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第43話 謁見に来た



View of エクスタ=カレンツォ ミルオース中央皇国 四大公 統制卿






 エインヘリアの者たちが城へとやってきた。


 今は控室にいるが、もう間もなくここへとやってくる手筈だ。


 既に謁見の間には我々四大公が揃い……一人足りないが……文武百官とまではいわないが、王都にいる貴族が五十名近く揃っている。


 更には近衛騎士が四十とその配下の兵も三百程が謁見の間に詰めている。


 そして……玉座には神皇陛下が座している。


「随分と仰々しいね」


 隣に立つエセリアス卿が肩を竦めながら言う。


「前回の謁見とは訳が違うからな。あの時はルデアクタス卿により滅ぼされた国の王族が恭順の意を示しに来たが、今回は相手の目的がわからない。十中八九我等の傘下に加わりに来たのだろうが、私はその少ない可能性に備えるのが役目だ」


「真面目だねぇ。まぁ、私も備えは大事だと思うけど……」


 口ではそう言っているが、エセリアス卿からは若干呆れたような雰囲気が感じられる。


 過剰に威圧しているという気は私もしているが、それでも緩むことはできない。


「エインヘリアの者たちは非常に大人しいというか、ここに来るまで一切街に出ることもなく旅を続けてきたようです。皇都についてからも宿を一歩も出ることなく過ごしたようですね」


 私たちの方には視線を向けず、玉座の間の入り口に視線を向けたままゼパストル卿が言う。


「弁えている……そういうことか?」


「あるいはこちらに情報を与えることを避けているか……」


 ……確かに、ついぞ今日という日まで連中の情報はまともに手に入れることができなかった。


 というか、相手の言葉がわからない上に動きが殆ど無い……情報を得る術がないのだ。


 情報を握っているであろう第七艦隊の者は……命令系統の違いもあり話を聞けていない。


 唯一要請にしたがって先行してきたロモロス家の一等航海士は……あまり役に立たなかったしな。


「爺さんは、連中が何か企んでいるって考えているのかい?」


「わからないというのが正直なところですな。わかっている情報だけを羅列すれば、我々の傘下に加わりに来たというのが当然の帰結ではありますが……」


「それ以外にあるってのかい?」


「ない筈だ」


 私の言葉に、視線は扉から外さずに頷くゼパストル卿。


「ま、すぐにわかることさね」


「そうだな。ここに至ってはもう直接連中の話を聞くしかないのだからな」


 獰猛な笑みを浮かべるエセリアス卿に私が頷くと同時に、門の傍にいる兵がエインヘリアの者たちの来訪を告げる。


 話ではエインヘリアの王と文官風の男が一人、魔法使い風の女が一人、護衛の騎士が男女一人ずつ、それと何か……不思議な恰好をした女が一人。


 そして護衛の兵はゼロ。


 計六人……使節団としては相当小規模なものだ。


 というか王自らやって来たにしては護衛が少なすぎる。


 ……英雄がいるのか?


 私がそう考えたと同時に、謁見の間の扉が重々しく開かれ……ソレらが入ってきた。


「ひぅっ……」


 誰かが漏らした悲鳴のような物が聞こえてくる。


 我々四大公ではない。


 貴族の誰か、あるいは近衛騎士か兵か……。


 神皇陛下……ではないだろう。


 だが、誰が漏らしたにしても……その気持ちはこの場にいる誰もが理解できたと思う。


 アレは……なんだ?


 漆黒を身に纏い、悠然と先頭を歩く若い男。


 口元には笑みを浮かべているが、友好的なものは一切感じられない。


 後ろに続く者たちもただならぬ気配を漂わせているが、先頭を歩く男は別格だ。


 誰に聞かずとも、誰もが理解しているだろう。


 アレがエインヘリアの王。


 ……アレが恭順しにきた?


 馬鹿な。


 アレは誰かの傘下に納まるような存在ではない。


 そんな男がゆっくりと玉座の間を歩き、ある程度進んだところで足を止める。


 そして我々を睥睨するように見回し……ゼパストル卿のところで視線を止めたように感じたが、ほんの一瞬のことだったので気のせいだったかもしれない。


 ゼパストル卿、エセリアス卿、私……そして最後に玉座に向けて視線を向けた後、訝しげな表情をしながら首を傾げる。


 その姿は先程までの凄まじい気配を叩きつけて来ていた人物の者とは思えない程、愛嬌のあるものだったが……今この場においてアレを侮る者などいないだろう。


 一体何を言い出すのか……この場にいる誰もがそう思った瞬間だった、非常に澄んだ……そして心の底から理解出来ないと言う様な声音が静寂に包まれた謁見の間に響く。


「……謁見だというから来てやったというのに、準備が出来ていないようだが?」


 ……なんだ?


 どういう意味……。


「俺の座る玉座がないぞ?」


 首を傾げるエインヘリアの王に、隣にいた文官風の男が頭を下げる。


「申し訳ありません、フェルズ様。この国の者に準備を任せていたのですが、まさかこのような失態を犯すとは……」


 玉座……何を言っている?


 なんだ?


 なんなのだ?


 完全にエインヘリアの王の放つ気配に飲まれてしまっている私……いや、この場にいる全ての者が理解できていない。


 一体何が起こっているのだ?


「いや、バーシェル気にするな。もしかするとこの国では謁見の際に玉座を使わないという文化なのかもしれん」


「しかしフェルズ様。奥まったあの椅子……何者かが座っているようですが、アレは玉座なのでは?」


「くくっ……なるほど。この国の王を玉座に座らせている訳だ。しかしそうなると、俺が座る場所がないな?これはどういうことだ?」


 皮肉気に口元を歪ませながらエインヘリアの王は文官風の男と会話を続ける。


 謁見の間であまりにもふざけた態度だが……その雰囲気に呑まれ、誰も声を上げることが……。


「ぶ、無礼者!し、神皇陛下の御前だぞ!今す、すぐに、膝をつき、こ、ここ、頭を垂れよ!」


 沈黙を破り、引き攣りながらも声を上げたのは……神皇陛下直臣の伯爵だ。


 その言はミルオース中央皇国の貴族としては実に真っ当なものだが……この者たちにそれが通じるのか?


 伯爵の悲痛ささえ感じさせる叫びに、謁見の間が静まり返る。


 いや、先程までもエインヘリアの王とその臣の会話だけが響いていたのだが……それすらもなくなり……伯爵の荒い息遣いだけが残る。


「くくっ……まさか、今の世迷言は俺たちに向かっていったのか?」


「そ、そうだ!と、とと、当然であろう!」


 エインヘリアの王に視線を向けられながら伯爵は震えながらも答える。


 この状況で声を上げたことは見事だが……それが正常な判断だったかと問われれば、否と答えただろう。


 佩剣こそしていないが、アレは間違いなく英雄の類だ。


 配置した兵や近衛騎士なぞ何の役にも立たない……素手であっという間にこの場にいる全員を皆殺しにできる存在。


 何故ロモロスはそのことを我々に伝えなかった!?


 こんな……このような情報……伝え忘れる筈がない!


 まさか……いや、まさかではない!


 奴は裏切って……いや、奴だけではない!


 第七艦隊の者全員が裏切っている!?


 ここまで情報を得られなかったのではない……意図的に情報を封鎖されていたのだ!


 まずい……。


 なんだ?


 相手の狙いは何だ?


 謁見と称し国の中枢に潜り込み、何を狙っている!?


「くくっ……見上げた忠誠心……と言いたいところだが、あまりにも残念な物言いだな。まるで状況が理解できていない。こんなものが国家の中枢にいるとなると……思っていた以上に碌な国ではなさそうだな?ミルオース中央皇国よ」


「なっ!?」


 絶句する伯爵だが……正直そう言われても仕方ないと思う。


 あまりにも察しが悪すぎる……いや、あの怯え方を見れば察していない訳ではないのだろうが、それでも状況を見誤り過ぎている。


「そもそも、俺は最大限礼を尽くしてやっているつもりだぞ?なんせ、わざわざ海を越えここまで足を運び、更にはお前たちの言葉で話してやっているのだからな?」


 尊大な物言いだが……王にして英雄という存在であれば、こんなものだろう。


 だが……相手の狙いがわからない。


 一体何を考えている?


「しかし、玉座もないようでは話にならんな。カミラ」


「はぁい」


 エインヘリアの王が声を掛けると、後ろに控えていた魔法使い風の女が返事をする。


 そして次の瞬間、玉座の間の床がせり上がり……巨大な石の椅子が現れた。



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― 新着の感想 ―
実際なんたら伯爵は大した物だと思いますかね。例え威を借る狐だとしても主人公の威圧感に晒されながら反抗出来るんですから。あとやっぱりキリクは何かやってますね、軽い目配せ……これは外交官を使ったかな。
大理石の床とか使ってそうだなぁ(白目)
結構久しぶりな気もする覇王様ムーブの始まりですね。初っ端からかなりぶっ込んでますが続きが楽しみです。
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