第37話 イベント目白押し
「三か月といえば、バンガゴンガのところの子供も生まれる頃合いだよな」
「そうじゃなぁ。リュカのお腹も大分大きくなっておるしのう。中々動きにくそうじゃったわ」
どうやらフィオはリュカと会っているらしい。
リュカは産休に入ってから登城していないし、フィオは基本開発部から出てこないからいつの間に会ったのかわからんが……。
「へぇ……生まれてくる子はどの種族になるんだろうな」
目下一番気になっているのはそこだ。
バンガゴンガと同じゴブリンなのか、それともリュカーラサと同じエルフなのか、それともリュカーラサの元の種族……ハーピーになるのか。
まぁ、どの種族になっても問題はないだろうけど、バンガゴンガみたいにでっかくなるのだろうか?
二番目に気になるのはそこだけど……色々な意味で楽しみだね。
「リュカも楽しみではあるが、不安もあるようじゃったな」
まぁ、初めての子供だし責任感もある人だから……そうなるのも無理はないよな。
「どの種族になるかで育て方も変わるだろうしな……そういえばハーピーは卵生じゃないのな?」
「お主……それリュカたちの前で言ったら大顰蹙じゃぞ?」
「……確かに失言だったか」
妖精族も人だからね、皆胎生ですね。
鳥扱いは失礼すぎるってもんだろう。
「お主の言葉は凄まじい影響力があるからのう。軽はずみなことは言わぬようにの……とは言ったが、お主が気を抜くのは基本的に私やルミナの前だけじゃからな。外ではしっかりしておるから大丈夫じゃろう」
「くくっ……もう五年以上覇王をやっているからな。一人前と言っても過言ではないんじゃないか?」
今失言したばかりの覇王が通りますよっと。
「すぐに調子に乗るのはお主の悪い癖じゃ」
「それはフィオには言われたくないなぁ」
まぁ、俺も大概だとは思うけど、フィオの調子に乗る様といったらもう凄まじいものがある。
「塩ま……」
「……」
すぅっと音を立てるようにフィオの目が細くなる。
こっわ!?
「あ、いや、違うぞ?そうじゃない」
「ほう?」
何故か赤く光る眼をこちらに向けるフィオ。
いやいや、魔王の瞳は角度によっては赤にも見えるって設定じゃん!?
なんで光ってんの!?
「いや、待て、ほんと待って……アレよ」
「どれじゃ」
アレよ!
つまり何がソレかというと……迸れ覇王の知略!
「あの、アレよ、ほら。船にさ!載せたじゃん!?海水から水を作る魔道具!」
「……ふむ?」
魔道具の話!
この状況ですべきはこれしかない!
「七十日の航海で、魔道具はずっとフル稼働だったみたいだが……塩がとんでもない量生成されたらしくな。補給艦の方で預かったみたいだが、各船は投棄を考えるレベルだったみたいだぞ?」
「むぅ……まだ私のところに報告は来てないのじゃが……」
不満そうにするフィオを見て、俺は勝利を確信する。
「俺のところに来たのは開発部からの報告じゃないからな。暫くすればもっと詳細なデータと共に報告が来る筈だ」
「待ち遠しいのう」
「航海は随分と順調だったみたいだな。『海神の護符』のお陰かな」
「うーむ。アレは別に私たちが開発したものではないからのう」
不満気な様子を変えずにフィオが言う。
「訓練の時から魔道具を増やしたりしたのか?」
「ミルオース中央皇国から来た連中が乗っている船は訓練の時と同じじゃな。補給艦の方は開発部の者も乗船したからのう……色々と試験的な物も積み込んだのじゃ」
「……危ないものは載せてないよな?」
めちゃくちゃ今更だけど……いや、まぁ、無事に向こうに着いたんだから問題なかったって事かな?
「多分大丈夫なのじゃ。何かあったとしても何とか出来るだけの技術を持った者が乗船しておるしのう」
……本当に大丈夫だったのだろうか?
多分って響きが恐ろし過ぎる。
開発部の人って……フィオやドワーフたちを筆頭に、どうも研究開発が始まると頭のねじを自ら抜いてるふしがある。
優秀であることに異論はないんだけどね……?
「現に燃えもせず、沈没もせずに辿り着いたわけじゃしな」
「……燃えたり沈んだりする可能性があったのか?」
「……ないじゃよ?」
語尾が変じゃよ?
「……どんな魔道具を積んだんだ?」
「そこまで大型の物はないのう。シャワーとか、メガホンとか、暗視効果もある遠見筒とか、魔力収集装置を応用した羅針盤とか、湿気取りとか、レンジっぽいヤツとか……あ、クレーンを強化したり、指向性の大型ライトとかも載せたりしたのう」
なかなかてんこ盛りだけど……。
「いくつか気になるものがあるんだが……とりあえず魔力収集装置を応用した羅針盤ってのは?何か凄そうなんだけど」
通信とか転移……はさすがに無理だろうけど、召喚兵の召喚とかできちゃう?
「あぁ、お主が期待しているような効果はないのじゃ。城にある魔力収集装置の大本……羅針盤によってそれの位置が常にわかるようにしただけなのじゃ」
「……なるほど」
不慮の事故に遭遇して現在地を見失ったとしても、最悪エインヘリアには帰れるようにってことか。
「ほほほ、期待外れじゃろ?」
「いや、リスクに備えるってのは大事だからな。飛行船がバックアップに居るとは言っても、事故が起こらないとも限らないしな」
基本臆病な俺は、何をするにしても安全第一を心掛けたい……難しいとは思うけどね。
「うむ。まぁ、羅針盤に関しては今後、大陸間を船で移動する時にも使えるからのう。勿論飛行船にも搭載可能じゃ」
「なるほど。逆に羅針盤の位置がこっちからわかったりはしないのか?」
「む……それは……現時点では無理じゃが、ありじゃな。遭難して動けなくなった場合救援に行きやすい」
フィオが口元に手を当てながら真剣な表情で唸る。
研究意欲を刺激する提案だったようだね。
「レンジっぽい魔道具というのは?」
「ん……?あー、うむ……ん?」
俺の質問に生返事を返すフィオ……あ、コレダメだ。
完全に頭が魔道具の改良に向かってしまっている……。
俺は苦笑しながら立ち上がり、棚に置いてある紙を適当に十数枚、それとペンを手にとってからソファに戻り……フィオの隣に座ってその前に取ってきた紙とペンを置く。
暫く口元に手を当てまま考え込んでいたフィオだったが、おもむろに動き出し、なんだかよくわからない図形やら計算式やらを目の前の紙に書きなぐっていく。
こうなるともう俺には何が何やらさっぱりわからん。
とりあえずフィオが落ち着くまでルミナと遊んでおこう。
ルミナはとても賢いので、フィオが仕事モードに入ったら邪魔はしない……大人しく俺の膝の上で仰向けに寝転がり、俺の手と戯れる。
俺はそんなルミナのお腹とか首周りを撫でながらしばらく時間を過ごし……ようやく落ち着いたフィオがこちらに体を寄せてきた。
「ふぅ……中々面白いテーマだったのう。少し興奮してしまったわ」
「そりゃよかった」
右はルミナの前足と遊び、左手はルミナのお腹を撫でながら俺が応えると、フィオは俺の右腕を抱き込むようにしながらさらに体を密着させてきた。
フィオのぽよよんが俺の腕にぽよよんしてて、もはや俺の脳内はぽよよんである。
興奮していたのは事実なのだろう、普段より少しフィオの体温が高いような気もするし、ぽよよん具合もとっても素敵な感じだ。
そんな風に俺の意識が逸れたのが気に入らないのか、ルミナが不満そうな視線を向けてくるので、一生懸命お腹を撫でる。
「しかし、体が火照ってしまったのう」
「然様にござるか」
火照り……うん、まぁ、物凄く良く伝わってきますよ……?
「……満足したんじゃないのか?」
「ほほほ。野暮じゃのう……フェルズ」
俺の耳元でフィオはそう呟きながら、ちろりと耳を舐めてくる。
ぞくりとすると共に、フィオを押し倒したくなったが……ルミナが膝の上に居てもっとちゃんとなでろとアピールしてくるので身動きが取れない。
「のう?フェルズ……」
掠れるような声に背筋にゾクゾクしたものが走り……。
「先程、塩ま……その後に何を続けるつもりじゃったのかのう?」
俺たちの戦いはこれからだ!




