死と花
「…菫さん?」
いや、けど菫さんは死んでいるはずだし…これも偽物か?
「おやおや、蓮は落ち着かないようだね。落ち着かせてあげよう」
菫さんの姿をしたやつがそう言い、腕に少し傷を付けるとフワッと落ち着く懐かしい香りがしてきた。
この能力、この香りは間違いなく菫さんのものだ。
「菫…さん?なの?」
僕がそう呟くと、何か言おうとした菫さんの声をかき消すように花屋が話す。
「騙されるなよ少年」
そう言うと、一つ大きく息を吸ってから
「おい、あまり私をおちょくるなよ。死神」
そして花屋が右手に持っていた扇子で左手の掌を一度「ポン」と叩くと、菫さんの姿をしたやつ…死神の左右から深紅の薔薇が襲いかかった。
「おいおい、そうかっかするなよ。久々の三強二人の再会なんだ、仲良くしようぜ」
死神は薔薇を軽々と避けながらそう言い、自分の顔の皮を手で剥ぐような動作をした。
すると下から、喜と哀が半々になっているピエロの様な仮面を着けた顔が現れた。
「生憎私はナンパは嫌いでな」
花屋がそう答えると、花屋の背後に大きな赤い枝垂れ桜の木が形作られていっている。
それに対し死神も、負けじと鎌を作り出し今にも戦いが始まらんとする空気と二人の殺気が辺りを包む。
正直二人の間に居る僕は一刻も早く逃げたいが、足にまとわりついた彼岸花のせいで身動きが取れない。
「いいや。今日はやめだやめ。じゃあな蓮、花屋」
そう言うと死神は武器も消し、殺気も消えた。そのせいか花屋の殺気が更に強くなったように感じる。
「逃がすと思っているのか?」
「へぇ、俺を捕まえられると思ってるの?」
死神がそう言うと、視界が桜吹雪に染まり紅くなる。
次に死神のいた場所が見えた時、死神はそこにはもう居なかった。
そして足元の彼岸花も消えていた。
呆気にとられて放心状態になっていると、逃げた死神に代わるように続々と狐火隊の人達が入ってきた。
そして堕天使の配下を次々と捕まえていく。
その内の一人が僕を抑えようとした時、花屋がそれを止めた。
「この少年はいい。私が話すから別のやつを捕まえていろ」
僕を捕まえようとしていた狐火隊の人はそれを聞くと一礼をして別の場所へと向かって行った。
「さて少年。君がした事は本来なら私が許す訳は無いが神無の連れだからな、何か動機と理由があるのなら聞いてやろう」
僕は正直に今までの事を話した。花屋に前も話した親の事。菫さんのこと。そして神無との会話を。
僕が話している間、花屋はずっと神妙な顔で僕の目を見つめていた。そして僕が話終わると
「そうか、菫もか…」
「菫さんの事知ってるんですか?」
僕はその疑問を心の中に留めることができなかった。
「あぁ、仮にも元三強として肩を並べていたしな。あの二人は私が知らないと思っていたようだが、私と私のところの子達は全員知っていたよ」
布越しでも分かる。花屋は少し寂しそうな声色だった。
「まぁいい。君に特に何かする気は無いから安心しろ」
「え?僕達を罰する為に来たんじゃ?」
「いや?堕天使とその配下達は最近暴れすぎているからな。いくら三強と言っても限度がある。だから堕天使を追っていたら君達を見つけたが、手出しはせずに見ていてその後は君の知ってる通りだ」
「僕らが三強と戦ったからとかではなく?」
「そうだ。別にあいつらも喰らう者を襲ってる事もあるし助けを求められた訳でも無いからな。どうせあんな野郎共は遅かれ早かれ殺られてただろうから気にするなよ」
あぁ、何か親しい感じがすると思ったら、雰囲気が神無に似ているからか。
「まぁ丁度いい。君にも用事があったしな。どうせ来るところも無いんだろう?私たちの拠点に来な少年」
そう花屋が言うと、僕は狐火隊の人達に問答無用で連れていかれた。誘拐で訴えたら勝てそうだ。




