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竜とともに眠る  作者: 和傘


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第37話 捜索


町の人達が逃げていくのを見たという鳥に従って雪道を歩く。

道は細くて竜が通れるほどの広さはない。ナクティス達にはさっきの丘の上に待機してもらって、ヴァイツさんとわたしで行けそうな所まで歩くことになった。

雪が降り積もり歩きにくく、雪道はこうも体力を消費するものだと知る。気温は低いが動き続けていると汗ばんでくる。

歩きつつ町の方を振り返り、奇妙だなと思う。


「ヴァイツさん、どうして町にだけ集中的に雪が積もっていたんでしょうか。」


町は建物が埋もれるくらいの雪の量だったのに、それと比べるとここはそんなに積もっていない。まるで、町だけを狙って大雪を降らせたような…。


「俺もちょうどそのことを考えていた。少し町から離れただけなのにここは明らかに雪が少ない。ここに住まう古竜が町を狙って雪を降らせたと思って良いだろう。理由は分からないが…。」


町に恨みがあったのか、それともただの偶然か…考えを巡らせながら歩く。



先導する白い小鳥は「こっちだよ。」と迷いなく進んでいく。

本当の冬なら葉も落ちて草木もほとんどないはずなのに、青々と茂る草木に雪が積もっている景色はとても不思議に感じる。雪に覆われて町の全貌はほとんどわからなかったけど、ここはラルフの生まれ故郷だ。この森にも遊びに来ていたのかな。

…故郷がこんなことになって悲しい思いをしているはずだ。故郷が好きだと話していた姿を知っているだけに、ラルフの心情を思うと心が痛む。



そのまま歩いて見えてきたのは、小高く盛り上がった丘にぽっかりと空いた穴だった。


「もしかして、あれでしょうか。」


分厚い雪に覆われた地面がぼこっと隆起したような見慣れない地形だ。

出発地点からそんなに距離は歩いていないと思うけど、慣れない雪道で思ったより疲弊する。深呼吸して息を整えると、肺に入ってくる空気はひやりと冷たい。この寒さではあっという間に体力を消耗してしまいそうだ。


「見つかってよかった。ここからどうするか…。」


ヴァイツさんはそう言って顎に手を当てる。一度戻って増援を待ってから中に入るか、それともとりあえずこのまま進んで人々の安否だけでも確認するか。

すると、案内を終えた小鳥はピチチと鳴いてどこかへ飛んでいってしまった。お礼を伝える暇もなかったと思っていると、洞窟の入り口に女性が一人佇んでいることに気が付いた。目配せをするとヴァイツさんも気が付いた。


「町の方ですか!ご無事ですか?」


40〜50代といった年齢の色白の女性だ。ヴァイツさんの声掛けでわたし達に気がついたようだ。

わたし達が近くまで寄ると、こちらをじっと見つめた後に口を開いた。


「あなた方のその制服…、もしかして竜騎士の方ですか?」


疲れが滲んだような細い声だ。住んでいた町があんなことになってしまっては無理もない。

ヴァイツさんが優しく返答する。


「はい、こちらの町に竜騎士が滞在させていただいたかと思いますが、その仲間です。今回はとても大変な思いをされましたね。町の皆さんと、竜騎士達はどちらへ?」


「…この先に、みんなおります。」


女性はそう言って白く細い指で洞窟の奥を指した。

「案内いたします。」と言うと、そのまま洞窟の中へ入って行く。ヴァイツさんと顔を見合わせ、その女性の後をついて行くことにした。



洞窟の中は暖かいわけではないが、風が無い分、外よりも幾分か過ごしやすい。

入り口の穴も大きかったけど中も広そうだ。

先頭を歩く女性はこの先にみんないるって言ってたけれど、竜達も一緒にいるのだろうか。無事でいてくれるといいけど。


気になっていたことを女性に聞いてみる。


「失礼ですが、あなたは洞窟の入り口で何をしていらしたんですか?」


問いかけると、少し間を置いて答えた。


「外の様子を確認しておりました。誰か人が来ないか見ておかなければと。」


逃げ遅れた人が後から来ないか見ていたのか、または救助が来ないか見ていたのか。口数少なく答える女性は必要最低限のこと以外は話さない。突然こんなことがあって心身ともに疲れてしまっているのだろう。


すると、今度はヴァイツさんが怪訝な顔で質問する。


「女性一人でですか?町の男性は…いえ、私達の仲間の騎士達は怪我でもしているのでしょうか。それとも、町民の方の怪我などで動けない方に付いているとか。」


「怪我は誰もしていないと思いますが、何故です?」


「いいえ、ただ…。先ほどあなたが洞窟入り口でしていた見張りのようなことは、本来なら騎士達の仕事だと思いまして。」


ヴァイツさんの言うように、市民の安全確保をするのは騎士の仕事だ。この女性がやっていたことも本来は騎士が行うべきものだ。

しかし、洞窟の周りに仲間のみんなの姿はなく、この奥に町民達と一緒にいるという。何か事情があったとしても、騎士のうち誰かはわたし達に連絡する手段を探したり、周囲の状況確認に出ていそうなものだが…。


なんだか少し、おかしい気がする。

洞窟の中は静かで、わたし達が歩く音が響くだけだ。ここに人がいるのならば、もう少し誰かの声が響いたり、人の気配を感じたりするものではないだろうか。


歩きながら、ヴァイツさんがそっとわたしとの距離を詰めてきた。何かがおかしいとヴァイツさんも警戒している。


そんなわたし達を他所に、前を歩く女性は淡々と進んで行く。そのうち、道が二手に分かれた。左は細めの道、右は広い道で、迷わず右へ進んで行く。


「もう少し、この先です。」


細い声で言われた言葉の通り進めば、ひんやりとした風を感じるようになってきた。外に近い場所なのだろうか。


「これは…。」


広い空間に足を踏み入れ、その景色に驚く。

地面も壁面も、大きな氷の結晶で覆われているのだ。

キラキラとしていてまるで宝石のように綺麗な結晶達を歩きながら眺める。神秘的な光景に、こんな時だというのに感動すら覚える。


すると女性がピタリと立ち止まり、私達の方を見た。そして感情のわからない声で尋ねた。


「動物の声が聞けるのはどちらですか。」


ドキンと心臓が跳ねる。


「動物の声?私達は竜の声なら聞こえますが。」


間を置かず、ヴァイツさんが至って自然に答える。

わたしも感情が表情に出ないように気をつけて頷く。

しかし心の中では大きく動揺していた。この女性は、竜の耳のことを知っている?なぜ突然そんな質問をするの?


「あの、ここには誰もいないようですけど、他の人はどこにいるのでしょうか。」


黙り込んだ女性が怖く感じる。でも、案内されたここには誰もいない。動揺を隠しながら努めて冷静に質問すると、まるで思い出したように「ああ。」と呟き左側を指差した。


「そこに。」


「え…?」


指差された先には、氷の結晶があるだけで何も無い。


…いや、違う。もしかしてあれは。

気付いてしまった事実に、サッと血の気が引く。声すら出ず、震える手で口もとをおさえる。


「なんということを…。」


青褪めて絶句するヴァイツさん。


女性が指差した場所にはいくつも氷の結晶があった。しかしそれはただの氷ではなかった。その中に見える、燃えるような赤、綺麗な水色、よく見慣れた緑色…。みんなの竜が、まるで眠っているかのように氷に閉じ込められていた。



これは間違いなく、ここにいる古竜の力だ。

そして、古竜と絆を結んでいるであろう人間の仕業だ。

竜と絆を結んだということは、竜を慈しむ心があるということ。それなのに、どうしてこんなに酷いことができるのか理解できない。

怖さと悲しさ、そしてどうしようもない怒りが沸いてくる。



「竜騎士達はどうした。」


地を這うような冷たい声でヴァイツさんが問う。

もう、相手を気遣う言葉遣いはしていない。今わたし達の目の前にいるのは、罪を犯した可能性のある人間だ。


ヴァイツさんの剣幕に無表情だった女性もさすがに気圧される。ゴクリと喉を鳴らして半歩後ろへ下がった。



「死んではいません。暴れられては面倒なので大人しくしてもらっています。町のみんなもこの洞窟内の別の場所にいます。」


おもむろに氷の影から人影が現れた。わたし達をここまで案内した女性に似た、若い女性だ。色白で背が高いがとても痩せている。


「休んでいなくちゃダメじゃない!」


するとその子を見るなり、無表情だった女性は慌てて駆け寄った。心配そうに背中をさすっていて、先ほどまでの様子とは大違いだ。


若い女性は「大丈夫だよ」と安心させるように微笑む。そしてわたし達を見たかと思うと、今度は右側を指差した。

その瞬間、パキリッと音を立てて右側の氷が割れる。その中から滑るように倒れたみんなが出てきた。


「…っ!」


駆け寄らずにはいられなかった。

団長も、フォードさんも、ヴァネアさんも、レイドもラルフも…みんな白い顔で力無く倒れている。

急いで全員の首元を触って脈をたしかめる。


脈はあるし、息もしている。…でも身体は冷たい。


「みんな生きています。でも身体がとても冷たい。はやく温めないと…!」


ヴァイツさんへ向かって叫ぶ。みんなが生きていることに安堵したが、それでも厳しい状況に変わりはない。どうして、どうしてこんなこと。

周りを見渡すが、ここは氷ばかりで何も無い。

みんなの冷たい身体を手でさすることしかできない。


「君は、アイラだね?そしてあなたはその母親か。一体何の目的でこんなことをする。…自分達のしていることが分かっているのか!」


ヴァイツさんの怒号に母親は怯むが、アイラさんの方は全く動じていない。


「私のことはラルフから聞いたのですか?ラルフったら、なんでも喋っちゃうんだから困ったわ。」


困ったと言いながらも、おかしそうにふふふと笑う。わたしはそんな彼女の態度が許せなかった。


「…何がおかしいの、こんなことをしておいて。ラルフは悩みながらもあなたに会いに行くことを選んだのよ。あなたのことを大切に思っているからよ!」


あんなに苦悩していたラルフの心情を軽んじられるような態度が我慢できない。


「大切、ね…。」


そんなわたしの言葉を聞いて、一転、アイラさんは暗い表情になった。少しの沈黙の後にわたし達を見て言った。


「何の目的でと仰いましたね。私の目的はこの国です。そしてそのための手段はあなたよ、ロゼッタ。」


アイラさんの暗い目がわたしを捉えた。




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