準備
「はぁ〜蓮君ほんと羨ましいな〜」
「そうですか?」
「そりゃそうだろ。桔梗様の素顔を見て、その上直接面を貰えるなんて。今まで誰も…あ、いや神無は狐の面直接貰ってたかな」
「面はともかく素顔を見た事ある人は居るんじゃないですか?布だけですし」
「今はそうだけど、昔は俺たちの使ってる様な狐の面を付けていたらしいし。布にする様にしてからも取れたり捲れないようにしてるからな…今生きてるやつだと、側近含めて蓮君以外誰も知らないんじゃないか?」
はえ〜
「それをよく思わないやつも居るだろうから気を付けろよ蓮君」
「めんどくさいですね」
「それはそうだね。気にしなければいいよ」
「ところで水さん」
「なんだ?」
「これ僕たちはどこへ向かってるんですか?」
あの部屋を出た後、自室に一度戻るのか外に出るのかと思っていたが暫く廊下を歩いて行くうちに、道が段々と暗くなっていっている。トンネルや地下道の様な雰囲気だ。
「あれ?言ってなかったか。蓮君の隊服がまだないから貰ってこようと思って」
「けどさっきから入り組んだ道とか暗い場所歩いてて、最早ここがどの高さの場所なのかも分からないんですけど」
「俺たち桔梗様の配下は人間界に馴染むように生きていてね。例えばお客さんは全く居ないのにずっと潰れない店とかもあるだろ?」
「たしかにたまにありますね」
「そういう場所は俺達の為の店の事が多い。今向かってる、隊服を用意してくれる服屋とかもな」
「何でわざわざ表立ってやってるんですか?こっそりやればいいのに」
「もっともな疑問だね。けど意外と堂々としている方が見つからないんだよ」
堂々としている方が?
「例えば服屋とかある程度個人でも普通にやってるようなのはいいよ。けど拠点を作る時とか、武器を作る時は材料も要るし目立つからね」
確かに本来何も無いはずの場所に拠点が建ってたら怪しいもんな。
「だからあえて表だって店としてやっている。例えば拠点を作るならまず不動産から土地を買ったことにして、そこから更に建築会社に依頼するって流れは何もおかしくないだろう?」
「ですね」
「それに水道工事とかもやってるんだけどなんでか分かるかい?」
「水の確保の為ですか?」
「残念不正解。さっき言ったような必要な場所や店は、必ずどこかの拠点から地下道で繋がっているんだ。そうなると地下道を作る時水道管を壊したり、逆に水道管の工事中に地下道が見つかる可能性もあるだろう?だからだ」
「なるほど…て事はここがその地下道ですか?」
「そうそう。っと、着いたよ。この階段を上がった先が目的地の隊服を作ったりしている服屋だ」
階段を上がった先は服屋の裏側だった。作ってる途中のスーツが置いてあったり、マネキンがいたり、ミシンや布が置いてあるような。
イメージする様な服屋の裏側そのものだった。
「おわっ!」
おそらく店側の扉が開くと首にメジャーをかけて入ってきた人物がそう声をあげた。
その人物に水さんが話しかける。
「蓮君。この人が俺達の隊服を作っている人だ。急で悪いんだが蓮君…この子の隊服頼めるか?」
「皆つけてくれないけど、いるならせめて部屋の電気付けてくれよ心臓に悪い…君が蓮君かい?」
「はい」
「それならもう用意してあるよ」
「「え?」」
「桔梗様から数日前…多分君が来たばかりの頃に直接頼まれてたから」
水さんから嫉妬の目を感じるが気にしない。
「ちょっと待っててくれ、今人間の方も客が来てね。適当にこの部屋でも見て待っててくれ」
そう言って干してあったスーツの一つを持って部屋を出ていった。
「蓮君、ほんとに。可愛がられてるね」
「そうですか?」
「そりゃそうだよ隊服を桔梗様から直接依頼されるなんて事絶対に無いよ」
「最初の頃とかはあったんじゃないですか?」
「いや。あの人も最古参の一人で、能力の関係で昔から服を提供してくれてるけど…最初の頃は入ったやつが直接頼んでたし、今は俺みたいに頼まれた人間と一緒に行くものだからね」
「能力の関係で…」
「あの人は血で糸を作り出して操れるんだ」
「それだといつの間にか糸消えちゃいませんか?」
「それがあの人の能力の特殊なところでね。本物の糸に血が少しでも染み込んでいれば操れるんだ。そのまま乾燥すれば普通の糸に戻るから」
「そんな便利な能力なんですね。ほんとに色んな能力があるんですね」
そんな話をしていると、出ていった服屋の人が一つの服を持って部屋に入ってきた。
「待たせてごめんね。君の服はこれだ。合わなかったら微調整するからそこの試着室で着替えて1回着てみてくれる?」
「分かりました」
「…あ、水君は外に行っててくれ。せっかくだから後でお披露目といこう」
「んじゃ適当に店に並んでる服見てます」
用意された服は黒を基調とし、胸の部分や腕の部分に細い金の糸で花の装飾が施されている。
ズボンも黒を基調としており、下から上へと伸びる植物の様な装飾が金の糸で施されていた。
「どうかな?」
「ピッタリです」
「なら良かった。君は身体強化系の能力だと聞いているから特殊な布と糸を使っているんだけど、動く時にどこか引っかかったりすることはないかい?」
そう聞かれたので腕や足を動かしてみたが、特に引っかかったりすることはない
「特にないと思います」




