マント
「さぁさぁ水君。入ってきてくれ」
そう呼ばれ部屋を出ていた水さんが戻ってくる。
「どうですか?似合ってますかね?」
「かなり渾身の出来だと思うんだけど、どうだろうか?」
僕と服屋の人がそう聞いたが、僕の姿を見て驚いている水さんの返答は若干遅れて帰ってきた。
「え、いや。これ幹部服ですよね?」
え?
「そうだよ。今回のはかなりの自信作さ」
「いや…蓮君まだ入ったばかりの新隊員なんですけど」
「え?」
「え?」
「ほんっとにごめんね。久々に桔梗様から直接の依頼だったからてっきり幹部として入ったのか、最初は別のとこで服を作ってて今回幹部になる人の為に新調する服なのかと思ってて」
この服は幹部服だったのか。
どおりで道ですれ違ったりする配下の人と違って豪華な訳だ。
「…ごめんねぇ蓮君、水君。もし駄目だったらすぐに作り直すからね」
僕と水さんは、ひとまず拠点に戻って桔梗さんの判断を仰ぐことにした。
「一応これ。幹部用のマントも用意してたから渡しておくね」
別れ際にそう言われ渡されたのは、服とは正反対に白を基調にしたマントだった。
背面には金色の糸で縁どってある桔梗の花の刺繍が施されており、正面側にはマントを留める為の金色の留め具と紫色の紐が付いている。
――拠点に戻ると、桔梗さんはちょうど作業が終わったところだったらしく、すぐに会う事が出来た。
「なるほど…勘違いで幹部服になっちゃった訳か…」
「えぇ。帰る時も大変でしたよ…」
帰る道中何度も配下の人に睨まれたり、訝しげな目で見られたり。挙句の果てには絡んでくる人もいた。
新入りが突然幹部服を着ていれば当然の反応と言えばそれまでだが…
「んー…今回は私も言葉足らずで悪かったしねぇ…せっかくこんなによく作ってくれたのに捨てたり、戻して再利用するのもね…」
「これをこのまま誰かが使う事は出来ないんですか?」
「体格も違えば能力も違うからね。能力毎に合う素材じゃないとすぐ壊れちゃうんだよ」
「蓮君も服を貰った時に身体強化系の素材使ってるからとか言われなかったかい?」
「そういえば言われました」
「他は身体強化系程じゃないんだけど、結局合わないと上手く能力を使えなくて弱体化したり、壊れたりするんだよね」
「蓮。いっその事私の側近として幹部になる気は無いか?」
「え?」
いやいや、僕が側近や幹部なんて…まぁ、水さんが止めてくれるか。
「確かに桔梗様の血脈の蓮君なら幹部にしてもいいかもしれませんね」
…いやいや!僕まだ新入りですよ?!
「僕はまだ新入りですし納得されないと思いますが」
「その時は私の姉の子孫だと言うことを伝えるから安心しな」
「それでもほぼ意味ないんじゃないですか?寧ろ身内びいきだって反感を買いそうですが…」
「その心配はないだろう。幹部と一言に言っても求められてるものは違う。だが一つだけ必ず求められるものがある。それはなにか分かるかい?」
「実力ですか?」
「それは私は求めていないね。求められるのは信頼関係さ。結局強くても、信頼が無ければ何も頼む事は出来ない。それならいっそ信頼という面で他に並ぶ者が居ない蓮が幹部になるのは何もおかしい事じゃない」
僕は答えることができずにしばらく黙っていると、また桔梗さんの方から話しかけてきた。
「そういえば蓮はマントも貰ってるんだよね水?」
「はい。貰ってきています」
「どうせならマントも着けた姿を見せてくれよ」
布越しでも分かる桔梗さんの楽しそうな感情。
「では先に部屋に置いてきているので持ってきますね」
そう言って水さんが部屋を出て、僕と桔梗さんは二人きりになった。
「ふふ。君がここに来た時といい、よく二人きりになるな」
「そうですね」
…
「幹部の話だが。蓮の好きにしていいんだよ。君も神無みたいに自由に生活したいなら私は応援する」
「ありがとうございます」
「それに私は一応唯一生き残っている君の親族として、親に代わってどんな選択をしても君の成長を見守っているよ」




