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相棒のスライムを連れて  作者: 野生のスライム
四騎士の塔
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スライムの主張

今回はマテルではない方に焦点を当ててみました。

前半はこの世界での常識的な歴史の話。日本でいう織田信長みたいな知名度。

後半はあのとき、あの行動はこんな意味で、みたいな話。

 


 マテルの召喚により、この世に顕現した従魔。その見た目から誰もが水の従魔だと誤認するが、性質は全くもって異なっているものだった。


 過去に、これと同じ性質を持った存在が一匹いた。

 人魔大戦時代のおり、突如として出現し、世界を震撼させた災厄の化身。文明の破局、生命体の破滅を体現させた魔物(・・)。泥の山とも漆黒の大地とも呼べる粘性生物。かの時代の人々はそれを『スライム』と呼称した。


 スライムが最初に人の前に現れたとき、まだソレは水溜まりのような大きさでしかなかった。だが、村に出没し、多くの人間、家畜を飲み込んで、甚大なる被害を国の耳に届かせる。


 やがて指定危険生物として、一つの国でスライムと呼ばれ始めた。当然、国は討伐隊を派遣する。魔物を侮ってはならないのだ。

 だから当時、隣国に存在した世界最強の名を背負う、巨大なドラゴン率いるドラゴン隊に国は助力を求めた。隣国に依頼をしたのだ。借りを作ることになったとしても、この魔物を殺さなければより手痛い結果を被ると、国王はそう考えたらしい。


 しかし、ドラゴン隊でさえ、ソレを殺すことはできなかった。一切の物理的な攻撃が効かなかったのだ。炎も、風も、水も、毒も、何一つとして有効打にはならなかった。燃やしても無傷、吹き飛ばそうが意味もなく、水圧、激流、並の魔物なら潰れ、ちぎれ、溺れ死ぬ何もかもを受けて、それでもなおスライムは平然としていた。

 そして、一つの油断から何人かの隊員が喰われた。こちらは飛んでいるから大丈夫だ、なんて考えの者が、大きく跳び跳ねたスライムに潰された。

 その恐怖は伝染し、ドラゴン隊は敗走する道を辿る。

 やがて、スライムという名前が世界中に広まったのは、ドラゴン隊が敗走して、一つの国が飲み込まれてからであった。

 多くの人間が逃げて、抵抗して、沢山死んでいった。たった一匹の魔物によってだ。


 スライムの特性として、そのときに知られたことがある。それは食べた分だけ大きくなるのだ、スライムという魔物は。だから国なんて飲み込むほどに大きくなって、そんな多くを飲み込んだのだからもう手がつけられない。


 ソレがどこから、どうして生まれたのかを、誰もが恐怖を感じながらに考えた。けれどそれは、スライムが魔物というだけで野暮な疑問ではあった。無駄だと誰もが分かっていた。考えたって現状が打開できるわけではないことを、意味のないことをして平然を装わなければ気が狂ってしまうことを。


 また一つ、国が飲まれたと紙面に飾られて、世界の終末の一端が人々の目に送られた。遠くの国ではどこか現実味のない事実に呆けて、近くの国は次は自分だと死に駆られて逃げる準備を始める。


 常識の範囲内において、町の外というのはほとんど無人であるはずだった。まだ人間と魔物が暮らす領域があやふやで、時折町に迷い込む魔物の対処で手一杯な時代だ。魔物が跋扈するような外に、好んで出ていく者は少なかった。そのはずであった。


 しかし、当時の外は人に溢れていた。スライムから逃げ、住む場所を失い、他の魔物に怯える避難民。

 隣国では駄目だ。もうじきスライムが飲み込むだろう。では更に遠くへ。そう考えて、何でもない普通の動物に食い殺される。他の魔物に殺される。不注意が、自然災害が、容赦なく人間に牙を剥く。


 当たり前だった。当たり前だったのに、スライムから逃げればなんとかなると、人々は思ってしまった。あまりにも大きな死の影に隠されていたから、そんな常識的な危機でさえ、人々は忘れてしまっていたのだ。


 人魔大戦の被害の内、六割はスライムがもたらした結果と言える。それが直接的であれ、間接的であれ、多くの命が一匹の魔物によって失われたという事実に変わりはない。


 ではなぜ、今も世界が存続しているのか。なぜ、マテル達の代は産まれ、そしてスライムに怯えないのか。


 それは、いないからだ。スライムが、人魔大戦時代以降、忽然と姿を消したからである。出現が急なら消失も急。いくつもの国を飲み込んで、多大なる土地を食い荒らし、我が物顔で大陸を移動していたスライムは、しかし誰の目にも映らぬまま、どこかへと消えた。

 誰もスライムが死んだ姿を確認していない、しかし現在、誰もあのスライムを見てはいない。最後の目撃者は、飲み込まれていく国を背に従魔を使って車を走らせる人々だった。


 現在の歴史評論家界隈では、このスライムの行方について二つの説を提唱し、未だ証拠もなくどちらが正しいかの言い争いが起こっている。


 一つの説は、スライム従魔説。

 信じがたいことになるが、実はスライムは魔物などではなく、世界を破滅させられるだけの力を持った従魔。すなわちスライムを召喚した者がいて、その者は破滅願望、もしくは世界征服なんぞを考えていた、というもの。最後はなんらかの理由で召喚者が死亡し、それに伴ってスライムも消滅したのではないか。だからスライムは見つからないんだという説だ。


 もう一つは、スライム海底移住説。

 人が観測できないほどの深海、何かしらの目的で海へ進み、もしくは最後に目撃された国の位置から、単に近くにあった海水を飲もうとして、スライムはそこに落ちた。流石のスライムもあまりの水圧で上がるに上がれなくなっているという説。

 ただこの説はあまり支持されていない。スライムが歴史上通りに何でも飲み込み、とてつもない大きさを誇るのなら、海の水は日に日に減っていても可笑しくない。だというのに海は至って平和だ。

 それに魔物だというのならそこまで息を止められるのか、という話にもなる。ドラゴン隊の水攻めも、丸一日掛けていたとしても一年続けていたわけではない。

 つまり、その説を信じるのなら、陸にいた魔物が、魚でもないのに海の中にずっといることになる。いったい人魔大戦から何百年経っていると思っているんだと、その間ずっと息でも止めているのかと、そういう意見が多いのだ。


 世間では一つ目の説が信じられている。勿論この説が真実というわけではないので、お伽噺のような感覚で認識されていた。最近では創作で劇になっていたりと、なんらかの題材で使われていたりもする。



 さて、このように世界で恐れられていたスライムなのだが、マテルにより召喚された同類は、あまりにもスライムらしくなかった。

 一人の人間の腕に収まる大きさ、伝えられた色とは似ても似つかぬ白色の体。むしろ誰がこれをスライムと思うんだ、という要素を引っ提げて現れたのだから、やはり水の従魔と思われても仕方がなかった。


「曲者ッ!」


 取り敢えず、ゴネットがマテルに話し掛けたところまで話を進めよう。スライムが、なぜか召喚者(マテル)は水を出せることを前提になんやかんやしてくると、辟易していた頃の話だ。

 外での水浴び兼水分チャージで気分転換をしていたスライムは、自らの召喚者に忍び寄る一つの影を見つめていた。従魔にとっての召喚者とは己の命のようなものだ。明確な敵、もしくは素性の分からない者であれば、即座にスライムは攻撃を仕掛けていた。だが、相手に攻撃の意思は見られなかった。だからスライムは傍観に徹することにしたのだ。


 それが召喚者の知り合いで険悪な間柄ではないと知ったスライムは、早々にゴネットへの興味を失った。自身はただ与えられた水を享受する。やがて降り注ぐ水がなくなり、スライムは身体中の水滴を残さず飲み込む。

 そうして、どうしたものかとスライムが考えれば、何かがゴネットの背を滑るようにして降りてきたではないか。そしてそれは当然の如く喋り始めた。


「お前があいつの半身(パートナー)か? 俺はドラゴンなんだ。凄くないか? 最強だぞ、最強」


 スライムの目の前に躍り出たそれは、きっと自分を主人公だと疑わない性格をしているのだろう。自らを主軸に話始めた自称ドラゴンは、そう鳴いた。

 スライムにはその言葉の意味を理解できたし、この世に生まれてすぐ、自らが従魔、目の前の男が己の召喚者だということを認識した。いや、従魔は生まれてすぐは無知蒙昧なのだ。だが生まれる前に知識を蓄えてくる。だから始めから知識があるように見える。

 それはさて置き、スライムは捲し立てられた言葉に答えなければならなかった。なぜならば、答えなければずっと話し掛けられ続けると、そんな直感が働いたからに他ならない。


「最強かは知らないけど、君って本当にドラゴン? もっと大きいと思ってたんだけど」


 手話というものがあるように、スライムは全身を使ってコンタクトを取る。跳び跳ねるという単純な行動に、どうやったらそこまでの情報を詰め込めるのかは甚だ不思議ではあるが、ドラゴンにはそれで伝わったのだから、突如奇妙な踊りをするスライムにはならなかった。


「はん、誰もが俺をドラゴンって言ってんだ。既存のドラゴンが何であれ、俺はドラゴンに違いはないだろう?」

「うん。言いたいことは分かるよ? 賛成はできかねるけどね」

「んでんで、俺はパリトって名前なんだ。お前はなんていう名前なんだ?」


 話を聞いていない。スライムはその事実だけで察するだろう。「あ、こいつ面倒臭いやつだ」と。しかし無視をするのはいただけない。目の前のドラゴンは十中八九召喚者の友人、その従魔だ。ともなれば、召喚者の顔を立てるとまでは言わないが、仲良くしないと自身の召喚者がその友人に良く思われないのではないか。そんな危惧がスライムの中にはあった。

 だからスライムは話を続ける。端から見て仲良くしていれば、それだけで避けられる物事があったのだから。


「僕はミズノジュウマって呼ばれてたから、それが名前なんだと思うよ。よろしくねパリト」

「あー、いや、水の従魔って総称なんじゃねぇの? 〇〇の従魔って言ってんだから。え? もしかして名前ない?」

「そんなわけないだろう。だって僕水の従魔じゃないし、それっぽいからミズノジュウマって名前に」

「でもよ、俺も最初はドラゴンって呼ばれてたんだぜ? んで後から俺の召喚者にパリトって名前をもらったんだ。だからたぶん、お前のそれはお前の名前じゃないと思う」


 パリトの言う言葉を、その知能で咀嚼して、何か可笑しな点がないかを吟味してから、スライムは気づく。未だ自身には名前がないのだという衝撃的な真実に。


 その後、旅立ち準備中のマテルの周りを、名前をつけてと跳ね続けたのは、まぁ、割愛としておこう。




ということで従魔側のお話でした。

あと一回続きます。


この世界での白って要は織田信長が純白ロリに転生、みたいな? 同一性質であって同一存在ではないから転生ではないんだけど。つまり白は、スライムですって言っても誰もが「まっさか~」って返す感じの立ち位置なんですよね。

それが今回言いたかったことですッ!


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