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相棒のスライムを連れて  作者: 野生のスライム
四騎士の塔
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最強の片鱗

 


 しばらく他愛のない雑談をしなから歩いていたら、いつの間にか日が昇り始めていることに僕は気がついた。

 向かって右側の山から姿を覗かせるそれは、辺りを照らしながら、もう半分ほど出てきている。空の澄み切った青と相まってとても綺麗な光景だ。


「白、水筒取って」


 今の今まで水分補給なんてしていなかったから、ふと喉が渇いてきたなと思って、雑談のうるささでか目覚めた白に、水筒を取ってもらった。

 その一連の動きは器用なもので、僕の背後だから見えはしないものの、白は水のように体を物の隙間に滑り込ませ、水筒の下からその身体を伸ばし、落ちないようにしながら水筒を持ち上げる。リュックサックから大きくはみ出てくるそこを僕が掴む、といった具合。


 実は家を出る準備中、白をどう運ぼうかと僕は悩み、リュックサックの中に詰めようか、その上に乗せようかと白に聞いてみた。すると白は物の詰まったリュックサックの中を、その小さな隙間をするすると縫うようにして入っていって、見事に中に納まった、ということがあった。

 その後、リュックサックから出てきてその上でぴょんぴょんと跳ねていたから、基本はリュックサックの上、何かあったり気分で変えたいときは移動する。その話はそんなところに落ち着いた。


 で、水筒を取ってもらったのはその応用だ。ちょっと無茶なことを振ったかな? と思っていたら、ゆるりと水筒が出てきたのだ。だからリュックサック内部の様子は想像に難くなかった。


 それで僕は日の出を拝みながら渇いた喉を潤した。

 家から持ってきた普通の水なのに、癖になりそうなほど美味しい。今までにこれほどの水を飲んだことはあるだろうか嫌ない。僕は自信をもって否定できるね。この水の美味しさは今の状況にあるんだから、同じ味は今後一生味わえないはずだ。


「ん? あれ? マテル、そいつ水の従魔じゃないのか?」

「いや? 教会で水の従魔だって聞いたけど」

「じゃあ水筒要らなくないか? その辺の草を食べさせれば勝手にその水分を水に変えてくれるんだろ?」


 あぁ、そういうことか。ちょっとだけ何で長旅に水筒が要らないのかを、真面目に考えちゃったじゃないか。

 そうだよね。普通はそうだ。水の従魔の代名詞のような能力。水の従魔を連れているのなら、この辺じゃあ水は作りたい放題だ。だって沢山雑草が生い茂っているんだもの。


「それがさぁ、白って何あげても水を作ってくれないんだよね」

「はぁ!? え? じゃあもしかしてそいつ、水の従魔っぽい従魔ってことか?」

「どうなんだろうね。その辺僕には分からないし、別に水の従魔じゃなくても僕はいいから」

「あぁそう、早めに気づけて良かったよ。……目先の問題は飲み水の確保だな」


 最後の言葉は聞き取りづらいほどに小さかった。何かを考えているのか、ゴネットは絡まっている後ろ髪を掻いてとく。寝癖を今更直してる。癖っ毛だから元通りになってるけど。

 そしてゴネットは、自らが装備している腰のポーチに手を動かし、そこから一口大のブドウのような黒い球体を取り出して、そのまま口に放り込んだ。


 どこかで見覚えのある球体だった。果物だったようなということを一つ僕は思い出し、そこから流れるように昔の授業での話が蘇る。


『ミドの実』


 乾燥地帯に自生する『ミド』と呼ばれる木がある。これは生命力が強いことで知られていて、乾燥地帯に存在する植物特有の、水を溜め込むことに特化している木と言えた。

 樹木本体には水を溜め込むための空間がある。そしてその木になる実も、大きく膨れるほどに水を貯蔵する。しかも一つの木になる実の量は、大きい木では貯めた水量が軽く小さな湖を越えるとまで言われている。

 水を溜め込むだけ溜め込んで、ミド自体はそれほど水を必要としない進化をしてきたようで、湖のような量もあながち嘘ではないらしい。


 で、必要のない分の水がどんどんと増えて、やがて内部を破裂させるほどまでに集まると、ミドは実を作り、そちらに過剰分の水を送る。これが理由でミドの実は瑞々しいという表現を超越し、ほぼ水という評価を受けている。

 やや硬い、しかし食べられないほどでもない皮に包まれたその中には、果肉ではなく果汁が詰まっている。別名小さなオアシスとも呼ばれる由縁だ。


 かつて人魔大戦と呼ばれる、人と魔物との活動領域を巡る争いがあったと僕は歴史の授業で習った。その際、このミドの実が携帯飲料として注目され、世界各地にミドが広まった。

 園芸、料理の隠し味、やや甘い果汁を楽しむ嗜好品、その他様々。現在の世界でミドが普及しているのはその名残なのだそうだ。


 僕も子供の頃に、二、三回おやつで食べたことがある。果肉は表皮の裏に薄く張り付いている程度で、中身はほんのり甘い水。しっかり味わってみればそんなに美味しくもないんだけど、喉が渇いているときなんかは無条件で手を伸ばしていた。


 なんだか懐かしい記憶も合わさって久しぶりに食べたくなってしまった。どうしよう。ゴネットをいじめっこから守った恩は三日分までは返してもらっているし、そろそろ四日目の恩を取り立てる頃合いだろうか。

 なんて考えていれば、たぶん僕は物欲しそうな目でもしていたのだろう。ゴネットはミドの実を飲み込んで、更にポーチへと手を動かした。


「一個だけだからな! これ、旅での俺の飲み水なんだからな!」


 僕はまだ何も言っていないのに、文句を吐きながらもゴネットはミドの実を一個くれた。なんだかんだ言いながらも、仕方なく僕の要望に答えてくれるゴネット。君のような友達を持てて僕は嬉しいよ。

 でも今はそんなに喉渇いてないんだよね。だから僕はお礼を言って、受け取るだけ受け取って手のひらでミドの実を転がして遊ぶ。生命力の強いミドの実は、収穫されてから三十日ほど鮮度を保つらしいから後で食べることにしよう。


「ったく、分かってるのか? 夜が明けたんだ。いつ目覚めた魔物が来るか分からないんだぞ」


 自分でミドの実を渡してきたというのに、ゴネットはドラゴンを撫でながら何を言ってるんだろう。何で僕が文句を言われなきゃいけないのか。あぁ理解しているさ、僕の態度に問題があることは。でもね、それでもやっぱりゴネットは何を言ってるんだろうって思うんだ。

 だから当然として僕は反論をした。


「でもこんなに見渡しがいいのに魔物なんていないよ? しばらくは大丈夫だって」

「そう、だけど……ぁいや、いない、いなさすぎる!」


 言葉を徐々に失っていったと思ったら、前後左右ぐるぐると周囲を見回して、ゴネットは叫んだ。その言葉からは焦りしか感じられず、事態がよく分かっていない僕でも何かが不味いということだけは明確に理解できた。


 そして、ソレは気づかれたと察したのだろう。先ほどまでは虎視眈々とこちらを見ていたのかもしれない。

 それが力量を測っていたのか、狩り方を考えていたのか、獲物の味を予想していたのか、魔物の心なんて僕には分からない。だけれどそんな時間は終わった。ソレは止めたらしい。今度は獲物を逃がすものかと勢いよく迫ることにしたんだ。


 僕はソレに気がつかなかった。草むらが揺れる。全体的に、だ。だから四方八方から物音がする。何かが蠢いている。だというのに僕は今の今まで囲われていることに気がついていなかった。


 最初に反応したのはゴネットだった。ゴネットは人間だ。魔物と戦うことなんてできはしない。だからただ、ゴネットは従魔(パートナー)の名前を叫んだんだ。


「パリトッ!」


 呼ばれたドラゴンは不満げにゴネットの肩から降りる。背中から生えた一対の翼を羽ばたかせて、滑空するような形で手足を土につけた。

 やがて魔物が姿を(あらわ)にした。すぐに食いつけばいいものを、自身よりも小さいものしかいないと、慢心に満ちて、いたぶろうとでも考えたのか。ソレは僕らを見下ろした。


 たった一匹の蛇だった。草原にその身を走らせていたのは、僕らを囲い込んでいたのは、とても薄い、横に潰れた緑色の蛇だった。

 低い草丈でも隠れられるほどに薄いソレは、冗談のように僕らを見下ろす。大き過ぎだ。いや、長過ぎるって言えばいいのか。どこにも逃げられないほどに、僕らはその一匹の蛇に包囲されていた。その範囲もじわじわと迫り来て、蛇はどこか嫌らしく笑っているように見えた。


 僕は動けなかった。動けば飲み込まれる気がしてならなかった。逃げたくても今いる場所が一番蛇から遠い。どうしようもなかった。

 だから、どうしようかという選択肢が与えられているゴネットは、笑っていられるのだろう。いや、よくよく見れば少し震えている。あれは意地だ。昔、いじめっこの前で虚勢を張ってた様子に酷似している。まず間違いない。


 この状況。白だったらどうにかできたりするのだろうか。水の従魔、ないしそれに近い従魔だ。わざと白を食べさせて、喉に張り付けさせれば窒息死が狙えるかもしれない。勿論、無理矢理投げ入れれば僕と白との関係悪化は否めないけど。僕一人の旅だったら、きっと僕はそうしていたんだろう。目前に現れるまで気づけなくて、食べられそうになったときに白を投げて、それで生き残れるかは分からないけど、そうしていたと思う。


 でも、一人じゃない。僕には頼れる幼馴染みがいて、今がその頼り時なんだ。

 ほら、ドラゴン君が機嫌悪そうに(・・・・・・)そっちへ行った。不機嫌ってやつだ。不思議と今の状況ならドラゴン君の内心を知ることができた。分かりやす過ぎるその顔は、せっかく撫でてもらってたのに邪魔してんじゃねぇッ! って感じかな? 口角が震え、眼光が静かな怒りを放っている。


 それで、そこからは早かった。ドラゴン君、ゴネットはパリトって呼んでたっけ。じゃあパリト君。なんと蛇に唾を吐いた。それはもう、火を吹いているってのに唾を吐いていた。割合は二対八くらいで火が負けている。

 唾が目に掛かった蛇は悶え苦しみ、そこへ更に追い撃ちと、ぺっぺぺっぺと蛇の顔面に向かって唾を飛ばすパリト君。

 やがて、蛇が動かなくなったと思ったら死んでいた。死んじゃっていたのだ。なんとも呆気ない最後というかなんというか。


 パリト君は清々しそうにゴネットのところへと戻る。粛清が終わったからか、もう一度撫でてもらおうと考えているのか、端から見てもパリト君はとても気分が良さそうだった。







ドラゴン怖いってことで。……いや饅頭怖いじゃないよ?


ドラゴンのパリト君。

その召喚者ゴネット。

ゴネットの名前はドラゴネットからとりました。

ドラゴネットって毒を持つ小さなドラゴンのことみたいで、従魔は毒の名前にしようと。

そう! 聡明な読者の方々はパリトという名前が出てきた時点でお気づきでしょう!

パリト君の名前はパリトキシンからとりました! あのフグ毒、テトロドトキシンよりも強い毒ですね!

それだけです!

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