↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
おひとりさま歴33年、白髪の忌み子に転生しました  作者: 花金男爵


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/13

第五話 刀と向き合う


 里へ入ってすぐ、竹林の道は人の暮らす場所へつながった。


 木造の家々が並び、その間を歩く人たちが俺たちへ目を向ける。王子と王女が来たのだから当然なのかもしれないけれど、フードの下まで見られている気がして、俺は少しだけ端を引いた。


 最初に近づいてきたのは、暗い赤髪の少年だった。


 腰に剣を下げ、背筋を真っ直ぐ伸ばしている。俺たちの前まで来ると、まずディアルとアリスへ頭を下げた。


「ディアル様、アリス様。お久しぶりです」

「久しぶりだな、ヴェルツ」


 ディアルと知り合いらしい。


 ヴェルツは同行している大人たちにも礼をしてから、俺を見た。正確には、俺の腰にある刀を見ている。


「殿下。そちらの子供は?」

「フィルだ。俺の弟だ。祖父に刀を教わりに来た」


 ディアルが答えると、ヴェルツの眉がわずかに寄った。


「失礼ですが、いくつですか」

「五歳だよ」

「五歳……」


 やっぱり、そこを気にするらしい。


「俺はこの里で何年も剣を振っています。それでも、ハーバード様の稽古についていくのは簡単ではありません。その年齢では、危険です」

「危なくないように習いに来たんだけど」

「それは、そうですが」


 ヴェルツは黙り込んだ。言い方は硬いけれど、追い返したいわけではなさそうだ。本気で心配している顔だった。


「以前、俺にも同じようなことを言ったな」


 ディアルが口を挟む。


 ヴェルツは少し気まずそうに目を伏せた。


「あの時は、俺が負けました。だから今度は、年齢だけで決めたくありません」


 顔を上げ、俺を真っ直ぐ見る。


「一度、手合わせをしてください」

「それで納得する?」

「はい」


 話が早くて助かる。


 俺がイーサックを見ると、彼は里の道と周りの建物を確かめ、それから頷いた。


「広い場所でやるぞ。魔法はなし。急所は狙うな。俺が止めたら、そこで終わりだ」


 ◇◇◇


 近くの開けた場所へ移り、俺たちは向かい合った。


 ヴェルツが剣を抜く。飾りのない剣を正面に構える姿は、さっきの話し方と同じで真面目そのものだ。


 俺も刀を抜いた。


「始め」


 イーサックの声と同時に、ヴェルツが踏み込んでくる。


 速い。


 剣先がぶれず、真っ直ぐ俺の肩を狙っていた。俺は半歩横へずれ、刀で剣の軌道を外す。


 ヴェルツはすぐに足を戻し、二撃目へつなげようとした。


 でも、その前に懐へ入る。


 柄を握り直し、刃を返した。刀の峰を、ヴェルツの脇腹へ当てる。


「そこまでだ」


 イーサックの声が飛んだ。


 ヴェルツの剣が止まる。


 俺は一歩下がり、少し声を低くして言った。


「峰打ちだ」

「それが言いたかっただけだろう」


 すぐにディアルから声が飛んでくる。


「半分くらいは」

「半分もあるのですか」


 アリスが呆れていた。


 ヴェルツは脇腹を押さえながら姿勢を直す。悔しそうに口を結んだけれど、目をそらさず俺へ頭を下げた。


「……俺の負けです」

「じゃあ、これで教わっても大丈夫?」

「はい。俺が心配する必要はなかったようです」

「いや、心配はしてくれていいよ。危ない時は教えて」


 その時、少し離れた家の陰から、大きな笑い声が聞こえた。


「はっはっは! バスクから聞いてはおったが、本当に面白い子じゃのう!」


 姿を見せたのは、がっしりした老人だった。足取りは軽く、俺たちへ向ける目にも力がある。


 ディアルとアリスの顔が、同時に明るくなった。


「祖父上」

「お祖父様!」

「おお、二人ともよく来たな。少し見ぬ間に、また大きくなったではないか」


 老人は二人の肩を順に叩いてから、俺へ向き直った。


「わしがハーバード・ミケル・アセナルじゃ。この里を預かっておる」

「フィルです。よろしくお願いします、ハーバード様」

「うむ。二撃目を待たずに懐へ入ったか。足はよく動く。じゃが、峰を当てる直前、少し手首を固めすぎたな」


 少し離れたところから、きちんと見ていたらしい。


 イーサックが肩をすくめる。


「見てたなら、最初から出てきてくださいよ」

「おぬしが見届けておるのに、わしが邪魔をする必要はなかろう」


 その隣でアリソンが丁寧に頭を下げた。


「お久しぶりでございます、ハーバード様」

「相変わらず、何を考えておるか分からん笑顔じゃの」

「お褒めにあずかり光栄です」

「褒めておらん」


 ハーバード様は鼻を鳴らし、今度は俺の刀へ目を落とした。


「ところでフィル。その刀と、意思疎通はできておるか?」

「意思疎通?」

「エルフの王フェリックスから、姿を変えた神樹の武器には意思があると聞いたことがある」


 俺は手の中の刀を見た。


 魔力を流した時に、内側で何かが揺れるような感触はあった。普通の武器とは違う。それは分かっている。


「何か返ってくる感じはあります。でも、何を伝えたいのかは分かりません。返事なのかどうかも」

「なるほど。では少し、向き合ってみるか」


 ◇◇◇


 ハーバード様が連れてきたのは、里の端にある広い稽古場だった。


 人の姿はなく、木の標的が一つ立っている。その奥には、古い稽古用の建物があった。


「奥の建物も今は使っておらん。あの標的へ向け、ここで試してみるとよい」


 俺は標的の手前で刀を抜き、両手で持つ。


「ええと、聞こえてる?」


 刀は何も言わない。


 もちろん、声が返ってくるとは思っていない。たぶん。


「俺はフィル。もう知ってると思うけど」

「名乗るところから始めるのか」


 後ろでディアルが言う。


「会話の基本だからね」


 柄から、ごく小さく魔力を流した。


 刀の内側で、かすかな動きが返ってくる。けれど、それが挨拶なのか、もっと寄こせと言っているのか、もう十分だと言っているのかは分からない。


 流す量を少し減らしてみた。


 それでも、刀の内側へ引かれる感触は残っている。止めようとする俺とは、どうも合わない。


 まだ欲しいのだろうか。


 試しに少し足すと、手の内へ返る感触が強くなった。


「このくらい?」


 返事は読めない。


 少しずつでは分かりにくい。もっとはっきり変えれば、刀の反応も読みやすくなるかもしれない。


「この際、全力で行くよ?」


 俺は今までより、ずっと大きく魔力を流した。


 刀身を覆う力が濃くなり、手の中で刀が細かく震える。


 喜んでいるのだろうか。


「分かりやすい返事もできるんだね」


 俺は標的へ向き直り、刀を構えた。


 一歩踏み込み、刀を振り始める。その途中で、流れ込む魔力の手応えが急に重くなった。


 その重さが腕へ伝わり、振り抜いた刃の先から力がほとばしった。


 木の標的が、音を立てて割れた。


 そこで終わらなかった。


 刃からあふれた魔力が地面を走り、奥の建物へぶつかる。壁と柱がまとめて裂け、片側の屋根が大きく傾いた。


 遅れて、建物の半分が崩れ落ちる。


 土煙が稽古場へ広がった。


「フィル!」


 アリスの声が上がる。


 ハーバード様は崩れた建物と俺たちを見渡した。


「中に人はおらん。こちらにも、けが人はおらんな」


 アリソンの風が土煙を横へ流す。その向こうに見えた建物は、やっぱり半分になっていた。


 俺は刀と建物を見比べる。


 息は乱れていない。魔力を使いすぎた時のだるさもなく、まだ余裕があった。


「……量を間違えました。ごめんなさい」

「次からは、全力を試す前に加減を覚えることじゃな」

「はい」


 ハーバード様は俺の手元へ目を戻した。


「刀の様子も見てみよ。今度は少しだけ流して、止めてみるのじゃ」


 刀を握り直し、ごく小さく魔力を流す。


 今度は引かれることなく、流した分だけの感触が手へ返ってきた。魔力を止めると、刀の反応もすぐに静かになる。


 言葉はない。それでも、今度は俺の加減を分かってくれた気がした。


 俺は刀を鞘へ納め、ハーバード様へ向き直る。


「とりあえず、こちらの言うことは聞くようになりました」


 ハーバード様は半分になった建物と俺を見比べ、大きく息を吐いた。


「まあ良い。では刀の基本から始めるぞ」

下の☆ボタンで応援していただけたら幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。