第49話 王様
ミルオース中央皇国に遥々やってきた俺は、王城の謁見の間でいきり倒した。
それはもう、フィオが聞いていたらドン引きするくらい煽り散らかしたんだけど……予想以上に相手さんは冷静だったんだよね。
俺的にはもっとイケイケな感じというか、うちに喧嘩売ってんのか?おぉん?みたいなのをイメージしてたんだけど、極力戦争にならないように苦心しているように見えた。
多分、これ以上戦線を広げたくないってのが大きいんだろうけど、こちらの情報が全然得られなくて得体が知れなさすぎるってのもあった筈だ。
まぁ、逆の立場だったら……正直頭下げてでも戦争は避けたいと思う。
俺とやり取りしていたのは、統制卿という国内を安定させることが仕事の人だし……そりゃ戦争を避けられるもんなら避けたい筈だ。
まぁ、こっちは聞く耳を持たずに開戦じゃ!ってなってたからどうしようもないんだけどね。
統制卿は……厳格そうなおっさんって感じだったね。
常に眉間に皺が寄っていたし……カイゼル髭だし……。
そういえば俺とやり取りしたのは統制卿だけだけど、他にも目立っている人はいた。
一番目立っていたのは、統制卿の横に居た横にとても大きな老人……商流卿だね。
あまりの横幅の広さに、覇王ムーブ中だというのに思わず二度見しそうになった。
四大公の中で最年長らしいけど、体重も最重だろうね。
ただ、中々油断のならない人らしいけど……今回は全く動きを見せなかったからよかったよ。
次に目立っていたのは……農務卿だね。
ぱっと見、将軍っていうか、女傑って感じのおばちゃ……お姉さんだ。
こちらに向ける目も野獣というか……獰猛な感じで目ぢからが凄かった。
戦場で兵を指揮しながら、最前線で剣とか振ってそうな感じ。
しかも片手剣じゃなくて両手剣サイズの奴を片手で……。
そして最後……ある意味めっちゃ目立っていたのは、玉座に座っていた神皇だろう。
謁見の最中……一言も喋らなかった。
というか、あの野郎……寝てやがったんだよね。
姿勢はしゃきっとしてたし、なんか顔がはっきり見えないようなヴェールみたいなのを着けていたけど、アレは間違いなく完全に寝てた。
謁見の最中に寝るとか……緊張感がないにも程がある。
俺なんか、緊張しすぎて口から言葉以外の物も出そうだったというのに……。
あんな場所で寝るとか肝が太すぎるだろ……っていうか、結構騒がしくしてたってのにピクリとも反応しなかったからな。
……不自然なまでに動きがなかったし、もしかしたら椅子に固定されてたのかもしれん。
俺も立場上少なくない数の王様ってのを見てきた。
周りの状況に苦心しながらも自国が生き残る術を模索し続けた王。
隣国と張り合いながら他国に侵攻して逆に潰された王。
よくわからない選民思想に殉じた王。
強大な国を安定させた王。
自国の為に他国を攻めた王。
親である王を殺して自滅した奴もいたな。
本当に色んな王様がいたけど、誰もが王というややこしい立場に対し真剣に向き合っていた。
だから……あれ程までにやる気のない王は始めてだな。
国政に関しては統制卿が牛耳っており、神皇ってのは傀儡……ってイメージだったけど、傀儡というよりも、アレはホントに玉座にいるだけって感じだ。
まぁ、その王を選んだのは四大公な訳で……やりやすい相手を選んだだけなのかね?
第七艦隊の連中は神皇の情報を全く持っていなかったけど、ただ単に表に出ることがなかっただけかもしれない。
……神皇のことは置いておこう。
謁見が終わった後、速攻で農務卿から面会の申し入れがあったのはビビったね。
仕事ではなく私事と言っていたけど、立場が立場だしそれはあまり許されないと思う……といっても、ミルオース中央皇国的に問題があろうが、俺には関係ないのでそのまま話を続けることにした。
しかし、農務卿と話をして思ったけど、ミルオース中央皇国は大陸一つを統一していることもあり、国土が広すぎて国への帰属意識が薄いのかもしれない。
女傑って感じの農務卿だったけど、戦争とか私の領分じゃないし好きにすれば?って感じの態度だったしね。
国の最高権力者である四大公の一人がそれってダメでしょ……。
まぁ、農務卿の領地に攻め込んだら激怒しそうなタイプではあるけどね。
恐らくこちらが攻めるとしても北から……外征卿の領土からって農務卿は考えているんだろうね。
北側が攻められている間にこちらと良い関係を築くことができればって感じかな?
策謀を好むというか、陰湿そうな雰囲気は全く感じられず、どちらかといえば正面から殴り合おうぜ!って感じのおば……お姉さんに見えたけど、相手は四大公の一人。
その見た目通りの相手とは思わない方がいいだろう。
というか、俺がそういう駆け引きで勝てるとは欠片も思わないので、全部キリクたちに任せる所存。
彼女が面会の申し入れをしてきた時点で、キリクにどうするか確認は取ってある俺のムーブは完璧です。
とりあえず細かい話はせずに、見送りに来てくれたらいいもの見せてやるよと誘っただけで面談を終わらせることができたので、余は大満足である。
「フェルズ様、大使館となる物件を確保出来ました。統制卿へその旨を伝え……フェルズ様が皇都より出立次第、外交官として動こうと思います」
農務卿が帰った後から外出していたバーシェルが土地の確保ができたことを報告してくれる。
ってか、昨日の夕方から今まで探してたの?
もうそろそろお昼だよ……?
外に出ていたのはバーシェルとオトノハとジョウセン……何事もなく無事に戻って来てくれたようで何よりだけど、皆徹夜?
まぁオトノハとジョウセンは移動中に寝ればいいかもだけど……いや、オトノハはともかくジョウセンは護衛だから多分寝ないだろう。
大丈夫かな?
外交官が本格的に動き出すのは俺が皇都を出てから……バーシェルは外交官としてだけではなく大使としての仕事もあるから大変だろうな。
いや、普通に夜帰って来て寝てたかもだけど……。
「こちらは任せる、バーシェル。ウルルたちもすぐに動き始める予定だが、大使として全権を委任されるお前の負担は大きいだろう。よろしく頼むぞ」
「はっ。大使として、外交官として完璧に任務を遂行することをお約束いたします」
生真面目な様子で折り目正しく頭を下げるバーシェル。
同じ外交官の男性としてはクーガーがいるけど、パリッとしたイケメンなのに三枚目な雰囲気を出すクーガーとは違い、バーシェルは完璧執事系イケメンというか……隙のない感じのイケメンさんだ。
キリクに近しい雰囲気があるかな?
性格は徹頭徹尾真面目さんで、オフの日とかないんじゃないかな?ってくらいお堅い子だ。
多分キリクより堅い。
キリクはたまにはっちゃける時があるからね……特に風呂に入る時とか。
でもバーシェルはそんなことはない。
風呂だろうと食事中だろうと仕事中だろうと一切変わった様子がないのだ。
もっと肩の力抜いてもいいんじゃよ?とは思うけど、本人がやりたいようにやるのが一番だからね。
まぁ、休みはしっかりとる様にとは言ってあるし、それを無視するような子ではないので問題はないだろう。
さて、そんなバーシェルがミルオース中央皇国の皇都で大使として赴任する訳だけど、当然ここは敵地……というか敵国のど真ん中もど真ん中。
当然危険は多く、また仕事も多い。
最前線以上に危険も重要度も高いポジションといっても過言ではないだろう。
当然バーシェルはウルルたちと同様に外交官として能力が振り切っているので、早々後れを取ったりはしないと思う。
しかし、今回はいつものようにこっそり忍び込むのではなく、大使として正面から堂々と敵地の真っ只中で活動するのだ。
その危険度は普段の外交官の仕事よりも遥かに高いだろう。
「危険は多いだろうが、お前の安全が最優先だ。果たすべき役割は多いが、そのことはけして忘れてくれるなよ?」
「はっ。けしてフェルズ様を失望させるようなことは致しません」
失望はしないけど、万が一があったら悲しむから程々に頼むよ。
「くくっ……程々にな」
頭を下げたままのバーシェルにそう告げた俺は、座っていた椅子から立ち上がる。
「リーンフェリア、ジョウセン。街の外まで護衛を頼む」
「はっ!」
「任せるでござるよ」
俺の言葉に、扉の横に控えていた二人が頷く。
昨日の謁見の時に二人は護衛として俺についていてくれたんだけど、ほんとはあの場に一人か二人くらい英雄がいる可能性があったんだよね。
その場合、英雄が喧嘩を吹っかけてくる可能性が大いにあったから、二人はその対処をする予定だったんだけど、残念ながら英雄そのものが不在で二人の出番もなかった。
リーンフェリアは結構張り切っていたからちょっと可哀想だったけど、相手がいないんじゃどうしようもないよね。
まぁ……今後活躍の機会がある筈だから、その時に頑張ってもらおう。
「カミラはオトノハの護衛を頼む」
「はぁい」
「よろしく頼むよ、カミラ」
オトノハもその辺の兵士とか相手なら無双できるけど、皇都には英雄がいるからね……英雄の相手はさすがにオトノハだと厳しい。
それでもオトノハを皇都まで連れてきたのは、魔力収集装置設置の為だ。
勿論、俺が皇都を出るまで攻めたりしないと約束しているので、皇都に魔力収集装置を設置したりしてはいない。
今後……設置する時の為の調査をして貰ったということだ。
ついでに言うと、魔力収集装置の設置予定地が何故か都合よくバーシェルの詰めるエインヘリア大使館となる訳だけど、これは凄い偶然だね!
まぁ、冗談はさて置き、魔力収集装置の設置はまだもう少し後の予定ではあるけど、予定地の確保は早い方がいいってことです。
それはそうと、そろそろお家に帰る頃合いだ。
そんなに長い時間ではないけど、馬車移動なんだよな……皇都の道は、正直デコボコしていて全く持って快適な馬車旅ではないし、ほんと周りの目がないのであれば歩いて帰りたいところです。
そういう訳にはいかないところが覇王の辛いところ。
やっぱ王様って大変だわ。




