第51話 爆発
View of ガルラ ミルオース中央皇国所属 英雄
統制卿から登城するように言われていたのだが、うっかり寝過ごしてしまった。
恐らく先日皇都にやってきたエインヘリアとかいう国関係のことでの呼び出しだろう。
いや、ちゃんと行くつもりはあったのだ。
だが、少々……昨夜、酒を飲み過ぎたというか、気付いたら知らない宿で寝ていたというか、知らない女が横に居たというか……そんな感じで少々大変だったから仕方ない。
今から城に行ってもいいのだが……既に日が落ちかけているし、さすがに謁見はもう終わっているだろう。
今更城に行って小言をぐちぐち言われるのも面倒だしな……酒場にでも行くか。
そう考えた俺が踵を返そうとしたところ、遠くの方から小さな爆発音がした。
反射的に音がした方を振り向くと……城から黒い煙が上がっていた。
な、なんだ?
まさか、城で誰かが暴れているのか?
これは、さすがに城に行かない訳にはいかない。
俺は即座に飛びあがり、近くの建物の屋根に乗るとそこから城に向かって駆け出す。
城から上がる黒煙は大した量ではないが、そもそも城から黒煙が上がること自体が大問題だ。
しかし、一度爆発音が聞こえたがその後は特に何も聞こえてこない。
どういう状況かはわからんが……寝坊したのはマズかったか?
焦燥を覚えつつ、足に力を込めて一気に城壁を蹴り上がっていき城の外壁に飛びつく。
その瞬間、再び爆発が起こる。
壁に大穴が開いているので爆発があった場所はすぐにわかるが……何が起きている?
不思議と争っているような気配は感じられないが……俺はそんなことを思いつつ、気配を殺しながら外壁をつたって大穴へと近づく。
「はぁ!?だから!なんで壊れないのよ!」
聞こえて来た声は……確認するまでもない、ウェティカのものだ。
あいつが苛立っているのは珍しくないが……となると、先程の爆発はアイツの魔法ということだろう。
しかし、いくらアレが我儘で自尊心が高く、他人を見下すことを基本姿勢としているガキでも、さすがに皇城の中で壁に穴が開く程の魔法を放つことはしない筈だ。
何があった?
疑問に思いつつ、気配を殺したまま壁に開いた大穴から城の中へと入る。
位置的には謁見の間だが……どうなっている?
部屋の中が滅茶苦茶になっているのは予想通りだが、何故か部屋の中央に巨大な椅子のような物が鎮座している。
そして部屋の中に居るのはウェティカの他にはスケリアットだけ……。
危険は……なさそうだな。
「スケリアット、なにがあった?」
俺は気配を殺すのを止めてスケリアットに話しかける。
ウェティカを相手にするよりは遥かに楽に話が聞けるからな。
「ガルラか。随分遅かったじゃねぇか」
「……色々あってな。それよりアレはなんだ?」
俺が視線で示すと、スケリアットは表情を変えずに口を開く。
「エインヘリアとかいう連中が作った玉座だとよ」
「玉座?」
どういうことだ?
何故部屋の中央に玉座を……?
「詳しくはカレンツォのおっさんに聞いてくれ。俺たちはアレの破壊を頼まれたんでな」
「……お前が壊せばいいだろう?ウェティカの魔法なんて使えば……」
壁に大穴が開いて、謁見の間はぼろぼろ……無論全力で魔法を撃ったわけではないだろうが、それにしても被害が大きすぎる。
そこまで考えた俺はとんでもない事実に気付いてしまう。
……ここまで謁見の間をぼろぼろにする威力で魔法を撃ったのに、その玉座とやらは壊れている様子がない。
「アレはエインヘリアの連中の魔法で造られた椅子だ。俺もかなり本気で殴ったがびくともしねぇ」
「信じられんが……」
この部屋の惨状を見る限り、嘘ではないのだろう。
というか、スケリアットが自分で壊せなかったなんて嘘をつく筈がないしな。
「謁見の間をある程度壊してもいいとは言われたんだがな」
「それでウェティカが魔法を……」
しかしその結果壊せなかったと……ウェティカが苛立つのも当然だな。
「土台ごとぶっ飛ばすくらい殴ってもいいが、街の方に飛んで行くとまた面倒だろ?どうすっかな」
「街にまで被害が出ると後始末が面倒そうだな……」
「だからウェティカに任せてんだが……」
床をバンバンと踏みつけながらイラついているウェティカ……その姿はどこからどうみても躾のなってないガキだが、その魔法は間違いなくこの国でもトップクラス。
彼女に壊せないとなると、まともな方法でアレを壊せる奴はこの国に居ないということになる。
……俺がここに居ても仕方ないな。
「俺は統制卿の所に向かう」
「あぁ」
ウェティカに目を付けられる前……早々に俺は謁見の間を離れて統制卿の執務室へと向かうことにした。
「城ごとふっ飛ばすわよ!」
「それはやめとけ……」
統制卿に避難するように進言するか?
「随分と厄介な話ですね」
「これ以上ないくらいいいように転がされた。あれに謀略を仕掛けられていると思うとぞっとしないな」
「すぐに監視を開始します」
俺の言葉に重々しく頷く統制卿。
統制卿から、エインヘリアについて色々と情報を聞いたが、やはりエインヘリアの王が相当な曲者のようだ。
まさか正面からこの国と戦おうとする国があるとはな。
だが、謁見の間に作られたあの椅子……ウェティカやスケリアットが手を焼くような魔法を使うような連中だ。
ただの蛮勇ということもないだろう。
しかし、どうしたものか。
向こうの言葉もわからないし、相手の本拠地は海の向こう……本格的に情報を集めるには海を渡る必要があるにも拘らず、エインヘリアの位置を知る第七艦隊は敵の手の内。
いや、待てよ?
王都に来ていた第七艦隊の者たちの所在が掴めないとは言っていたが、サレーン港にはまだ第七艦隊の者がいる筈。
エインヘリアの者たちが国に帰る為にも船員は必要だしな。
統制卿もそのことには気付いているだろう……既に伝令を送っているか?
……連中の監視も必要だが、可能であれば帰りの船に潜入してそのままエインヘリアまで行けないか?
「統制卿、一つ頼みたい事があるのですが」
「なんだ?」
「サレーン港にいる第七艦隊の者たちと船……それらに手出しをしないでいただきたい」
「……潜入するのか?」
俺の要望一つで統制卿は何を狙っているかを理解する。
「相手の情報を得るにはそれが一番かと」
「ふむ……しかし、一切手を出さないというのは逆に怪しくないか?」
「エインヘリアの者たちが国の外に出るまでは囲むだけで手を出さない……というのはどうでしょうか?宣戦布告の為に自ら敵国に乗り込んできたエインヘリアの王に敬意を示す……という建前で」
それならば、民にも言い訳が利くだろう。
「わかった。そちらの方向で調整する。それと、恐らくエセリアス卿がエインヘリアに接触している筈だ。監視を始める前に話を聞いておくと良い」
「畏まりました」
エセリアス卿か……相変わらず動きが速い。
情報……特にエインヘリアの王に関するものがあれば助かるな……。




