表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
968/970

第46話 遅刻×2



View of エクスタ=カレンツォ ミルオース中央皇国 四大公 統制卿






「すぐに捕らえるべきだ!」


「監視はしているのか!?あんなものが皇都で暴れでもしたら……」


「そもそも英雄たちは何をしている!」


 再起動した貴族たちが騒ぎ立てる中、私はゼパストル卿と視線は合わせずに言葉を交わしていた。


「生きた心地がしませんでしたね」


「矢面に立っていたのは私だが?」


 私がそう口にすると、ゼパストル卿は苦笑しながら小さく頷く。


「そうですね、カレンツォ卿に比べればまだマシだったかもしれませんが……してやられましたね」


「我々に慢心がなかったとは言わないが、アレはないな」


「あの王の言葉がどこまで本当かはわかりませんが、厄介な事態になったことは間違いありませんな」


「少なくともあの王の持つ空気は本物だった。お飾りではない、本物の王だ」


 アレを傀儡にできる人間がいるなら見てみたいものだ。


 絶対的な力と自信を持った王。


 間違いなく自ら権力を振るい国を動かしている筈だ。


 弱点は……。


「殺しますか?」


 ゼパストル卿の言葉に私は少しだけ考える。


 絶対的な力を有したトップ……その元に一つに纏まった国の力は例え小国であったとしても侮れない。


 だが、そのトップが崩れた時、非常にもろいのも特徴と言える。


 後継者争いで勝手に瓦解することもあれば、絶対的なトップを喪失したことによる士気の低下、一人の力に頼り切っているからこその弊害はいくらでも噴出するし、国としては脆い。


 あの王を殺せば、エインヘリアは間違いなく混乱するし、我々との戦も有耶無耶になるかもしれない。


 後継者争いに利用される可能性もあるが、一つに纏まりきれない相手なぞ取るに足らないだろう。


 問題は……。


「簡単ではないな。アレはどう見ても英雄の類だ。皇都にいる三人を送り込めば殺せはするだろうが、皇都が瓦礫の山になりかねん」


 英雄は強力だが、強力すぎて使う場所を選ぶ。


 少なくともその戦場に皇都のど真ん中を選ぶわけにはいかない。


「監視はつけるのでしょう?港に行かなければ国からは出られないわけですし、襲うチャンスはいくらでもあるかと。最悪船を沈めてもいい訳ですし」


「外海で沈めればよほどのことがない限り英雄でも死ぬだろうが、遺体が確認できない状況は避けたいな」


 英雄という存在は、我々只人の常識では計れないからな。


 確実に死んだという証拠がなければ、不安が拭いされない。


 よほどのことを起こすのが英雄という存在だ。


「サレーン港に戻るまでに襲撃で来そうなポイントはいくらでもありましょう。問題はこちらの英雄がちゃんと連携できるかというところですが……」


「無駄に犠牲を出すわけにはいかんからな。英雄同士の一騎打ちなぞ百害あって一利なしだ」


 しかし、こちらの思惑通りに動かないのもまた英雄という存在だ。


 サレーン港に戻るまでにルデアクタス卿とルトアスが戻ればあるいは……。


「おい!早くその目障りな土くれを片付けろ!」


「で、ですが……」


「早くしろ!」


「わ、我々ではこの椅子を壊すことができません!」


「そんな馬鹿な話があるか!」


 椅子を囲む貴族と近衛騎士……エインヘリアの魔法使いが詠唱も殆どせずに出した魔法の椅子を壊そうと躍起になっているようだ。


 そんな騒ぎを見ながら……私は嫌な想像をしてしまう。


「……あの魔法使いも英雄だったりするのか?」


「最悪は想定するべきかもしれません」


 近衛騎士が大槌で椅子を壊そうと奮戦する姿を見ながら、ゼパストル卿が重々しく言う。


 エインヘリアの王が引き連れていたのだから一般的な魔法兵でないことは確かだが……最悪とはあの魔法使いが英雄であることだろうか?


 それよりも、アレが英雄ですらない魔法使いであることの方が最悪ではないか?


「仮にあの魔法使いも英雄だとしたら、極端に暗殺の難易度があがりますな。こちらの英雄は間違っても連携なぞしないでしょうが、向こうはそうではない。下手をすれば全員打ち取られかねないかと……」


「もしそうなれば、エインヘリアとの戦争は絶望的だな」


 襲撃するべきか否か……ここはかなり大きな分岐点かもしれない。


 襲撃するのであれば、小出しにするべきではない。


 普通英雄に仕事を頼む時は一人……多くても二人で動かす。


 しかし、今回に限っては全戦力を纏めて叩きつけた方がいいかもしれない。


 連携こそ出来ずとも、その戦場に居れば……最低限の目的は果たしてくれるだろう。


「カレンツォ卿はどう対処するおつもりで?」


「……エインヘリアの王とあの魔法使いの二人が英雄であるとすれば、国内で戦うのは得策とは言い難い。こちらの英雄に被害が出ると大損害だしな。ルデアクタス卿のところの忠犬がいれば話は別だが……」


 数いる英雄の中でもっとも頼りにできる英雄……ルデアクタス卿麾下のルトアス。


 彼がいれば、エインヘリアの王の他に英雄が居たとしてもこちらの勝利は揺るがないのだが……。


「ルデアクタス卿が連れ帰って来ていればあるいは……と言ったところでしょうか」


「間に合えば借りを作ってでも、ルトアスを貸し出してもらいたいところだな」


 ルデアクタス卿に会うのがこんなに待ち遠しいのは初めてだな……。


「英雄の件はさておき、エインヘリアとの戦争は基本的に海戦でケリをつけたいところだな」


 エインヘリアの海上戦力がどの程度かは知らないが、海上では弓よりも魔法の方が効果が高い。


 弓は数を揃えないと効果が極端に落ちるからな……当然牽制にはなるし、風向き次第では一方的に攻撃できるが魔法の汎用性には劣るし、逆に射程が極端に落ちることもあり魔法への射程の有利性が薄い。


 そして我が軍には魔導銃や魔導砲といった高火力かつ魔法以上の速射性能を持つ兵器があり、海上での戦いは従来の火矢や魔法とは比べ物にならない火力を保有しているのだ。


 それに海上というか船上では英雄が力を発揮しにくい。


 船上で彼らが暴れれば、自分の乗る船も沈んでしまうからな。


「お?なんだこれ?壁か?」


「はぁ?なんで謁見の間のど真ん中に壁なんてあるのよ。馬鹿じゃないの?」


「じゃぁ、アレなんだよ?」


 私がそんなことを考えていると、謁見の間が勢いよく開かれ……騒がしい男女の声が聞こえてくる。


「やっと来ましたか……」


「もう少し早く来てくれていれば……いや、余計ややこしい事になっていたか?」


 誰が来たのか確認するまでもない。


 謁見の間という、城の中でも特に権威が高く厳かであるべき場所で傍若無人に振舞う二人……我が国に所属している英雄、スケリアットとウェティカだ。


 ……皇都にいる三人全員を呼んだのに、来たのは二人……しかも随分と遅い登城。


 本当に使いにくい連中だな。


 というか、まだ来ていない最後の一人はそれなりに従順なんだが、何故今日に限ってこなかったのだ?


「うわっ!なにこれ?模様替え?」


 私たちのいる位置からは椅子が邪魔になって二人の姿は見えないが、どうやら既に謁見の間に入り……椅子の近くにいるのだろう。


 椅子を撤去してもらいたいが……周りにいる貴族どもではあの二人に命は下せないしな……。


「スケリアットに私がその椅子を破壊して欲しいと頼んでいると伝えてくれ。可能な限り謁見の間に被害が出ないようにとも」


「はっ!」


 傍にいた近衛騎士に私はスケリアットへの伝言を命じる。


 とりあえずあの椅子を撤去しないことに話にならん。


 近衛騎士でも壊せない以上、アレを物理的に壊せるのは英雄しかあるまい。


 魔法や魔導銃では謁見の間にも被害が出かねないしな。


「はぁ!?そんな事の為に俺を呼んだのかよ!」


 私に命じられた近衛騎士が椅子の向こうへと消え……すぐに怒号が聞こえてきた。


「ぷぷっ!まぁ、アンタみたいな脳筋にはお似合いの仕事よね!」


「ちっ……」


 スケリアットを煽るウェティカの声……そして舌打ちが聞こえた後、椅子の影からスケリアットがこちらに姿を見せる。


「おい!カレンツォのおっさん!わざわざ呼びつけて何させやがる!」


「スケリアット。お前たちを呼んだ理由はそれではない。だが、近衛騎士でもそれが壊せない以上、お前に頼むしかないだろう?ここで魔導銃を撃つわけにもいくまい」


「ちっ!こんなのも壊せねぇのかよ……高くつくぞ?」


 そういってスケリアットはエインヘリアの王が先程まで座っていた椅子に向かって拳を振りかぶり……叩きつける。


 人が椅子を殴ったと思えない程の轟音が鳴り響き、その凄まじい衝撃が周囲にいた貴族や兵を薙ぎ倒す。


 近衛騎士はさすがに堪えたようだが、倒れなかったのは彼らだけではない。


 小動もしていない椅子が……その場には残っていた。


「……は?」


 間の抜けたそんな声を漏らしたのは拳を繰り出したスケリアット本人。


「ちょっと!うるさいんだけど!しかも壊れてないし!手抜きすぎでしょ!」


「……あぁ、そうだな。カレンツォのおっさん!ちょっと派手に行くけどいいよな!?」


 私の要請に従って手を抜いたら壊れなかったということか。


 あまり派手に謁見の間を壊されると面倒ではあるが……あんなものがいつまでも鎮座しているよりはマシだろう。


 私がスケリアットに向かって頷いて見せると、周りで尻もちをついていた貴族たちが我々の方に慌てて逃げてくる。


 謁見の間に被害が出ることを許容したからな……巻き込まれれば死にかねんし、その判断は正しいだろう。


「おらぁ!!」


 先程とは明らかに違う気合いの淹れた一撃に、謁見の間自体が揺れ……それでも椅子は何事もなかったかのように鎮座している。


「……ちょっとスケリアット。二度目はさすがに面白くないわよ?早く壊しなさいよ」


「城ごとふっ飛ばすくらい力を込めないと壊せねぇかもな」


「はぁ?たかが石でできた椅子でしょ?」


「ならお前がやってみろ」


「アタシがここで魔法使ったら謁見の間ごと吹き飛ばしちゃうじゃない。ここにいるみんな死んじゃうわよ?」


 それはさすがに許可できない。


 というか、そうなるだろうからウェティカではなくスケリアットに頼んだのだ。


 しかし、スケリアットの様子を見る限り破壊は難しいのだろう……謁見の間への被害を気にしないレベルでやらないと駄目なのか?


「カレンツォのおっさん!どうする?かなり本気でやらないと無理そうだ!ってか、これなんなんだ?何がどうしてこんなところにありやがる?」


「……先に話をするか」


 苛立ちよりも困惑している様子のスケリアットと腑に落ちない様子のウェティカ。


 私はゼパストル卿と共に二人を連れて私の執務室へと向かう。


 因みに、いつの間にかエセリアス卿は謁見の間から消えていたが……まぁ、彼女の行き先には心当たりがあるから問題はない。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ