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おひとりさま歴33年、白髪の忌み子に転生しました  作者: 花金男爵


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第四話 始まりの里へ


「振る時、刃の向きが少しずれるな」


 稽古を終え、刀を鞘へ戻したところで、イーサックが言った。


「剣と同じところは教えられる。足の運びも、間合いもな。ただ、その反った刃を一番うまく使う方法となると、俺は専門じゃない」


 今朝よりはましになったと思う。けれど、刃の反りに沿って振れた時と、少し角度を外した時では、手に返ってくる重さがまるで違った。


「専門に教えられる人はいる?」


 俺が尋ねると、そばで木剣を片づけていたディアルが顔を上げた。


「祖父なら教えられる」

「ディアルのおじいさん?」

「俺とアリスの祖父だ。始まりの里アストールにいる」


 ハーバード・ミケル・アセナル。現国王バスク・ミケル・アセナルの父親らしい。王位を退いた後は、王家の祖先が暮らした里の長をしているという。


「里では、刀の戦い方を学べる」

「行きたい」


 自分でも驚くくらい、すぐに言葉が出た。

 せっかくもらった刀だ。格好いいと眺めるだけではなく、ちゃんと使えるようになりたい。


 ディアルが頷く。


「父上に許可を取る」


 隣で聞いていたイーサックが笑った。


「決まるのが早いな。まあ、ハーバード様なら、お前たち二人まとめて鍛えてくれるだろうよ」

「今、少し楽しそうに言わなかった?」

「気のせいだ」


 嫌な予感もしたけれど、行きたい気持ちの方が勝った。


 ◇◇◇


 国王の許可が下り、旅の手配もほどなく整った。

 俺がしたのは刀の手入れと、ウルスナに言われた荷造りくらいだ。こっそり入れた遊び道具は、二つとも見つかって元の場所へ戻された。


 王都を出たのは、俺とディアル、アリス、イーサック、アリソン、ウルスナ、カリーナの七人だった。


 街道で人とすれ違うたび、ウルスナが俺のフードをさりげなく直す。白髪を隠すことは、もう日常の一部になっている。


 街道は馬で進み、森が深くなるところで馬を下りた。そこからは土の道を歩いていく。


 歩く時間が長くなっても、足はまだ動いた。休憩で水を飲めば、また先へ進める。


「疲れましたか?」

「大丈夫。まだ歩けるよ」


 ウルスナは俺の足取りを確かめると、肩にかけた荷物の紐だけを直した。


 ◇◇◇


 魔物が姿を見せたのは、森へ入って二日ほど経った頃だった。


 街道脇の茂みが揺れ、四つ足の魔物が二体飛び出してくる。


 イーサックは剣へ手をかけたが、抜かない。アリソンはアリスたちの前へ立ち、周囲を見渡していた。


「一体ずつだ」


 ディアルが言う。


「分かった」


 俺は刀を抜き、右から来る一体へ踏み込んだ。刃へ薄く風を沿わせる。


「風斬・薄刃(ふうだん・うすば)」


 振り抜いた先から細い風の刃が走り、魔物の前脚を切った。体勢を崩したところへもう一歩近づき、刀で首元を斬る。


 手に返ってきた抵抗は、思ったより小さかった。出発前に教わった通りに刃の向きを保つと、刀は引く動きについてきた。


 隣では、ディアルが片手を地面へ向けている。


「土穿・石針(どせん・せきしん)」


 魔物の踏み込む先から、細い石の針が一本突き出した。前へ出た勢いのまま胸を貫かれ、二体目も地面へ倒れる。


 イーサックは二体を確かめると、剣から手を離した。


「ほかにはいない。道を空けて、先へ行くぞ」


 アリソンも頷く。


「進みましょう」

「待って」


 おかしい。言わなくてはいけないことがある


「魔物の対処は、子供の仕事?」

「修行の一環だ」


 周りを見る。みんな当たり前のような顔だ。


「そっか」


 こちらが間違っているらしい。


 ◇◇◇


 その翌日、歩いていたアリソンが道端へ指を向けた。


 小石が一つ、ふわりと地面を離れる。アリソンの歩みに合わせて宙を進み、差し出した手のひらへ収まった。


「歩くだけでは退屈でしょう。ついでに、空間魔法も少し試してみませんか。まずは小石を一つ、持ち上げるつもりで魔力を向けてみてください」


 俺は足元にあった小石を見る。


 拾い上げたいと思いながら魔力を伸ばすと、石がかすかに震えた。それから、手のひらの上へ持ってくる。


「できた」

「その程度か?」


 ディアルが俺のものより少し大きな石を浮かせる。


 そう来るなら、こっちはもう少し大きい石だ。


「次はあれにする」

「俺は、もう少し大きい方にする」

「じゃあ、俺も」

「張り合うようにとは申し上げていません」


 アリソンの声は穏やかだったが、俺たちは二人とも石から目を離さなかった。


 アリスが呆れたように息をつく。


「どうして、すぐ勝負になるんですか」

「男の子ですもんね」


 カリーナはにこにこと答えた。


 石が浮くたび、ウルスナの視線が俺達の足元へ向く。落としてつまずかないように、ということらしい。


 俺は石を道の端へそっと戻し、今度は別の一つを探した。


 ◇◇◇


 旅に出て六日目、森の中に竹が混じり始めた。


 背の高い竹が道の両側へ並び、風が通るたび葉が細く鳴る。地面近くを漂う霧の向こうで、道が見えたり隠れたりしていた。


「もうすぐだ」


 ディアルが言う。


 緩く曲がった道の先、竹の間に人の暮らす建物が見えた。


 始まりの里アストール。


 王家の祖先が暮らし、今は前国王ハーバードが里長を務める場所だ。


 俺は腰の刀へ手を添える。


「ハーバード様は、どこにいるの?」

「里へ入れば会える」


 ディアルは迷わず、竹の間の道を進んでいく。


 俺もその後を追い、始まりの里へ足を踏み入れた。

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