第36話 まだおうち
「ば、馬車で三か月近くかかるだと……?」
「らしいのう」
ミルオース中央皇国に向けて旅をしていた船団が遂にその大陸に到着し、ここからは陸路の旅に切り替わるらしい。
俺の出番は皇都に到着してからなので、今まで気にしていなかったんだけど……三か月の馬車旅!?
……俺が乗るんじゃなくて本当に良かった。
「うちほど街道整備も進んでいないようじゃし、相当大変な旅になるじゃろうなぁ。船旅の方が楽かもしれんのう」
「……地獄じゃないか」
普通は船旅の方が大変だろうけど、各種魔道具や生簀、畑のお陰で非常に快適な旅だったと報告は受けている。
でもミルオース中央皇国に入った以上便利魔道具の類は使用できないし、そもそも陸路用の魔道具ではないからな……。
そして街道整備してないってことは土の道というわけで、轍とか石とかでめっちゃデコボコしていて馬車の車軸が折れやすいとか、川やら丘やらに沿って道がグネグネしていて最短で進めないか、とにかくお尻や腰以外にも絶大なダメージを与えてくる旅路となるのは間違いない。
「そうじゃろうなぁ。さすがに私も二カ月の馬車旅はキツイのう。お主は一日も我慢できんじゃろうが……そういえば、お主の代わりにノーフェイスが行っておるのかの?」
現在、ミルオース中央皇国にはエインヘリアの王が船団と共に来訪したことになっているが、勿論俺は行ってない……影武者さんだ。
「いや、ノーフェイスじゃない。ノーフェイスが推薦してくれた外交官見習いだな。変装が得意だそうで、今回の件は適任ということだったのでな」
まぁ、俺のことを知らない人たち相手だから多少失敗したとしても問題ないし、気楽にやって欲しいと思う。
ノーフェイスが推薦するくらいだからきっと凄い変装上手いんだろうけど……覇王より覇王してたらどうしよう?
「しかし、船旅だけでも大変だと思っていたのに、その後に三か月近い馬車旅があるとはなぁ」
「皇都が海に面した街でもない限り仕方ないじゃろうな。ミルオース中央皇国は大陸を統一しておる訳じゃし、陸路もそれなりのものを覚悟しておくべきじゃったな」
まぁ知らなかったのは俺たちだけで、船で向こうに行った人たちやキリクたちは当然知っていたんだろうけどね。
「普段は飛行船とか転移で移動していたから、その辺がすっぽり抜けていたな。鉄道とかあれば良かったんだがな」
「そうじゃなぁ。まぁ、現状で不便だと思う者がおらん限り、馬車に変わる陸上の乗り物は中々思いつかんじゃろうしな」
俺からしたらめっちゃ不便だけど……それが当然のことと思ってしまったら、中々その先にって発想がでないんだろうな。
乗り心地をよくするとか丈夫にするとか、積載量を増やしつつ軽量化を目指すとか……そういった動きの方が強いのはこの大陸に限ったものではなく、どこの大陸でも同じらしい。
魔道具技師とかが頑張って自走する馬車……というか車を作っても良さそうなんだけどね。
「研究開発……発明ってのはほんと凄いよな」
「ほほほ、そうじゃろう?もっと褒めても良いのじゃよ?」
物凄いドヤ顔をしながら胸を張るフィオ。
まぁ実際、本当に凄いから褒める以外ないんだけどね?
「没頭するのはいいけど、食事や睡眠はしっかりとってもらいたいところだな」
褒める以外はないけど……敢えて褒めないんだけどね?
「くっ……じゃ、じゃが、テンションが上がったり滅茶苦茶集中したりすることってあるじゃろ?」
「まぁ、気持ちはわかるが」
新しい本とかゲームとか……そういうのに手を出した時、止めどころをなくして朝までどっぷりって……俺の元になった奴はしていたみたいだしね。
ってか、今でもそういう娯楽品が手に入ったら俺はやってしまいそうだ。
うん……そこまで全力でハマることがないってだけで、本質的には俺もフィオと一緒だな。
「じゃ、じゃろう?だからこう……もう少し監視の目を緩めても罰は当たらんと思うんじゃが?」
「それとこれとは話が別だな」
気持ちはわかるが、健康は大事だ。
まぁでも、こういうのって本人より周りの方が気にするんだよね……。
自分は平気って思ってしまうものだけど、周りからすれば危うくて仕方ないっていう感じだろう。
「しかしのう……ほれ、以前話した技術のお陰で鉄道の……列車の開発が上手くいきそうなんじゃよ」
「あぁ、車体を軽くするというか、少し浮かせるというかってやつだな。上手くいきそうなのか?」
「うむ!かなりいい感じじゃな!恐らく三か月くらいで試作一号をお披露目できそうじゃ」
「三か月って……俺が向こうに行くタイミングと被ってないか?」
馬車旅が終わる頃に合わせて俺は向こうに合流するからね。
丁度俺が忙しくなりそうな時に試作一号が完成……え?
俺って最初の最初を見学できない感じ?
「ふむ、そういえばそうじゃな。じゃが、別に行ったきりという訳ではないじゃろ?戻ってくるタイミングでお披露目とすればよかろう?」
「それもそうだが……完成後、待ち切れなくて実験やったりしないか?」
「……今日は雨が降りそうじゃなぁ」
首を九十度横に向けたフィオが、窓の外を見ながらそんなことを言いだす。
因みに外は真っ暗で天気がいいか悪いかなんてさっぱりわからない……夜だからね。
「おい」
「雨が続くと洗濯物とか大変じゃよなぁ……乾燥機とか作ってみるのはどうかの?」
「それは必要そうだから作ってもらうとして、今は鉄道の話だぞ?」
「うむ、鉄道じゃな。今は王都からルモリア王国の旧王都に向けてレールを敷いておるところじゃが……これは実験用じゃな。最終的には事故防止の為にも地下鉄とかの方が良いかもしれんのう」
完全に話を逸らそうとしてやがるが……しかし、その話はちょっと気になる。
「地下鉄?」
「うむ。野生動物も少なくないからのう。それに馬車がレールの上で立ち往生する可能性もあるし、貧困層が減ったとはいえレールを盗む者も出てくるかもしれん。諸々の安全を考えれば地下鉄を作った方がよさそうじゃ。幸い蒸気機関ではないから煙を出したりはせんしのう」
「ふむ……しかし、崩落とか大丈夫か?」
崩落とかしたら洒落にならない。
列車が走るたびに振動が起こるわけだし……。
それに地下なんだから空調とかも気にしないとだよね?
保守も相当大変だと思う。
「そうじゃなぁ。思い付きでいうてみたが、地下鉄にするには技術的な問題をもっとクリアせねば厳しいかのう。上に持ち上げる方が現実的じゃろうか?」
うん、いきなり地下鉄を作るのは一足飛びし過ぎだと思う。
「新幹線みたいな感じか。動物も飛び込んだりしないだろうし、馬車も乗り込みようがないし、当面はそっちで考えた方がいいかもな」
高架にしておけば泥棒もそう簡単にはできないだろうね。
「高架なら、基礎部分はカミラたちに手伝って貰えば良さそうじゃな。土属性の魔法なら強度も大きさも十分じゃろう」
「なるほど。耐久テストとかはした方がいいと思うけど、土属性魔法で基礎を作れるなら案外早く高架線路も作れそうだな」
カミラだったら十階建てのビル以上にでかい土壁を作り出せるし、魔法使いで土属性が得意な子は他にもいる。
さすがに魔法使い系の子じゃないと強度的に不安があるかもしれない。
魔法系次席ともいえるディオーネは土が使えないけど、マリーとかは確か土も使えた筈。
カミラは俺と一緒にミルオース中央皇国に行く予定だけど、俺と一緒に帰ってくる予定だし、その後も暫く出番はない筈……うん、高架を作ってもらうのはアリだね。
……いや、まだまだ先の話だから直近の予定は関係ないか。
「カミラはアシェラートと魔法を色々研究しておるからのう。お主の知らぬことも色々とできるようになってきておるんじゃぞ?」
「そ、そうなのか?」
アシェラートやフィオと一緒に魔法の研究をしていたのは知ってたけど、色々できるようになってるの?
どんなこと出来るんじゃろ?
もしかしてリズバーンみたいに空を飛んだり?
「まぁ、私が教えてしまってはカミラも落ち込むじゃろうし、本人から聞いてみるんじゃな」
「ふむ……それは楽しみだな。レギオンズの魔法は基本的に攻撃魔法というか、戦闘用の魔法しかなかったからな。幻属性の魔法も基本的にバフデバフだし……もっと面白い感じの魔法とかあったらとは思っていたんだ」
TRPGみたいになんかよくわからない魔法とかあっても楽しそうだよね。
この世界の魔法も攻撃魔法ばっかりだし……折角の魔法なんだからもっとファンタジーしてくれてもいいと思うんだ。
カミラとアシェラートが魔法の研究を進めていって、俺たちでも使えるような面白魔法とか作ってくれたら最高だね。




