表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜とともに眠る  作者: 和傘


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
40/56

第38話 暴挙


こんなことをする目的は国?

そのための手段はわたし?


アイラさんの言葉の意味がまるで分からない。

困惑するわたしを守るように、ヴァイツさんが片手を広げてアイラさん達との間に立つ。


「大人しくしていただければ、傷つけるような事はしません。ロゼッタ、こちらへ来て。」


その話が信用できるかも分からないのに行くわけがない。


「あなた達は何がしたいの?詳しく聞かせて。」


アイラさんへ問いかける。

今欲しいのは情報だ。不明なことが多い今、相手の要求を詳しく聞かなければならない。

本当は危険な状態のみんなを早く助けてあげたいが、わたし達だけではどうにもならないのが現状だ。せめて砦からの応援が到着するまで少しでも時間を稼がなくては。

応援に来た人達にわたし達がここにいることをどうやって伝えるかも問題だが…。


「それはあなたがこちらに来たら教えてあげるわ。」


しかしアイラさんは話そうとしない。わたしがアイラさん達のところに来たらという条件を頑なに設ける。

わたし達だって、どんな危険があるか分からないのに不用意にアイラさん達へ近付くことはできない。

両者の睨み合いとなり、このままでは膠着状態となると判断したのか、アイラさんは疲れたようにため息を吐き、言った。


「じゃあこうしましょう?ロゼッタは私の元へ来る、そうしたらそこの竜騎士のみなさんは外へ連れ出して構わないわ。」


「!」


思ってもみない提案に動揺する。

ヴァイツさんにみんなを運び出してもらえれば、みんなはこれ以上こんな危険なところに置かれる心配はない。冷たい身体を温めたり、必要な処置が施せる。

しかし、すぐにヴァイツさんがわたしに言う。


「ロゼッタ、だめだ。相手が何を目的としているかは分からないが、ロゼッタが行けばきっと本懐を成し遂げられてしまう。…それに、騎士になった時から全員命をかける覚悟はしている。」


揺らぐわたしを諭すような言葉にハッとする。

騎士となれば、国のためや人のために命をかける覚悟を持つ。任務先での殉死は名誉あるものだと言われることも知っている。


それはわたしも理解している。時には非情な決断をしなくてはならないことも分かってる。

でも、人の命は決して軽いものではない。まだ助かる可能性のある命を見放すような決断なんか、わたしにはできない。これは騎士としてのわたしの考えの甘さだ。それは分かっているけれど…。


答えを出せずに動けないわたしを見て、アイラさんは言った。


「時間がもったいないわ。来ないなら…少し乱暴するしかないわね。」


そう言って一歩踏み出す。

何を仕掛けてくるのかとアイラさんを警戒したが、近くでフッと何かが動く気配がした。

するとすぐに、立っていられないほどの冷たい突風が身体に吹きつけた。あまりに強い風にバランスを崩して地面に手をついてしまう。


「きゃあ!!」


痛みにも似た冷たさに思わず悲鳴を上げる。

冷たさを感じる場所に視線を向けると、わたしの足は広がった氷によって地面に縫い付けられてしまっていた。急激に冷やされて震えが止まらず、ズキズキとした冷たさでうまく呼吸ができない。短く浅い呼吸を繰り返すので精一杯だ。

アイラさんは自分に注意を向けておいて、これを狙ったのかもしれない。


「ロゼッタ!」


ヴァイツさんにも風が吹き付けられたが凍ってはいなかった。わたしの状態を見てこちらへ駆け寄ろうとするのを止める。


「来ないで!わたしの近くに竜がいます!」


こんな洞窟の中で突風が吹くなんてありえない。そして、さっき感じた近くで何が動く気配…。

わたしの後ろに広がる真っ白な雪の壁を見る。


「そこにいるんでしょう。出てきなさい!」


すると、少しの静寂の後、バラバラと壁が剥がれ落ち始めた。その中から白銀の身体が姿を現し、ゆっくりと開かれた金色の瞳がわたしを見つめた。


やっぱりいた、これが彼女の竜だ…!


この状況に焦ったのはなぜかアイラさんだった。


「どうして出てきてっ…!…いいわ、その男の竜騎士も凍らせて!」


初めてアイラさんが表情を崩した。焦りながらも、白銀の竜へヴァイツさんを攻撃するように言う。

その言葉に従うように、白銀の竜の目がヴァイツさんを捉えた。再び、触れたものを凍らせるほど冷たい息をヴァイツさん目掛けて吐こうとしている。


「だめ!逃げてください!」


わたしは必死に叫んだ。

しかし、ヴァイツさんは白銀の竜を見つめたまま動けないでいる。経験を積んだ竜騎士団副団長さえ、その存在感に気圧されてしまっている。突然姿を現した古竜独特の重い空気に呑まれていた。

わたしが助けなきゃいけないのに、動かない足では駆けつけられない。


その時、わたしのすぐそばから走り出し、ヴァイツさんを突き飛ばした人影があった。倒れたヴァイツさんは、その衝撃で我に返り、自分を突き飛ばした相手を見た。


「…!レイド!」


ヴァイツさんを守ったのはレイドだった。

レイドが意識を取り戻したことに一瞬ホッとしたが、地面に倒れ込んだレイドを見て息を呑む。その身体を覆うように氷が張っているのだ。


「レイド!レイド!」


すぐにヴァイツさんが駆け寄り、レイドに呼びかける。しかし、返事はない。

わたしから見えるレイドは、顔を辛そうに歪めて浅く短い呼吸を繰り返している。ヴァイツさんはレイドの名前を呼びながらりナイフを取り出した。そしてその柄で、レイドと氷の境界を割り崩そうと何度も叩く。


白い顔で苦しそうに呼吸するレイドと、レイドを必死で助けようとするヴァイツさん。


わたしは怖くてたまらなかった。

こんなことが目の前で起こっても、まるで何も感じていないような目で彼らを見ているアイラさんが。


そして何よりも、大切な人を傷つけられることが。


身体の奥を震わせるような恐怖と怒りが湧き上がった。火花が散るように、稲妻が轟くように、一瞬の爆発的な衝撃が身体中に走り、わたしの目は燃えるように熱くなった。

そしてわたしは一瞬で理解した。


わたしは今、ナクティスと瞳を共有していることを。







…………………………


〜とある町民視点〜



あの子は大人しい目立たない娘だった。

小さい頃から身体が弱くて、家に閉じこもってばかりの生活をしていた。

学校にもあまり行けず友達も少なかったようだが、近くに住むラルフは遊びに通っていたようだ。ラルフは明るくてやんちゃだが、優しい子だとみんなが知っていた。


アイラの家はずっと昔、それこそこの町ができた頃から続いている家だと聞いている。なんでも、尊い血の方がここに飛ばされてしまったのだとか。貴族にはよくある話だというし、それに遠い過去の出来事だというので、今は町の他の人々と変わらない暮らしを送っている。


あそこの家の近くを通った子供達は、その家のじいさんが怖いと口を揃えて言った。ぎらぎらした目をしていて、大人でもビクリとすることがあるくらいだ。それでも、孫娘のあの子といる時は優しく穏やかな顔をしていて、その光景は微笑ましく映った。


そのじいさんが亡くなった時、アイラは行方不明になった。結果としてラルフが雪山で見つけて連れ戻したのだが、戻ったアイラは、大人がどうしたのか聞いても何も言わなかった。そして、より一層家に閉じこもるようになってしまった。


それでもラルフはアイラに会いに行っていたようだが、ラルフは竜騎士になるという夢を抱いてこの町を出た。



それから何年経っただろうか。つい先日、竜騎士が訓練中の滞在地としてこの町に来ると報せがあった。ラルフが無事竜騎士になったことは町中が知る出来事だったし、滅多に見れない憧れの竜騎士が来ると知って町は沸いた。


そして待ち望んだ日、町の外れの広場に竜が降り立ち、竜騎士達が町の中心部にやってきた。


「あれが竜騎士か…。」


「すごい!かっこいー!」


初めて竜騎士を目にした者も多い。特に子ども達は、目をキラキラさせて彼らを見つめていた。


「あ!ラルフだ!おーい!」


青い制服を身に纏ったその人達の中に、見覚えのある顔を見つけた。名前を呼ぶ声に気付くと、微笑んで手を挙げて応えている。


「え、あれラルフなの!もっといたずらっ子だったじゃない!」


「あんなに格好良くなって…!」


幼い頃のラルフを知る者は、ラルフが大人として成長していることに感心した。若い女の子達はそんなラルフを見て黄色い声を上げている。


しかしラルフだけでなく、こうしてみると竜騎士のみなさんは目を引くものがある。

団長と呼ばれる赤髪の方は渋くて良い男だし、にこにこと笑顔を振りまいている若い男性も人が良さそうだ。赤髪を束ねたハツラツとした女性は同性からも人気を集めるほど魅力がある。そして、ラルフと親しげな銀髪の男性は、中性的な美人で男女問わず注目を浴びた。


町民達の間には特別なものは用意しなくて良いと通達されていたが、めったに見られない竜騎士と、帰ってきたラルフをもてなそうと宴会が開かれた。



俺は宴会でラルフと話そうと思い探したが見つからなかった。ラルフを見た人によると、アイラの家に向かったそうだ。

町を離れる前まで仲良かったもんなと思い返す。最近めっきりアイラの姿を見ていない。ラルフと会って、少し外に出られるくらい元気が出たら良いんだが…。


竜騎士のみなさんは仕事だからとお酒は飲まれず、食事をほどほどに召し上がっていた。盛り上がっているのはどちらかというと町民の方だったが、まあこの雰囲気も町の良さだよなと改めて思った。


しかしその日はなんだかいつもより肌寒く、早々にお開きとなった。宴は予想より早く終わってしまったが、みんな気分を良くして帰宅し、眠りについたのだった。



翌日、朝日が昇るより前、凄まじい音と振動で目が覚めた。

驚いて家の外に出ると、まだ身支度も整わないままのみんなも外に出て何事かとあたりを見回していた。

気がつくとちらちらと白いものが舞い始め、俺はそれが何だか一瞬分からなかった。しかしそれが手のひらの体温で溶けるのを見た時、雪だと気がついた。

こんな時期にありえない。目の前の光景は、驚きと不気味さに満ちていた。


「なんだよ、あれ…。」


すると一人が呟いた。その視線の先を見ると、町外れの小高い丘の上に、何かが動いているのが見えた。


「みんな家から出るな!」


「!ラルフ、一体何が…。」


ラルフがみんなに呼びかけながら、小高い丘へ向かって町を走り抜けていく。何があったのか聞きたかったが、空がフッと暗くなり見上げた。すると、空を竜騎士の竜が飛んでいくのが見える。


そして、小高い丘の上でうごめいていたものが空に飛び上がった時、それもまた竜なのだと気が付いた。


登り始めた朝日を受けて輝く白銀の竜。それはまさしく、この地に昔から伝わる御伽噺の竜のようだった。


「本当に竜がここにいたの?」


「きらきらしてる…。綺麗。」


この地の竜はずっと氷が溶けない山に眠ると言われていて、そんな山の存在は無いものだと思っていたが、竜は本当にいたのだ。



だが、飛んで行った赤竜と、それと対峙した白銀の竜がぶつかり合った。

なぜあの竜達は争っているんだ?赤竜は竜騎士の竜のはず。どうしてこの町の竜を攻撃しているんだ?

赤竜だけではない。空には緑竜達も白銀の竜に対峙するように飛んでいる。


「危険です!早く建物の中に入って!」


地上では竜騎士達が建物の中への避難を呼びかけている。俺は状況が飲み込めず、近くに来た赤髪の女性騎士にたずねた。


「一体何が起きているんだ!?あの白銀の竜はこの町を守っているという竜じゃないのか?なんであんたらの竜に攻撃されてるんだ!?」


「町を守っているですって?本当にそう見える?おそらくあの竜がこの町に異常気象を起こしているわ。」


あの竜が異常気象を起こしている?

この雪はあの竜の仕業だというのか?


事態が飲み込めない俺達に、女性騎士は続けて言った。


「このままではこの町は冷えて雪に飲み込まれるわ。避難ルートを確保するからそれまで家で待機してください!」


俺の隣のおばちゃんが、縋るように女性騎士へ問いかける。


「あ、あなた達竜騎士は、竜の言葉がわかるんでしょう?あの竜を説得することはできないの?」


「…あそこまで古い竜だと、私達でも言葉は分からないわ。」


拳を握りしめ悔しそうに吐かれた言葉に、俺はやっと危機感を抱いた。


俺たちの会話が届かない距離にいる住民は、現れた竜に戸惑いながらも見惚れていた。しかしそれも束の間、すぐにみんな気がついた。それは恐ろしい存在なのだと。



白銀の竜が口を大きく開いたかと思うと、赤竜へ真っ白な冷気を吹き付けた。間近でそれを浴びてしまった赤竜は、悲鳴と共に落ちていく。あんなに立派な竜が、一瞬で。


そして、白銀の竜の口がこの町に向けられた。


まさか、とは思ったが、向けられた口からは絶対零度の吐息が吐かれた。

向こうの方から瞬時に何もかも凍っていく。


悲鳴を上げて建物の中にみんな逃げるが、俺はその恐怖に足がすくんで動けないでいた。

子供の頃から憧れを抱いていた竜という存在が、いとも簡単に日常を壊していく。目の前の光景が信じられず、震える足は動かすことができない。


そんな俺を庇うように、女性竜騎士が手を広げて俺の前に立ち塞がった。

ああ、だめだ、この人もろとも…。



反射でギュッと目を瞑った。ぶるりと震える冷たさが身体を包んだが、しばらくしても意識はハッキリとしていた。

不思議に思いおそるおそる目を開けると、俺たちは凍っていなかった。しかし。


「アル…!!」


女性騎士の悲鳴が聞こえた。

そしてハッとする。

俺と女性騎士を守るように緑竜が壁となっていたのだ。そのまま、その竜は地面へと崩れ落ちた。


女性騎士が駆け寄り、何度もその竜の名を呼ぶ。悲痛に響く声に俺は立っていられなくなり、冷たい地面に座り込んだ。


周りを見渡せば、見慣れた町は氷と霜に覆われていた。


今俺の目の前で起こったことと同じように、町民や竜騎士を守ったのであろう竜達が地面に伏している。そして、力無く横たわる人影にも気がついた。


「ラルフ…!」


あの冷気に当たってしまったのか?

まさかラルフ、死んでないよな…?


寒さからか、恐怖からか、奥歯がガチガチと鳴る。

こんなにも一瞬で全てを変えてしまう力があるなんて。



羽ばたく音がどんどん近づいてくる。白銀の竜はすぐそこまで来ていた。

震える手を握りしめながら見ていると、ラルフが倒れている白銀の竜のほぼ真下に、人影があることに気がついた。冷たい霧が少し晴れた時、ラルフのそばに膝をつく人物を見て驚く。


「何してるの!そんな所にいたら危ないわ!こっちに来てアイラちゃん!」


パン屋のおばちゃんが家の扉を開けて叫ぶ。

そう、そこにいたのは滅多に外に出ないはずのアイラだった。

もうそこまで竜が来ているのだ。逃げなければと住民達はアイラに声をかける。


だが、アイラは立ち上がると柔らかく微笑んで見せたのだ。


「大丈夫ですよ。これ以上の被害は出ません。」


何を言っているんだと困惑したのも束の間、アイラのそばにゆっくりと白銀の竜が降り立った。



…まさか、まさか。


「みんなを傷つけるつもりはないの。お願い、大人しく言うことを聞いて。全部終わればちゃんと元に戻れるわ。」


優しい声音で言葉が紡がれたが、傍の白銀の竜の暴挙を見た後では、それは脅しに近かった。

お願いなどではない。だって、我々に拒否権など無いのだから。



しんしんと降り積もる雪の中、アイラの誘導のもとこの場所に身を寄せることになった。


最初に凄まじい音がした時に空いたのか、昨日までには無い洞窟が山の中にできていて、俺たちはみんなそこに集められた。

竜を失った竜騎士達も、白銀の竜を従えたアイラには逆らえず、大人しく洞窟へと来た。気を失ったラルフは、竜騎士団長に抱えられている。


時が来たらみんな町に帰れるから大人しくしていてねと言って、竜騎士達を連れてアイラはいなくなった。


みんなで身を寄せ合い寒さを凌ぎながら、あの子はどうしてこんなことをと、繰り返し考えた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ