間を駆け抜ける。


 俺たちは着地すると同時に振り返った。


 魔獣もすぐに向き直り、一本角を低く構えて唸った。

一本ツノのライオン。可愛いですね!


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