第44話 ガンガンくる
View of エクスタ=カレンツォ ミルオース中央皇国 四大公 統制卿
「フェルズ様が座るには地味で品がないは思いますがぁ……」
「くくっ……問題ない。十分だ」
突如として出来上がった土台付きの椅子……謁見の間に敷かれている絨毯を突き破り、景観がとんでもないことになっているが、そんなことは一切気にせずエインヘリアの王が即席の玉座へと座る。
足を組み、肘置きに頬杖をつき、口元には皮肉気な笑みを浮かべ……二段ほど高い位置に作られた玉座から我々を睥睨する姿。
これ程の暴挙を謁見の間でされながらも、こちらからは文句の一つも言えないこの状況……今この場において強者がどちらなのかは論ずるまでもないだろう。
しかし、だからといってこれ以上好き放題されるわけにはいかない。
いや、現時点でこれ以上ない程好き放題といった感じだが……この場に英雄を配置しておかなかったのは失敗だったな。
英雄をこの場に呼ばなかったわけではない。
呼んだが無視された……というのが正しい。
しかし、こうなってしまっては英雄共がいないことが非常にマズい事態といえる。
この状況ではまともな交渉なぞ出来る筈もない。
だからといって唯々諾々と相手の言葉に頷くわけにはいかないが……。
「さて、諸君。場も整ったことだしそろそろ挨拶を始めようではないか。段取りの悪さには目を瞑ってやるから、好きに名乗れ」
尊大な態度でそういってのけるエインヘリアの王。
これは間違いなく、どちらが格上なのかはっきりさせようとしているということだろう。
……仕方あるまい。
「貴殿等は海を越え、遥々ミルオース中央皇国へとやってきた。大量の金銀は朝貢である……そう捉えても良いかな?」
「くくっ……驚いたな。俺はこの国の言葉を理解しているつもりだったが……朝貢?何を見当違いのことを言っている?質問するにしても下賜してもらえるのか?だろう?」
「……」
私の問いに不遜な物言いで返してくるエインヘリアの王。
もはや誰の目にも明確に、エインヘリアの王はこちらへの害意がある。
そしてそれを隠そうとすらしていない。
私が声を上げたことで、皆冷静に……状況を理解してくれれば良いのだが……。
「まぁ、そもそもあれらは下賜するつもりではなかったのだがな」
「では、我々から何かを買いたい……と?」
エインヘリアの王の言葉に、一筋の光が見えた……そういうことか。
航海技術か魔導銃に関する技術か……恐らくその辺りを提供する対価として金銀を持参した……そういうことだろう。
それにしては随分と尊大な態度ではあるが、その立場を考えれば無理もないか。
「買う?別に貴様等の保持しているもので欲しいものはないな。あれらの金銀は邪魔だから持ってきただけだぞ?倉庫代わりに丁度いいと思ってな……まぁ、欲しければくれてやるが?」
そういって肩を竦めるエインヘリアの王。
「……倉庫代わり?」
「あぁ。ここは無駄に土地が余っている様だったからな。この程度の城でも物置くらいにはつかえるだろう?金庫代わりに使うには頼りないが、盗まれても問題ない物を置いておくには丁度良い」
「「……」」
皮肉気な笑みを見せながら口から出てきた言葉は……随分と挑発的な物だが、どういう意図だ?
航海技術を持たぬ以上、我々と事を構えるのは不可能に近い。
攻め寄せる手段がない訳だからな……いや、確かエインヘリアのある大陸はルデアクタス卿が攻めている新大陸よりも遠い位置にあるという。
そこまで攻め寄せることはできない……そう高をくくっての強気とも考えられるか?
「保管料は言い値で構わんぞ?何だったら放り込む金銀も適当に使って構わん。ゴミ……とまではいわんが、盗られたところで痛くも痒くもないしな」
……どう反応すれば良いのだ?
これほど馬鹿にされたのが初めてで、怒りを通り越して困惑の方が大きくなる。。
待て。
落ち着くんだ。
こちらを挑発していることは理解している。
だが、何故だ?
まさか本気で我らと戦争がしたいと……?
いや、状況を見れば確実に戦争案件ではあるが……しかし、正気か?
第七艦隊の者たちの装備は一線級の物ではないとはいえ、それでも我々の技術力の高さを垣間見るには十分過ぎる代物だ。
確かにこの王は英雄なのだろう。
だが、戦争とは英雄一人でどうにかなるものではない……いや、それを知らないのか?
小規模な戦場であれば英雄一人の活躍でどうとでもできる。
一万や二万がぶつかり合うような戦場しか経験したことがないのであれば、その慢心も納得のいくものだと言えよう。
いや……待て、そうではない。
このエインヘリアの王が突然この城に現れたのならともかく、三か月という時間を費やし、港から皇都までやってきたのだぞ?
こちらの国力を推し量ることまではできずとも、強大な力を有していることは理解できている筈。
駄目だ……考えが纏まらない。
「それで、貴様は何者だ?」
真っ直ぐに私のことを見ながら誰何してくるエインヘリアの王。
そういえば、自ら名乗ることなぞ十数年以上なかった気がする……そんなことを新鮮に思った自分に驚きながら私は口を開く。
「カレンツォ公爵家当主、エクスタ=カレンツォだ。国の者からは統制卿と呼ばれている」
「ほう?響きからして内政官のトップといったところか?道理で先程から口を挟んでくる訳だな。だが、俺と話をしたいのであればその奥に座って縮こまっている者が直接話すべきではないか?」
そういって顎で指すように玉座に座る神皇陛下を指名するエインヘリアの王。
「神皇陛下は下界の者と直接言葉を交わすことはない。ましてや礼儀も知らぬ海の外の者とはな」
「そうか。そうだったな。いや、失礼した。ミルオース中央皇国にとって礼儀とは海から押し寄せ、突然武器を突きつけて傘下に加われと宣うところから始めるんだったな」
「……」
「折角貴様らの言葉を覚えてやったというのに基本的なところを間違えるとは、俺もまだまだだな」
肩を竦めながら……そして何よりこちらを馬鹿にするような笑みを浮かべながら言うエインヘリアの王。
……何を言っているかなどと問い返す必要すらない。
それをエインヘリアはされたということだ……第七艦隊の者たちによって。
これに関しては、当てこすられても反論できないが……当然開き直るしかない。
「そのような野蛮な行いが、そちらの大陸では行われているのか?私は聞いたこともないが……」
「ほう?開き直るのは構わんが、既にお前たちの頼りにしている外征卿……その麾下の第七艦隊とやらが我がエインヘリアに攻撃を仕掛けて来ているぞ?」
「……」
「つまりだ。我々は交戦状態という訳だ」
攻撃を仕掛けていた……そんな報告はなかったが、保身なのかそれともロモロスが裏切っているのか判断に困るな。
普通に考えるなら……そして、今のこの状況を考えれば裏切っていたと取るべきだが、あの要領を得ない感じ……隠していた可能性も否定できない。
いや、今アレのことはどうでもいい。
それよりも……。
「では交戦状態の国に、王自ら何をしに来たのだ?この場で捕らえられ殺されても文句は言えない状況ということだろう?」
無論……英雄であることが疑いようのないこの人物であれば、この場で殺されるとは間違いなく思っていないだろう。
しかし、今この場に居ないだけで我が国には十を下らない数の英雄が存在するのだ。
この場はどうにかなったとしても、いずれ討たれるのは自明の理。
我が国の英雄の話を第七艦隊の者に確認しなかった筈はないしな。
つまり、ここを切り抜けるだけの何かを持って来ているということだ。
尊大ではあるが、力だけを過信しているような英雄とは違う……交わした言葉は少ないが、そう感じさせるだけのものをこの人物は持っている。
というか、性格が悪そうだからな……ただの力押しの馬鹿という訳ではなさそうだ。
そういう力押ししかできないタイプの英雄は、嫌という程見ている。




