第41話 聞き取れない
View of エクスタ=カレンツォ ミルオース中央皇国 四大公 統制卿
情報が……不足しているにも程がある。
ルデアクタス卿麾下の第七艦隊の者たちが、未発見の大陸からその地の王を連れてきた。
勝手にそのようなことをした第七艦隊の者には色々と言いたいところだが、ルデアクタス卿に与えられた権限の範囲内の動きであることは間違いなく、苦言を呈することはできない。
しかしだ、皇都に迎え入れる以上、その国の情報は絶対に必要だ。
言葉も文化も違う相手。
しかも何をしに来たのかすらわからない相手だ。
情報を求めるのは当然だし、最も情報を得ている第七艦隊の者を先行して皇都に呼ぶのも当然だろう。
そしてこれも当然だが、事情を説明しに来るのだからその内容について明るいものが来るべきだ。
……そう。
これはわざわざ言うまでもないことで、考えなくてもわかる話だろう。
だから、先行して皇都にやってきた者がコレだとは……とてもではないが信じられない。
「……というわけであります。実に苦難に満ちた旅路だったと言えましょう。エインヘリアバンザイ」
エストホット=ロモロス。
第七艦隊に所属する一等航海士で、ルデアクタス卿麾下のロモロス家の者。
実力主義かつ武威が重んじられる傾向あるルデアクタス卿の麾下ではあるが、ロモロス家はどちらかといえば権威主義で、武力よりも政治力で重役となっている家だが……私としてはそちらの方が与しやすい相手と言える。
言えるのだが……この者、件の国の情報を全く持ち合わせていない。
わかったのは新大陸が我が国の北東方面にあるという大雑把なもの。
その国はエインヘリアという国であるということ。
使節団の者は王を含め十名もおらず護衛の兵はいないとのこと。
向こうは魔道具によってこちらの言葉を使うことができるが、こちらのものはまだ言葉を勉強中とのこと。
「他にそのエインヘリアという国の情報はないのか?」
「はっ!ありません!エインヘリアバンザイ」
ハキハキと簡潔に言われても苛立ちを覚えずにはいられない。
それと、何か毎回小声で最後に言っているのだが、気のせいかというくらい小さな声なので聴きとれない。
「先程から何か小声で言っているか?」
「言っておりません!エインヘリアバンザイ」
いや、絶対に言っているだろ。
妙にキラキラした穢れを感じさせない目でそう口にするが……非常に胡散臭い。
「……国力については?」
「裕福そうでありました!エインヘリアバンザイ」
「軍事力は?」
「海軍と呼べるものはなく、武装も剣や弓といったもので、魔導銃や魔導砲に類するものはありませんでした!エインヘリアバンザイ」
命令には従順だが、自ら考えることができないタイプか……細かく聞けばもう少し情報を引き出せるか?
「兵の数はどの程度だ?」
「我々が近海に停泊して、三日ほどで海岸に兵二百を配置しました!全軍については把握しておりません!エインヘリアバンザイ」
未知の船団に対し、数日で二百の戦力しか集められなかったか。
対応力はそこまでではない……いや、軍事力そのものがそこまでではないと見てもいいだろう。
「人口等は……わかるか?」
わからないだろうが……。
「国全体ではわかりませんが、王都はさほど広くありませんでした!間違いなく王都の人口は十万を下回ると思われます!エインヘリアバンザイ」
王都でもそんなものか。
となると、国全体で見ても百万に届くかどうかといった程度だろう。
そして統計的に見れば、エインヘリアなる国に英雄はいない。
勿論、絶対に居ないと断言はできないが、三百万から五百万規模の国で一人から二人いればいい方……それが英雄という存在だ。
となると……やはり求めているのは後ろ盾か?
「その大陸の情勢はどうなっている?」
「わかりません!エインヘリアバンザイ」
……落ち着け、想定内だ。
「持参した金や銀については何と言っていた?」
馬車十数台分の金銀だ。
重量が重量なので馬車に満載とは言わないが、それでも相当な量が確認出来ている。
密偵からの報告ではすべて本物の金銀とのことだし……それが何を意味するか、そこは重要な点だ。
臣従の為の土産にしては量が多すぎるからな。
「挨拶のついでのような物……そのように言っていました!エインヘリアバンザイ」
「ふむ……」
やはり碌な情報が手に入らない……というか肝心な部分が曖昧だ。
密偵がエインヘリアの者を調べようにも、言葉が一切わからずその内情を調べることが能わない。
本当に厄介な話だ。
この男は役に立たないし、エインヘリアの者たちも……ほとんど動きがない。
街に泊まる時も部屋から一切出ず、野営の時も馬車や天幕から一切動かないようだ。
……一つ大きな問題がある。
連中が使っているという魔道具だ。
魔道具によってこちらの言葉を使うことができるとのことだが、何故そんな魔道具が必要なのか。
わざわざ私たちの言葉に合わせた魔道具ということは考えにくい……つまり元々言葉を翻訳する必要性があった?
連中のいる大陸には複数の言語が存在するということであれば、別に構わないのだが……問題は連中の国が海の外と交流がある場合だ。
……。
「連中は海軍を保持していないと言っていたが、遠海航行技術も持ち合わせていないということか?」
「我々がエインヘリアに行くまで、海を渡ってやってきた勢力はなかったとのことです!エインヘリアバンザイ」
「そうか……」
であれば、海を渡るという発想自体無かった可能性が高いな。
……待て。
今この男、話を逸らしたか?
「海の魔物は危険で、船で海を渡ることが可能であることに大変驚いておりました!エインヘリアバンザイ」
「……そうか」
気のせいだったようだな。
一瞬、何らかの不都合がありそれを隠したのかと思ったが、そういう訳ではなさそうだな。
「エインヘリアやその周辺国は、航海技術もなければ魔導銃やそれに類するものも持たないということか」
「魔法および大規模儀式魔法は存在するとのことです。エインヘリアバンザイ」
儀式魔法か。
それは確かに脅威ではあるが、今回使節団としてやってきた人数では発動させることは不可能だろうし、気にする必要はないな。
だが、完璧とは言えないが、ある程度相手の軍事力についても把握しているようだな……思っていたほど無能ではないのか?
兵数についてはわからないと言っていたが……見るべきところは見ていたということだろう。
報告しろといって話させるよりも、やはり一つ一つこちらから質問していく必要があるらしい。
自ら考えることができないタイプに多い特徴ではあるか……。
これらの情報はゼパストル卿とも共有しておく必要がある。
惜しむらくは、ルデアクタス卿に急ぎ帰国するように伝令は出したが……間違いなくエインヘリアの者たちが皇都に到着する方が早いということだな。
まだ連中がここに到着するまで二か月程はある。
可能な限り情報を集めておかなければ……。




