格
説明をしてもらっている間に、周りの喰らう者達は集会が終わったのか帰って行っていた。
「さて、そしたらそろそろ帰ろうか」
「帰る前にラーメンでも食おうぜ」
そんな会話をしていた時。ほんとに突然だった。
「見慣れない顔の二人が居るから誰かと思ったら、神無の連れかい」
僕の背後からそう普通に話しかけてきただけ…だと思う声がした。
だが、僕が声の主は格が違うと理解するには十分過ぎた。
僕は動けなくなってしまった。まさに蛇に睨まれた蛙だ。
いつの間にか神無も後ろへ逃げたのか、少し離れた場所で冷や汗をかきながら鎌を構えていた。
全く動じて居ないのは菫だけだった。
「まるで鬼でも見たかのように逃げなくったっていいじゃないか」
そう誰かに話しながら近付いてきた声の主は、さっき説明してくれた三強の一人
――「花屋」であった。
「なんの用だババア」
そう見るからに虚勢で花屋に言い放ったのは神無であった。花屋は神無に話しかけてきていたのだ。
「……」
それに対し花屋は、持っていた扇子を閉じただけで何も話さなかった。
…空気が重く感じるこれが無言の圧というやつか。
顔が見えないからか、はたまた圧のせいか分からないが…
思考が停止して逆に冷静になるくらいには僕には余裕が無く、死を覚悟していた。
一歩、また一歩と神無へと近付いていく、花屋が近付いていくにつれ神無の顔はみるみる白くなり、汗は増え、手と足は震えが止まらなくなっていた。
花屋が次に口を開いたのは神無の目の前まで来た時だった。
「ごめんよ、私はババアだから耳が遠くてね。なんて言ったかもう一度言ってくれないかい小僧」
僕に向けられている訳じゃないのに花屋の神無へ向けた静かな殺意、そして圧で僕も意識を失いそうになる。
神無は大丈夫だろうか…涙目でガタガタ震えている、まるで子犬だ。
そんな神無を見ていると少し冷静になってきた。
あれはダメそうだな、さらば神無。
「まぁ、今は許しといてやろう」
その花屋の発言に神無の顔に血の気が一気に戻る。
それを知ってか知らずか花屋が釘を刺す。
「今は、だ。覚えときなさい」
そう神無に言うと花屋は僕と菫さんのいる方に歩いてきた。
「そっちの君は何度か見かけた事があるが、君は初めましてだよね?」
そう僕に話しかけてきた花屋からは先程の怖さを微塵も感じなかった。
それが僕を更に困惑させた。
(神無…助けて)そう思い神無の方を見たが…ありゃダメだ。
完全に体の力が抜けている。なんなら魂も抜けそうだ。
僕は返事が出来ず、花屋は僕の返事を待って。
先程とは打って代わり、穏やかな海のような静寂の時間が訪れた。
静寂を破ったのは花屋でも、神無でも、菫さんでも、もちろん僕でもなく意外な人物だった。
「――様そろそろ…」
花屋と一緒に来ていた狐火隊の一人がそう花屋に話しかけた。名前は聞こえなかったが、おそらく花屋の名前だろう。
「おや、もうそんな時間か。じゃあな少年。次会うときは話が出来る事を楽しみにしているよ。」
そう言って去っていく花屋、そして花屋の後ろについて行く数名の狐火隊の姿は
(かっこいい)
そう自然に思わせる程輝いていた。
しかし僕が花屋の後ろ姿を見ているはずなのに、何故か花屋に見られている、そんな怖さを感じた。
だが、そんな恐怖は花屋のかっこよさに魅せられている今の僕には関係なかった。
――「…帰ろうか、蓮…」
「あ…あぁ。うん、帰ろう」
「私も着いていこうかな、ラーメンはどうする?」
「…菫、今の俺が食べられると思うか?」
「いんや全く」




