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第48話 農務卿



View of パルトナ=エセリアス ミルオース中央皇国 四大公 農務卿






 謁見の間でエインヘリアとかいう国の王を見た時、未だかつてない程の衝撃を受けた。


 アレは格が違う。


 ゼパストルの爺さんもカレンツォの旦那も、ひと目で最大限に警戒していたけどあの二人は文官だからね。


 恐らく本質的な部分では理解しきれていない筈だ。


 いやまぁ、アタイも別に武官って訳じゃないけど、それでもあの二人よりは武人寄りだろう。


 アレは間違いなく英雄の中でも別格の存在。


 恐らく一対一で正面からぶつかって勝てる英雄は、うちの国には存在しないだろう。


 うちで最強と言われているルデアクタスの旦那のところの忠犬……ルトアスでも恐らく無理だ。


 アレの持つ特殊能力は強力だけど、それだけであの王を倒せるとは思えない……ルトアス込みの英雄複数人でぶつかればなんとかなるかもしれない……そのくらい隔絶した存在にアタイには見えた。


 そして更に酷い話なのは……あの魔法使い、それに護衛の騎士……あれらもきっと英雄だ。


 魔法使いは恐らく間違いない。


 騎士二人は動きこそしなかったけど、佇まいや纏う空気が近衛騎士のそれとはまったく異なっていた。


 アレが一般の騎士だというのでれば、エインヘリアには化け物しかいないことになるけど……さすがにそれは無いと思う。


 全員エインヘリア王程の圧倒的な物は感じられなかったけど、恐らくあれは隠しているというか抑えているというか……そんな感じだろうね。


 それと、エインヘリア王が謁見中に放った言葉……いや、言動の全てが絶対的な自信に満ち溢れたものだった。


 仮にもミルオース中央皇国は大陸一つを治め、更には海の外に出て侵略を進める強国。


 戦争の為の技術を多く有しており、海を越える術と魔法を雨あられと放つことの出来る魔導銃……それらを目にしておきながらも、あれ程の挑発をしてきたのだ。


 それらを敵に回しても問題ない……そう判断したからこそのあの態度だろう。


 今までうちが相手した連中……初めて見た船と魔導銃や魔導砲の威容にあっさりと膝を折る連中が大半だった。


 少なくともミルオース中央皇国が海の外に出て以来、そういった相手が殆どだったし、屈しなかった相手もルデアクタス卿によって然したる苦戦もないまま滅ぼされている。


 屈しなかったのは……こちらのもつ戦力を正しく理解できていなかっただけという訳だ。


 しかし、あのエインヘリア王はそういった、こちらの保有している戦力を理解できていない手合いには見えなかった。


 攻め寄せてきた第七艦隊を逆に取り込み、こちらへの情報は完全に封じ、辛うじて拾い上げた……と思わされた……情報で、警戒させながらも決定的な部分で侮らせた手法。


 あの王が考えたのか、それとも配下の者が考えたのか……それはわからないけど、一筋縄でいかないことだけは確か。


 ゼパストルの爺さんやカレンツォやルデアクタスの旦那たちならともかく、王都の貴族たちじゃ確実に相手にならないね。


 唯々圧倒されるだけの謁見が終わった後、馬鹿共は騒ぎ立て、爺さんたちは顔色を変えて何やら話をしていたけど、アタイはとっとと城を出て、ある場所へと向かった。


 ある場所……皇都で一番と言われている高級宿だ。


 そこは現在貸し切りとなっているのだけど、宿泊客は十名にも満たない少人数。


 まぁ、ここにいる連中のことを考えれば、宿全体を貸し切りにするのも当然だろうけどね。


 私は馬車から降りて、そのまま宿の受付へと向かう。


「申し訳ございません。現在全室貸し切りとなっておりまして……」


「知っているよ。面会を申し込みたいと伝えてくれるかな?私の名はパルトナ=エセリアスだ」


「っ!?畏まりました。少々お待ちください」


 一瞬驚いた表情を見せた宿の者だったが、すぐに取次ぎに動いてくれる。


 さて、どうなるかね?






「面会の申し入れを受け入れてくれて感謝する、エインヘリア王」


「くくっ……謁見が終わった直後に面会を申し込んで来るとはな。この国の貴族は随分とフットワークが軽いようだ」


 あっさりと面会の申し入れは受け入れられ、アタイは最上階にある一室へと案内された。


 そこでは、先程謁見の間で浮かべていた物と同じ笑みを浮かべながらエインヘリア王が寛いだ様子で椅子に座っていた。


「パルトナ=エセリアスだ。農務卿と呼ばれている」


「ほう?四大公の一人か」


「こちらのことはしっかりと把握しているんだね」


 気圧されそうになりながらも、アタイは笑みを浮かべながら言葉を返す。


 謁見の間で見た時ほど圧倒的な威圧感は放っていないけど、それでも正面から相対するにはかなりの重圧を感じる。


 カレンツォの旦那はよく物怖じせずにやり取りできたもんだね。


「まだ最低限といったところだがな」


「その最低限すら得られていないこちらとしては耳が痛いね」


 アタイの言葉に肩を竦めるエインヘリア王。


「それを探りに来たのか?」


「いやぁ、そういうのは他の連中に任せるよ。アタイは……いや、まぁ、エインヘリアに興味があるって意味では間違ってないのか?」


 勿論可能な限り情報を得ようとここに来たわけだけど、それと同時に純粋にエインヘリアという国について知りたいと思ったというのも嘘ではない。


 まぁ、向こうからすれば同じことだろうけどね。


「……戦う相手としてではなく、純粋に興味があるということか。国の代表たる四大公にしては随分と暢気じゃないか?」


「ははっ、そういうのは統制卿の仕事だからね。アタイは農務卿……政治だ戦争だってのはアタイの領分じゃないんだよ」


 笑いながらアタイが言うと、エインヘリア王は意外だとでも言いたげな表情を見せる。


 まぁ、言葉通り受け取ったわけではないだろうけどね。


「アタイは農業とか畜産、漁業、後は林業や石切……そういった産業の総轄なんだよ」


 軍需物資となった魔石の採掘なんかはルデアクタスの旦那とゼパストルの爺さんの管轄になっちまったけど……まぁ、手間が減って助かるってもんだけどね。


「他人の領分だから踏み込まないと?」


「まぁ、そうだね」


「仕事をわけているとは聞いていたが、随分と極端だな」


「四大公はそれぞれ大領を有しているからね。自分の領地のことはともかく、国の仕事に関してはしっかり役割を線引きしておかないとややこしいことになりかねないのさ」


 昔それで四大公同士で大戦争になりかけたからね。


 それ以降、互いの領分は犯さない、協力する際は必ず四大公本人同士で了承を得ること……これらがしっかりと明文化されている。


 だから……アタイがここで何かエインヘリアの情報を仕入れることができたとしても、それを統制卿であるカレンツォの旦那に教えてやることはできない。


 足を引っ張ってる訳じゃないから聞かれれば答える……っていうか、カレンツォの旦那ならアタイがここにきていることはわかっている筈だ。


 今一番身軽で、皇都に於いて役に立たないというか、役目がないのはアタイだから気軽に動かせてもらっているってところだね。


「ならばそもそもお前がここに来ること自体がマズいのではないか?」


「公務ならね。ここに来たのは個人的興味だから誰にも文句を言われる筋合いはないよ」


 まぁ、普通にカレンツォの旦那に文句というか皮肉を言われるとは思うけど。


 協力や領分を犯すわけではなくあくまで個人的興味。


 屁理屈にすぎないけど、そうでもしないとただでさえ後手後手だからね……。


「くくっ……まぁいいだろう。そちらのゴタゴタは俺には関係ないからな。それで、何が知りたいのだ?」


 そんなアタイの内心を見透かしているかのように、皮肉気な笑みを浮かべながら問いかけてくるエインヘリア王。


「アタイは戦争には興味なくてね。エインヘリアの戦力がどうこうとか、英雄がどうのこうのってのはどうでもいいんだ。それよりもエインヘリアの文化、技術、産業、民の扱い……そういうのに興味があってね」


 これは結構本音の部分でもある。


 でもそれ以上にというか……狙いはある。


「ほう?」


 アタイの言葉に、エインヘリア王の目に好奇心のような物が浮かんだ。


 思った通り……エインヘリア王の興味を引けたようだ。


 まぁ、全て本心だし、演技って訳じゃない……いや、演技だったりしたら逆に見破られて面倒になっていたかもしれないね。


「……いいだろう。色々と話してやってもいいが、折角だからわかりやすく俺たちのことを教えてやろう。明日、俺たちが皇都を出る時に見送りに来い。その時、俺たちがどういう国なのかおしえてやろう」


 機嫌が良さそうに笑うエインヘリア王の提案をアタイは受ける


「……?よくわからないけどわかったよ。手土産を用意しておこう……エインヘリア王、酒はいける口かい?」


「嗜む程度だな」


「じゃぁ、うちの領で造ってる美味い酒があるからそれを土産に持って来るよ」


「楽しみにしておこう」


 明日……何が起こるのかわからないけど、エインヘリア王の様子から陰惨なことではないだろう。


 若干恐ろしさを覚えないでもないけど、何が起こるのか……楽しみだね。


 ……さすがにカレンツォの旦那に話を通しとかないとマズいかな。



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― 新着の感想 ―
一旦飛行艇で帰るんだっけ? でも既に宣戦布告済みだしなぁ……皇都を出る時に攻撃されなきゃいいけども
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