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心喰い  作者: ラム肉
最終章
33/35

正義と信念

「まぁいい、勝手にしろ」


そう言った次の瞬間、死神の姿は僕の視界から消え、桔梗さんが居た場所に立っていた。

桔梗さんは森の木まで吹き飛ばされている。


「どうだ?お前と同じ身体強化系の能力のやつから奪った力だ」


僕は咄嗟に桔梗さんに近付き、体を揺らすが反応が無い。


「なんで…」


「あ?」


「なんでお前は僕から神無も!菫さんも!水さんも!仲間も!両親まで奪っておいて何故まだ桔梗さんを奪おうとする!」


「別になんでもいいだろう。お前がなんであろうと俺には関係のない事だ」


「ふざけるな!なんで、なんで僕から!」


「お前こそ自分だけが不幸ですって思ってんじゃねぇだろうな」


「…実際そうだろう」


「ふん、お前は恵まれてるんだよ。仲間も、師も、友も居た。俺はなぁ!ある日突然そいつの父親に全てを奪われた。富も、家族も、約束された幸せな未来も全部だ。お前に分かるか?」


「僕だってお前に親を殺された!お前こそ自分だけが不幸だなんて思ってんじゃねぇか!」


「おいおい、人の話は最後まで聞くもんだぜ?」


そう言って死神の腕が僕の首を木に打ち付け、締め付けてくる。


「俺はな、ある日突然両親も許嫁も奪われた。たしかにそこはお前と同じかもしれねぇ」


「ならっ」


「だがお前には能力があった。しかし俺は無能力だった、だから喰らう者となっても誰にも認められず、無能力というレッテルは俺の価値を大きく下げた。そのせいで仲間も友も何も出来なかった」


「その程度で何を」


「お前に分かるか!突然己の全てを奪われ!仲間であるはずの喰らう者たちからは虐げられる!そんな日々が!」


そう言って僕の首を締め付ける死神の力は一瞬更に強くなった。


「まぁいい、それから俺は独りで生き抜いた。例え嫌な奴でも媚びを売ってな。そんな時だ、菫が弱者を集めて組織を作ったのは。俺は同じ環境の仲間が出来ると思って心底喜んで入ったさ」


ならなんで!

そう言いたかったが、声は出なかった。


「だが現実は無情だった。弱者と言っても俺以外は全員能力があった。そこでも俺は虐げられた。だが俺はそれすらも耐えた。生きる為に」


そこで一瞬言葉が詰まったのか、少しの沈黙があり、少し声色が悲しげに変わり、僕に語りかけてきた。


「お前はいいよなぁ。何もせずとも師であり友である神無や菫に出会い、強くなり、桔梗の様なやつにも気に入られる。俺にはその一つも無かった」


その時死神は「ふぅー」と一つ大きな息を吐いて話し始める。


「その後もずっと俺は虐げられた。時には感情が無い、表情が無いというだけで。そんな俺にもようやく転機が訪れた」


そう言うと死神の手の力がまた緩み僕は声が出せるようになった。


「カハッ」


「息が出来なくても俺ら喰らう者は死ねない。死ぬ事が許されない。不自由な体だよなぁ。俺はその体に苦しんだんだ。ある日突然その体にされてな」


「何が言いたいんだ。苦しみを分かれって言うのか」


「別に。苦しみを今更共有出来るやつがいた所で俺には何も関係ない」


「なら何を」


そう言おうとした僕の首を、もう一度死神は締め付ける。


「で、なんだっけな…あぁそうだ。菫ともう一人の三強対決。俺はそこでようやく別の喰らう者を殺し、自らの能力が分かった。しかしどうだ?今度は皆、俺を恐怖の目で見てくる」



「結局能力があれば得られると思っていたものすら俺は得られなかった。菫の元にいた他の奴らはどこかの組織に入ったり、仲間を得ていった。しかし俺はどこの組織にも入れなかった、そこの桔梗の組織にもだ。全部能力を聞いた途端の門前払い」


たしかに、僕は恵まれていたのかもしれないな…


「その上よく分からねぇ因縁をつけて襲ってくるやつもいた。だから俺は自分を守る為にひたすら喰らう者を殺し、他の奴らからは畏怖の目で見られるようになった」


そう言うとまた死神は手の力を緩め、もう片方の手で桔梗さんを指さした。


「お前はどうせ桔梗が正義だと思ってるんだろう」


「あぁ、実際そうだろう」


「そんな訳があるか。絶対的な正義なんてのは存在しねぇんだ、人によって正義は違う。俺にとっての正義や信念ってのは、喰らう者のいねぇ世界にする事だ」


「そんな事っ…」


「考えてもみろ、喰らう者が居なければお前の両親だって死ぬことは無かった。だから俺は全ての元凶である桔梗の父親も殺し、昔も今も喰らう者を殺し続けているんだ!」


「だとしても!」


「だから俺は俺の正義で生き抜いてきた!なのにお前らは意味も考えずにそれを否定する!お前が俺に文句を言ってきた親や仲間の死だってなぁ!全部こんな世界のせいだ!そしてこれが俺の生き方なんだ!それをちっぽけな正義もどきで否定してんじゃねぇ!」


ぐっ!また息が


「俺は力を手に入れた。力を手に入れる度に孤独はより深まっていった!だから俺は喰らう者としての覚悟を決めた」


「だからなんだって言うんだ!」


「お前はどうだ?突然人間として戦うなんて言ってみたり、信念も、己の正義も、覚悟も何もかも足りてねぇ、なのに中途半端に人を殺す、そんなお前の方が悪人じゃねぇか!」


僕にだって!


「俺は己の信念だけを信じて生きてきたんだ!最初から恵まれてたお前や桔梗に分かるはずがない、わかってたまるかってんだ!」

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