第35話 問題は一つではない
View of エクスタ=カレンツォ ミルオース中央皇国 四大公 統制卿
「第七艦隊ということは新しい土地を探す為の先遣隊ですね。新大陸発見の報告はともかく、その地の王を連れてきたというのは……」
「友好的に連れてきたのか、戦って捕虜としたのかで随分と話は変わるな。他に情報は?」
ゼパストル卿が先程一瞬だけ浮かべた訝しげな表情を消しながら呟いた言葉の後を私が続ける。
「提督を始めとした上級将校が王を護送して皇都に向かって来ております。また金や銀のインゴットを大量に持ち帰ったそうで、輸送用の馬車が二十台ほど追従しております」
「「……」」
ゼパストル卿は一言も発さない。
大量の金銀と聞かされて目を輝かせると思ったが、普段通りの掴み所のない表情で何やら考え込んでいるようだ。
「それと、謁見を望んでいると」
「ほう?」
相当な量の金銀に謁見か。
単純に考えるなら恭順を示したというところだが……。
「他には?」
「馬車の足が遅いので、到着までかなりの時間を有するとのことです」
「サレーン港からであれば、普通の馬車でも一か月以上はかかりますね。金銀を運ぶとなれば、恐らく二か月から三か月は見ておいた方がよいでしょう」
ゼパストル卿がざっと移動時間を算出する。
三か月……随分と時間がかかるが、その間に情報を集めることができるな。
「提督でなくとも構わん。話の出来るものを先行させて皇都に来るように命じろ」
「ルデアクタス卿の配下の将校ですよ?」
ゼパストル卿が苦笑するような様子で言う。
命令を出すのは筋違いか……厄介なことこの上ないな。
私は小さくため息をついた後、部下に向かって指示を出し直す。
「皇都で対応するにあたり情報が必要だ。先行して誰か人を貸して欲しいと提督に伝えてくれ。それとルデアクタス卿に急ぎ本国に戻ってくるように急使を出せ」
「はっ!」
部下が部屋から出て行ったのを確認してからゼパストル卿が口を開く。
「厄介ですね。ゼパストル卿が新大陸で戦っているところに更に新たな大陸を発見。いえ、発見だけであれば問題なかったのですが……」
「その地の王を連れてきたというのがな」
どう考えても厄介事だろう。
「仮に友好的な国だったとしよう。その場合考えられるのは……」
「こちらの技術力を目の当たりにし、勝てないと見て荒らされる前に傘下に加わろうとした。金銀は貢物……朝貢をするので属国となりたいと言ったところでしょうか?」
「それが可能性としては高いか。しかしその場合、王自ら来る必要はないと思うがな」
そう、その場合は使者で良いのだ。
わざわざ王が来る必要はない。
我々の航海技術によってある程度の安全は確保できているが、それでもある程度でしかない。
危険の多い……いや、危険しかないような航海に王自ら乗り出す必要性は一欠けらもないといえる。
「では、第七艦隊の者たちがそれを強要した……というのは?」
「ふむ。それはありそうだな」
外征卿麾下の者たちは外でかなり居丈高に動いているようだしな。
武力を持って国を制圧……王に謁見を強要し、神皇陛下に頭を下げさせることを求めたのかもしれん。
友好的……という話からは外れたが、こちらに逆らうつもりはないという点では似たような物だろう。
「しかし、強制されたものであったとしても向こうから言い出したものであったとしても、問題は向こうが何を求めてくるかだな」
「そうですなぁ。例えばですがその新大陸で……戦乱が起こっているとしたらどうでしょう?」
なるほど。
その場合、我々を後ろ盾とすることで……いや、戦力そのものを求めている可能性も否定できないか。
「そちらの大陸の戦いに巻き込まれるのは面白くありませんな」
「……朝貢の金銀は対価か」
「技術供与、兵力の貸与……あたりですかねぇ、向こうの狙いは」
どちらも可能か不可能かと言われれば可能ではある。
しかし、連中が求める技術は……魔導銃か、それとも船に関するものか……どちらにしても我々の有する圧倒的なアドバンテージ。
いつかは他所の国にも解析され模倣されるにしても、現時点でその優位性を自ら手放す様な真似はできない。
その大陸にも魔道具の技術があるかどうかはわからないが、もしあるとすれば解析自体は時間を掛ければ可能だろうしな。
「大量の金銀、それに王自ら海を越えてやってくるか……中々侮れないな」
「えぇ、こちらの状況をよく理解しているのかもしれません」
ルデアクタス卿が新大陸で戦っている以上、更に新たな大陸で戦端を開くことはできない。
我が国は強大な力を有してはいるが、その力は無限ではないのだ。
むやみに戦線を広げれば手痛い反撃を受けることになるだろう。
何より、海を越えて兵力を送り込むというのは容易ではない……その辺りの足元を見た上での今回の動きというのであれば、第七艦隊の連中はいいように利用されているのかもしれないな。
「未開の地の王と侮れば、痛い目を見そうですね。第七艦隊の者から話を聞くのも大事ですが、可能な限り相手の情報を集めたいところです」
「情報を集めるにしても、向こうの言葉がわからないのが厳しいな。第七艦隊の者で通訳の出来るものを抱え込めないだろうか?」
「ルデアクタス卿も新しき大陸の言葉の分かる者は重宝するでしょうし、引き抜きを掛けるのは得策とは言えますまい。精々、金を渡して皇都に来るまでの間に可能な限り向こうの者と話をして情報を集めるように依頼するくらいですかね。並行してこちらの手の者に言葉を覚えさせることができれば……といったところですが、さすがに三か月程度では厳しいでしょう」
……第七艦隊か。
普段はルデアクタス卿が取りまとめているから気にならなかったが、非常に厄介な連中だ。
「外征に関してはルデアクタス卿に一任され、自由に戦争を起こす権利も有しているが……」
さすがに独断専行が過ぎるな。
やはり、外征なぞやるべきではないのだ。
国内を富ませる方法は外より奪う以外にも方法はある。
いや、外征卿が海の外に出る前まではそうして我等は繁栄してきたではないか。
国内の問題を解消し、発展の為に尽力する。
戦争を起こさなければ民は増え、税収は増すのだ……わざわざ外に出て人命を消費する必要はどこにもない。
何故それがわからないのだ。
やはりどうにかしてルデアクタス卿の力を削ぎ、国内を充足させるように国の方針を変えなくては……。
「まぁまぁ。確かにルデアクタス卿の外征は危険も多いですが、その見返りも十分過ぎるほど得られているではありませんか。問題が起きたからとそれを否定することは今までの功績、そして受けた恩恵も否定するようなもの」
それは筋が通りますまい……そう口にしながらゆっくりと目を瞑るゼパストル卿。
此度の件があろうがなかろうが、私は元より外征には反対なのだが……まぁ、恩恵を受けて無いとは言えないか。
特に以前制圧した島国……あそこから得られる資源は我が国を大いに潤わせてくれている。
外征卿の遠征……その最大の功績と言っても良いだろう。
そんなルデアクタス卿の力を削ぐのであれば、この男の力が不可欠だ。
此度の問題を利用してどうにかこの男を味方につけ、ルデアクタス卿の力を削がなければ、我が国は終わりなき外勢力との戦いを続けることになる。
今回の件……それから将来的な労働力不足を口実に、ゼパストル卿と話を進める方向で行くか。




