喰らう者
――んん、眠い…
頭がボーッとして眠い…
…なんだろう手が暖かいな
「…?」
目を開けると部屋一面に赤い物…食い散らかされた父さんと母さんの体、血が部屋中に飛び散っている。
そして僕の手には赤い何かが握られている。
「そんなあいつ、こんな、こんな…」
いや、違う。
自分でもそう分かっている。
分かっていても僕はその事実を否定したい。
だが僕の朧気な記憶がそれを拒否する。
父さんや母さんをこんな姿にしたのは…
僕だ
「あぁ…うぁ、うわあぁあああぁぁああぁあああ」
なんで、あれは僕であって僕じゃ。いや違う、たしかに僕の意思で。でもなんで、襲った時の記憶はあるのに。なんで僕が、なんで僕が父さんと母さんを。
なんで僕は…父さんと母さんが死んだ事に対しての悲しみがないんだ…
暫くは思考がまとまらなかったが、空から光が完全に消える頃になってようやく落ち着きを取り戻した。
いや、親を目の前で襲われ、自分の意思じゃ無かったとはいえ自らの手でトドメ刺した事を考えると早すぎるくらいか…
「ふぅ…」
このまま家に居ても自分が自分で無くなってしまいそうだ。
そう思い外に出るといつの間にか雨が降っていたのか地面は濡れ、まだ雨の香りが残っている。
綺麗な夜空とは対象的に吹いてくる風はジメジメとしており、父さんと母さんの血の感触を思い出させ、気持ちいいとは思わない。いや、思えない。
「まるでぬるいサウナだな」
普段なら嫌な世界なのに今は不思議と落ち着く。
このまま雨が降って僕に染み付いた嫌な血と記憶ごと流してくれればいいのに。
そんな事を考えながら、小一時間程歩いた頃だろうか。
(あ、虫だ)
そう思い僕は特に何も思わず飛んでいる虫の羽を掴み、虫を捕まえた。そう、自然と捕まえていた。
(何故?あんな早く飛んでいる虫を僕は今何も考えずに捕まえられた。しかも羽を掴んで)
とても今までの僕ではありえない事だ。いや、人間でもほぼほぼありえないだろう。
家でも薄々思ってはいたが、僕はもう――
「人間じゃないのだろうか」
「大正解ー」
?!まずい、僕にはまだ父さんと母さんの血がついたままだ、この姿を見られて通報でもされたら…
そう思い、前後の道を見るが誰の姿も見えない。
(…一体どこから?)
「おーい、こっちだこっち。上だよ、上」
そう言われ上を見ると家の屋根の上に声の主は居た。
(こいつ、人間じゃないな…)
なんで?なんで僕は今そんな事を思った?
「君の疑問はなんで俺が人間じゃないって思ったか、かな?」
「何故そう思うんだ?」
僕は警戒しながらそうこいつに聞いた
「まぁまぁ、そんなに警戒しないでくれよ。何故かって?」
こいつはそう笑いながら言うと屋根から僕の居る道へ飛び降りて来た
「よっ」
そう言って地面に着いた途端バキッと聞いた事ない、いや今日で沢山聞いた音がした
「…っ!ってて…」
着地に失敗したのか見るからに足の骨が折れている
…にも関わらず
「いてて、カッコつけようとして失敗しちゃった」
と言うとそのまま何も無かったかのように立った。
絶対に足の骨が折れていたのに。
驚く僕をよそ目にそのままこいつは話を続けた
「さて、何故分かったか、だったよね?」
話しながらニコニコとゆっくり僕に近付いて来るこいつに僕は恐怖すら覚えた。そして僕は無意識に防御の構えを取っていた。
「はは、別にそんなに警戒しなくていいよ。君はほんとに分かりやすいね。さっきも顔に書いてあったよ」
そう言い終わってもまだ警戒している僕を見てやれやれ、と言わんばかりに更に話し始めた。
「安心しな、俺は君と同じ喰らう者だ。別に今は君の敵じゃないよ」
「喰らう者?」
僕がそう聞くとこいつは嬉しそうにニコーっとしながら話を始めた
「なんだなんだ、君は新入りか。仕方ないこの優しい優しい神無先輩が教えてあげよう。」
(いや、別に聞いてないんだけど…)
そんな事を思いながら聞いている僕を気にもとめず神無は続ける
「まず喰らう者は君や俺達の呼び名だ、最も人間は別の呼び方をしてるけどね。」
「は?僕と君が同じ?いやいや、そんな訳!」
「はいはい。んーここら辺だと…心喰いとかかな」
「は?いやいや、僕は人間…だよ…」
「またまたーそんな事言っちゃって。君も薄々分かっているだろう?」
「…いや、でも…僕は産まれた時から人間だ!」
「そりゃそうだろう。俺だって元は人間さ、心喰いを種族かなんかだと思ってたのかい?」
元が人、間?…
混乱する僕を見かねてか、神無は更に説明をしてくれた
「多分君は家族と一緒に襲われて心喰いに…分からないかもしれないが襲ってきたやつに血を吸われただろう?」
「あぁ、確かにそうだが…っまさかお前!」
そう神無に襲おうとした僕を神無は慌てて止める
「待て待て、人の話は最後までちゃんと聞いとけ若いの。そもそもな…」
神無はそこまで言いかけたところで突然ハッとして何かを思い出したように僕に時間を聞いてきた
「おい、今何時か分かるか?」
「え?えっと…0時20分―」
僕がそこまで答えると神無は話を遮り、慌てて僕の手を取り走り始める。
「まずい急がねぇと間に合わなくなる!続きは着いてからだ、とりあえず全速力で走って俺に着いてこい!」




