散る
「逃げろ!」
水さんがそう叫んだ次の瞬間、桔梗さんの左腕が無くなっていた。
そして桔梗さんの背後には血で濡れた鎌を持つ隊員、もとい死神が居た。
「まずい」
そうその場に居た全員が思った事だろう。桔梗さんは切られた腕も回復せず、そのまま倒れそうになっている。
僕が一番早く桔梗さんの体に届き、倒れる前に何とか支える事は出来た。
しかし桔梗さんの意識は戻らない。
「桔梗様を連れて逃げろ!」
皆がそう口々に僕に向かって叫び、僕と死神の間に入る。
「おいおい、モテモテだな。残念ながら男を好む趣味は俺には無いんだが」
死神はそう言うだけで何もしてこない。僕達程度いつでもやれるという煽りか、余裕か。
どちらにせよ僕たちには都合が良かった。
「早く行け!」
僕が桔梗さんを背に乗せ、離れようとしたところでようやく死神が動き始めた。
「行くぞ蓮君!皆、後は任せたぞ!」
「おぉ!」
そう言って僕と水さんの二人…桔梗さんを含めた三人で自然と他の隊員に背を向けた。
しかし隊員達の努力も虚しく、次々と殺されていく。
「喰らう者は血が無くならない限り死なないはずじゃ?」
「俺にもよく分からんが、おそらくそういった能力を奪ったんだろう」
そうこう言っているうちに拠点が見えなくなるほどの距離まで来ていた。
水さんと二人でどこに行くべきか話し合っていた時
「おいおい、つれねぇな。逃げるなよひよっこ共」
いつの間にか僕たちの背後には血まみれの死神が居た。
必死に離れようとするが、一向に死神を引き剥がせない。おそらく死神が僕らを本気で捕まえようとしているのなら今にも捕まっているだろう。
その死神の余裕の挑発が僕に己の無力さ、弱さを実感させてくる。
「蓮君、俺が足止めをするからその間に桔梗さまを連れて逃げてくれ」
「でもそしたら水さんが」
「俺はもう長く生きたから悔いは無い。むしろ桔梗さまが殺されればそれが一番の悔いになる」
「でも」
「それに俺は桔梗さまに仕えられて幸せだった」
「…」
「それにな…今から言う言葉は桔梗様に伝えてもいいが、出来たら言わないでくれ」
「グスッ。はい」
「俺は桔梗様に拾われた時から本気で惚れていた。だから桔梗様に仕えて、側近として過ごせて、幸せだった」
「はい」
「男が一度本気で惚れた女の為に生き、女の為に仕え、死ぬ時まで役に立てるんだ。それだけで満足だ」
「…そう、ですか」
「それによ。男が本気で惚れた女の為に命を賭けて散るなんて最高にかっけぇ漢の死に際だ、これに勝る散り方はない。そう思わないか蓮君?」
「それが一番…かっこいいと思います」
「だろ?最後くらい先輩としてカッコつけさせてくれ。蓮君には俺の武勇伝を伝える役目を託すよ。だから最後くらい笑顔で見送ってくれ」
「…分かりました!水さん、託されました!」
「おう!頼んだぞ!」
そう言って水さんは一瞬僕の背中の桔梗さんに「さようなら」と言ってから立ち止まり、死神と対峙した。
「さぁさぁ死神!今度は俺が相手だ!」
「へぇ、少しは骨がありそうなやつが来たな。いいぜ相手してやるよ」
それが最後に見た水さんの、僕が今まで見た中で一番カッコイイ漢との最後の会話だった。




