馬鹿
あれからとにかく逃げた。
行くあては無い。
ただひたすらに。
「くそっ」
僕の知ってる場所は大体神無や菫さん、水さんに教えて貰った場所や案内してもらった場所だけだ。
しかしその思い出の場所は、死神が菫さんや神無さん、もしかすると水さんの記憶も手に入れた今や危険地帯だ。
日常なんて意外と簡単に
何度も
何度も
何度も
壊れる。
運命なんてクソ喰らえだ。なんで僕ばっかりこんな苦しい思いをしないといけないんだ。
神や仏が居るのなら僕は全力で殴りたい。
「さて、悲しむのはここまでにしないと」
今僕は狐火隊の人に、水さんに桔梗さんを頼まれている。それすら出来ずに死んだらあの世でも殺されちゃう。
…とは言ってもどうしようかな。
人間の施設に行くのも…腕が無い桔梗さんの説明が出来ないから無理だよなぁ。
かと言って僕の知ってる喰らう者の人が居る場所や安心出来る場所はどこにも無い。
「ん…」
ようやく桔梗さんの意識が戻ったかな。そう思い僕は一度止まり、ゆっくりとしゃがむ。
「蓮…か?」
「はい」
「そうか、私は…悪かったなもう自分で歩けるから大丈夫だ」
「そうですか?無理だったら言ってくださいね」
「相変わらず蓮は優しいな…」
「…腕は治らないんですか?」
「あぁ。恐らく何らかの能力を使われたんだろう。だがあいつが一度に使える能力の数には限度がある筈だから、そのうち治るだろう」
「そうですか…なら良かったです」
「ところで私の意識が一瞬戻った時、蓮と水が居たと思うんだが。水は居ないのか?」
「水さんは…僕と桔梗さんを逃がす為に死神と戦いに」
「そうか。こんな老いぼれ見捨てればいいのにと言いたいが。私の為に犠牲になった者達や、命懸けで逃がしてくれた蓮がいるんだ。弱音は言ってられないな」
「…水さんから別れ際に伝言を頼まれたので言ってもいいですか?」
「頼む」
「水さんは桔梗さんに拾われた時から本気で惚れていた。そんな桔梗さんの為に仕えて生き、死ぬ時まで役に立てるなら満足だ。と」
「そうか。そうか…なぁ、蓮」
「はい」
「私の配下はみんな馬鹿だよなぁ」
「…はい」
その日。僕は初めて桔梗さんの涙を見た。




