帰郷
「さて…どこに逃げるべきか、だったよね?」
あの後日が昇り始め、人が動き始めたので僕らも桔梗さんの左腕の部分をマントなどで隠しながら人混みに紛れていた。
「どこか逃げられそうな拠点とかは無いんですか?」
「残念ながら。最近だとあの拠点が一番しっかり隠されていたしね。一般のメンバーならともかく幹部や水の記憶が奪われている可能性がある以上、どこの拠点もバレてると思った方がいい」
「そう、ですか…」
今は人混みに紛れていられるからまだいいが、夜になって人が居なくなれば死神の目に簡単に写ってしまうだろう。
雑草に紛れて花が一輪咲いてアピールしていても人は気付かない、気付いても気にしない。
しかし荒野に一輪だけ花が咲いていれば何もしていなくても人の視線は自然とそちらに行ってしまう。
世の中そんなもんだ。
「あ、そうだ」
「?」
「一箇所だけ、メンバーの誰も知らない場所がある」
「どこですか?」
「万が一君が途中で疲れたりして、死神に記憶を奪われるかもしれないから先に聞かせてくれ。かなり遠いから行くならかなり急がないといけないし、そこが今どうなってるのかは私も分からない。それでも行くかい?」
「もちろんです。どうせ行く場所もあても無いですしね」
「それもそうだな」
「それで、どこなんですか?」
「私の生家であり、君の曾祖父まで住んでいた場所だ」
「それだと、もしかしたら僕の親の記憶から分かってたりしませんか?」
「大丈夫だ。君の祖母、つまり最後に住んでいた曾祖父の娘までしか知られていない。君の親は場所はおろか、存在すら知らないはずだ」
「それなら安心ですね」
「あぁ、仮に危険だとしてももうここに賭けるしか無いがな」
そこからは早かった。
人目に付く場所では極力急いでいる人間程度のスピードで、人目が無い場所は全力で動き続けた。
「フゥー…さっきから木ばっかりですけど後どれ位ですかね?」
「後ちょっとで着くはずなんだが…」
そんな会話をしていると丁度視界の先が開けてきた。
「この建物ですか?」
「あぁ、そうだ」
如何にも古民家という感じの黒い瓦の平屋が、夕日に照らされ赤く染まる。誰かが手入れをしていたのか100年ちょっと使ってない筈の割には綺麗だったり、比較的新しい物もあった。
「最後にこの家に来たのは君の祖母かな。多分4、50年前」
「だから比較的綺麗なんですね」
そんなこんな玄関のある方向に行くと、玄関の横には少し壁を挟んでからずっと縁側が続いていた。
中に入ろうと玄関の扉に手をかけたが、当然と言うか鍵が閉まっていた。
「…そういえば鍵とかあるんですか?」
「あるよ」
「あるんですか」
「うん、じゃあ蓮。拳に力を込めて」
「?はい」
「そのまま拳を扉に思いっきりぶつけるんだ」
「…桔梗さん」
「なんだい?」
「世間一般ではそれを鍵が無いって言うんですよ」
「あ、鍵はあるよ」
そう言って桔梗さんは着ている着物から幾つかの鍵がまとめてあるものを出した。
ほんとにあるんかい
中に入ってみると。まぁ、何も無かった。
「見事に何もないね」
「ですね」
「いや〜もっと物があるかと思ってた」
「桔梗さんは知らなかったんですか?」
「まぁそりゃあね。戸籍上だと私はとっくに死人だし、関われもしないからね。せいぜい外から眺めてるくらいさ」
「あれ?じゃあ何で鍵があるんですか?」
「君の祖母がぽっくりした時に、こっそり予備として玄関の外に隠してあった鍵を貰ったんだ」
盗みでは…いや、でも一応親族だし先祖だし?セーフ…か?
そうして中に入って落ち着ける場所がないか探していた時、突然玄関の方から声がした。
「こんばんはー」
…誰だろ?
「居留守をするんだ蓮。鍵を開けて入ってきそうだったら逃げるぞ」




