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第33話 航海日誌(本番)



View of アイナス=エフリート 元ミルオース中央皇国 第七艦隊所属 三等航海士






 エインヘリア王陛下からミルオース中央皇国に向けて出発するにあたり、激励の御言葉を頂戴した。


 初めて見た王の姿は威風堂々としていて、エインヘリアという凄まじいとしか表現しようのない国に相応しいお姿だったといえる。


 これからは、あの方にお仕えするのだ。


 勿論あの短い時間だけでどのような方なのかはわからないが……それでも、ひと目見て不安になるような方でなかったのは安心できた。


 あの方を敵に回すのは少し……いや、かなり恐ろしい。


 それも安心できた理由の一つかもしれないな。


 無事にこの航海を終え、エインヘリアに戻ることができれば……そして陛下の名の下に約束いただけた家族の移住が完了すれば、心配事は……祖国との戦争だけとなる。


 まぁ、エインヘリアが負けることは想像できないが……。


 我々が命を懸けてエインヘリアのあるこの大陸へやって来た時とは別物の旅路となるだろうと確信させる、数多の魔道具を生み出したエインヘリア。


 そして、我々の船を基に建造された補給艦と呼ばれる大型の船。


 恐らく我々の船に載せられている魔道具以外にも色々な魔道具が使用されている筈だ。


 正直、捕虜として軟禁されていた時に考えていた時よりも明確に、エインヘリアに敵対してはいけないとの認識を訓練中に得た。


 他の皆も同じ意見のようだし、不安に思っていた事案……航海中の内乱についても問題はなさそうだ。


 今まで数々の航海をしてきたが、此度の航海はかつて経験したいずれのものとも違う航海になるだろう。






一日目・晴れ


 長い旅が始まった。


 途中で補給をしなくてもいいこともあり、航海予定はかなり短くなっている。


 海の旅は予定通り行く事は殆ど無いが、それでも四か月はかからないだろう。


 順調にいけば三か月前後……無事に全員でこの国に戻ってきたいものだ。





十日目・雨


 航海は非常に順調だ。


 雨は降っているのに波が穏やかという、非常に気持ちの悪い天気だが航海が順調なのだから文句を言っては罰が当たるというものだ。






十四日目・曇り


 以前の長期航行訓練の際、毎日のように羊が補給艦から一匹渡されていたが、本番の航海では七日に一回、各船に一匹ずつ渡されている。


 家畜番が言うには、恐ろしく上質な羊で羊毛も皮も肉も一級品以上の代物らしい。


 そして鳴きはするものの驚くほどおとなしく従順だそうだ。


 不思議なことに訓練の時からずっと計ったように同じ大きさで、同じ品質、さらに同じくらい従順だという。


 おおよそ、家畜として考え得る最高の状態……そう興奮して語っていた。


 エインヘリアには家畜の統一規格のような物があるのだろうか?






二十一日目・晴れ


 精製された塩の量が大変なことになってきた。


 それだけ水を海水から生成しているということだが、全く消費が追いつかない。


 海に投棄しても良いのだが、これ程上質な塩は貴重なので躊躇いがある。


 とはいっても、この辺りで塩を売ったり譲ったりできる相手はいない。


 ……補給艦の方に相談してみるのもいいかもしれない。


 




二十二日目・晴れ


 精製された塩は、補給艦に預けることになった。


 積載量的にはかなり余裕があるらしい。


 まぁ、今日までに野菜や魚、羊を大量に受け取っているし、その分塩を載せてもかなり余裕があるだろう。


 しかし、まだ航海予定の半分も過ぎていないというのに、毎日大量に物資を供給してくれているが、最後まで物資は持つのだろうか?


 少しその辺りを聞いておいた方がいいかもしれない。






二十三日目・晴れ


 物資については問題ないようだ。


 一年の航海にも対応できるそうだが……それは積みすぎなのでは?


 物資は補給艦にだけ載せている訳ではなく、私たちの船にも当然ミルオース中央皇国までの旅路に堪えられるだけの物資は載せてある。


 いや、水が確保出来たおかげで酒の量を減らすことができたこともあり、物資はかなり潤沢にこちらも準備出来ているのだ。


 勿論普段から節約をした上での潤沢という意味だが……。


 しかし、補給艦とエインヘリアで作られた魔道具のお陰で、殆ど陸にいる頃と変わらない食事をとることができている。


 もう補給艦やエインヘリアの魔道具無しでの航海に堪えられないかもしれない。


 部下たちが冗談交じりにそんなことを言っていたが、この航海が終わる頃には……皆が本気でそう口にするのではないだろうか?


 勿論私も。






三十八日目・雨


 晴れようが、曇りだろうが、雨だろうが、雷だろうが……我々の航海は恐ろしいまでに穏やかで順調だ。


 『海神わだつみの護符』の効果はわかっていた。


 だから、順調な航海になることは事前にわかっていたのだが……あまりにも順調すぎる。


 この航海日誌も……殆どの日付が問題なかった、順調だったというような記述となっていて、読み返す意味が殆ど無い。


 順調であることに文句などないのだが、理不尽なものを覚えないかと言われれば……まぁ、なんというか……。






五十日目・嵐


 以前の訓練の時同様、嵐が来ても我々の周囲の波風は穏やかだ。


 嵐が来たというか、我々の近くまでは来ていないというか……。


 今までであれば……下手をせずとも、大きな嵐によって船団に被害……はぐれる船が出てもおかしくはない。


 離れた位置で仲間の船が転覆する姿を幾度も目にした。


 その心配がない。


 何と素晴らしい魔道具だろうか?


 我々海で生きる者は信心深い者が多い。


 私はそうでもないが……人の身では抗いようのない自然というものと相対するにあたり、何か大いなるものに縋ってしまう考えは私にも理解できてしまう。


 しかし、船員の中で『海神わだつみの護符』に祈りを捧げている者が少なからずいる。


 これが魔道具であることは、船員の全員が知るところだ。


 だからあの祈りは……恐らく、これを生み出したエインヘリアに捧げられているのだろう。


 その気持ちもまた……理解できてしまうが。






六十三日目・晴れ


 エインヘリアを出発して二か月以上が経過した。


 ここまで一つの問題も起こっていない。


 航海は順調だ。






七十一日目・曇り


 あと十日程でミルオース中央皇国に到着する。


 本当に何もなかった。


 安全で安定した航海。


 食料や水に苦労することのなかった航海。


 緊張感と無縁とは言わないが、七十日以上に渡りずっと穏やかな気持ちでいられた航海は初めてだ。


 船員たちの姿も清潔で、皆が活力に満ちている。


 今船旅を始めたところだと言っても信じられるくらい、健康的で小奇麗な状態だ。


 普通は、出航してから七十日も経てば皆凄まじい姿になっているからな……。


 しかしエインヘリアの元で働くのであれば、恐らく今後もこのような航海をするのだろう。






七十六日目・曇り


 あまりにも順調に進んできた航海だったが、あと三日でミルオース中央皇国の大陸に到着するという距離までやってきてしまった。


 本当に……楽な旅だった。


 新人がいたら、これが普通の船旅だと思うなと再三注意したに違いない。


 幸いにしてそんな勘違いをする者は一人もいないが。


 それはそうと……明日の朝、各船の上級将官全員で補給艦に来るように言われている。


 ミルオース中央皇国へ到着後のことを打ち合わせしておくとのことだ。


 更に補給艦に搭載されている各種魔道具や設備を案内してくれるらしい。


 明日分の補給物資を受け取る前に案内してくれるとのことだが……そういえば明日は七の倍数日だから羊が貰える日だな。


 あと三日で到着予定なので、羊が貰える最終日となる訳か……家畜番や料理人に少し料理を張り切るよう頼んでおくか。






七十七日目・雷雨


 羊が生っていた。






七十九日目・晴れ


 みるおーすちゅうおうこうこくのたいりくにかえってきた。


 ここからはきをひきしめないとな!



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― 新着の感想 ―
恒 例 行 事
見ちゃったかー
あーんまた羊の犠牲者が!? しかしこれ元の船を返せというか接収しようとしないかな……まあそれならそれで魔道具だけ外しそうだけども
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