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第34話 何か来た



View of エクスタ=カレンツォ ミルオース中央皇国 四大公 統制卿






「人手が足りなくなる?」


「えぇ。近い将来必ずそうなるでしょうな」


 ぷふーと間抜けな音を立てながらゼパストル卿がため息をつく。


 この方……長年商流卿として君臨し続けてきたゼパストル卿は、道化のような身なりや態度を見せることが多いが、この国の誰よりも油断のならない御仁であることは間違いない。


 現在外征卿であるルデアクタス卿の権威が高いのも、この男がその外征を支えているからに他ならないのだから。


「人口がそこまで大きく減ったとは聞いていないが?」


「現時点ではそう目立つものではないでしょう。ですが外征に今後の働き手となり得る若者を取られているのは事実」


「ふむ。しかし、代わりに外征卿が奴隷を送ってくれているのでは?」


 私がそういうと、ゼパストル卿が困ったような表情になる。


「ぷふー、国内の労働力の全てを奴隷で賄うのは難しいですなぁ。それに職人の見習いになる者の数が減れば、将来的に我が国の技術力は落ちてしまいます」


「しかし、命を懸ける兵士と同等の報酬を用意するのは容易ではないだろう?」


 外征卿の軍は徴兵された兵ではなく募集兵。


 その報酬は街でのどんな職よりも高報酬だ。


 無論短期間で稼げる内ではという注意書きは付く。


 そもそも新兵の生存率はそこまで高くないし、生き延びたとしても大怪我を負ってそれ以上戦えなくなることも少なくない。


 短期的に稼げるとは言っても、職人の見習いとなり将来的に一人前の職人となって一生の仕事とできるのであれば、どちらの方が稼げるかは論ずるに値しない。


 命の危険や大怪我の危険は……全く無いとは言わないが、戦場に出ることと比べれば皆無に等しい危険度。


 間違いなく、戦に出るよりも安定した仕事に従事した方が将来性もある。


 とはいえ、外征卿麾下の軍は実力主義として有名だから、何も持たない若者があっという間に立身出世を果たす……という夢を見るものが後を絶たないのだろう。


 実際、類まれなる才能を見せた農民がルデアクタス卿麾下の男爵として取り立てられたことがある。


 多くの若者に夢を持たせる原因となっている有名な話だ。


 しかし、そのような運と実力を持つ者なぞ、数万人に一人と言ったところだろう。


 多くの若者は将来と共にその生を散らすこととなる。


「そこで統制卿であるカレンツォ卿にご相談なのですが、国として職人や技術者となる者たちへ支援をするのはどうでしょうか?」


「国からの支援とは……金銭的な支援ということか?」


「然様。職人見習いは修行の厳しさもさることながら、とにかく金銭的に苦しいですからな。各種職人ギルドを通し見習いに支援金を支給することで、最低限の生活を保障してやるのです」


「……しかし、その制度は悪用されやすくないだろうか?例えば……仕事も修行もさせずに見習いとして登録させて支援金をだまし取るとか、見習いが支援金を受け取っているのだからとその分給金を減らすとか」


 パッと思いつくだけでもいくらでも悪用方法があるだろう。


 ギルドを通すのであれば中抜きもあり得る。


「確かに、悪用しやすい制度ではあります。しかし今手を打たなければ、将来的に国が困窮することになりましょう」


「……」


 五年十年の話ではない。


 しかし、二十年三十年経てばどうだろうか?


 ルデアクタス卿は今後も外征を続けるだろう。


 ならばこの状況は、一時的なものではなく普遍的なものとなる……。


 今はまだゼパストル卿くらいしかそのことに気付いていないが、それが誰の目にも明らかになった時……それはもう手遅れと言えるような状況になった時だ。


 しかし……。


「確かに、手を打つべきという意見には賛成する。しかし支援金を出すといっても予算がない。志願兵となることへの規制をするのはどうだ?」


「それはルデアクタス卿が良い顔をしないかと」


 ゼパストル卿が困ったような表情で言うが……確かにその通りか。


 さすがに直接規制を掛けるような真似をすれば、ルデアクタス卿のいらぬ不興を買いかねない。


 今や外征卿の力は我々四大公の中でも一つ抜きんでている。


 いや、私とゼパストル卿が手を組めば伍することも可能だろうが……この男が私につくことは現状ありえない。


 今は人手不足という問題があることでルデアクタス卿の外征に対し好意的ではないように見えるが、その外征を支えているのはこの男だ。


 外征によって得られる資源や財は外征卿からこの男に流れ、それから国へと還元される。


 外征卿が勝てば勝つ程、この男もまた潤っていくのだ。


 けしてその戦を止めたりはしないだろう。


 ……そうか、ゼパストル卿は国に支援させようとしているのではない。


 支援の話を私に持ち掛け、そして断られるところまで織り込み済みなのだろう。


 回りくどい男だが……。


「それに各種ギルドとの折衝も一筋縄ではいきますまい。寧ろ各種ギルドとのやり取りであれば卿の方が適任ではないかな?商流卿」


「確かに、各種ギルドとの折衝は私に任せて頂いた方が話は早いかもしれませんな」


「……ついでだから予算の方もそちらで用意してはくれないか?正直今年の予算は既に使い道は決まっているし、臨時予算程度では十分な支援はできなかろう」


 こう言って欲しかったのだろう?


 この時期に新しい政策に予算を割けないことはゼパストル卿も百も承知。


 国に……統制卿に打診はしたが予算は下りなかった。


 それ故、商流卿の個人資産から支援金を捻出した。


 国内の政治を取り仕切る私に筋を通しつつ、自身の資産で介入する……それがこの男の狙いだった訳だ。


 まぁ、元々各種ギルドは商流卿の傘下にあると言っても過言ではない。


 それに、支援金を出したところでこの男が得る利権も……現状から見れば微々たるもの……目くじらを立てる程のことでもないだろう。


「畏まりました。では、この件は私の差配で進めさせていただきます」


「ところで話は変わるが、ローフラン川の治水工事だが長雨の影響で工期が伸びてしまって予算を越えてしまいそうなのだが……」


「それはいけませんね。神皇陛下の直轄地での治水工事が滞ってしまっては四大公の名折れ。是非私に資金を提供させて頂きたい」


「それは助かる。このままでは予算不足で工事を中断せざるを得なかったのでな……」


 私が礼を言うと、ゼパストル卿は微笑みながら頭を下げる。


 この件の対価としては問題ない範囲だろう。


 当然だが、多少工期が伸びたところで問題ないくらい予算はしっかり組んでいる。


 これはあくまで商流卿からの寄付ではあるが、同時に私の領域に口と手をだしたゼパストル卿からの詫びでもあるのだ。


「カレンツォ閣下、ゼパストル閣下。御歓談中申し訳ありません。ルデアクタス領から緊急の早馬が到着しました」


 部屋の外からそんな言葉が聞こえてくる。


「緊急……?穏やかではありませんね」


 訝しげな表情で唸る様に言うゼパストル卿。


 私もいい予感はしないが、聞かない訳にはいくまい。


「入れ。内容を聞かせろ」


「はっ、失礼します。ルデアクタス領最北の港、サレーン港に外征卿麾下の第七艦隊所属の船団が帰港し、新大陸の発見を報告。更にその地の王を連れ帰ってきたと……」


「「……」」


 どうやら随分な厄介事のようだ。



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― 新着の感想 ―
あーなるほど。こちら側の認識としては「連れ帰ってきた」になるんですね、そりゃそうだ。まさかボコボコにされて恭順させられ国を売りに帰ったとは夢にも思わないでしょうから。
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