思わぬ再会
待たせたな!(三週間)
「おつかれ~!」
現在、僕とショーンは『サルメスタ』に席を取り、僕はミドのジュースを、ショーンはお酒を飲みながらお昼の休憩として足を伸ばしていた。
あの部屋を出てからのこと。
僕らは帰り道、魔物に襲われるだとかの問題もなく、遺跡から外へと帰ることができた。内部は巣窟だと言うわりにはそれらとの遭遇率が変動しない。外に出るまで緊張を張り付けていた僕は、それが少し引っ掛かった。
ともあれ、拍子抜けするくらい無事だった僕らは、その後調査団の人達にあの部屋の報告をした。綱をあのままに残して帰ってきたから、調査はそれを目印に行き来するそうだ。
で、確たる過去の遺物を発見した者には国から報奨金が与えられるらしく、調査団経由で僕らはそれを受け取った。
金額としては大して多くはなく、僕とショーンそれぞれが銀貨三枚ずつであった。一日の稼ぎとして考えるのなら悪くはないのだけど、如何せん遺跡調査の発見報酬ともなると安いように感じる。
だが、思わぬ稼ぎが入ったのは事実ではある。時間帯も時間帯であり、丁度良さそうだったのも合わさって、その後僕らはサルメスタへと訪れたのだ。
無論、遺跡の中での的外れな考えは、的外れのままに終わってくれた。サルメスタが未だ営業しているのが良い証拠だろう。
そんな昼間の休息時間。報酬に貰った金額が少なくはないかという考えを僕はショーンに話してみた。
「で、ショーンはどう思う?」
「それはあれだ。報奨金目当ての防止。精巧な偽物を持ち込んだり、遺跡の壁に落書きをさせないためさ」
追加で注文したパンを口に含みながら、言葉の合間にショーンは「確かに美味しい」と呟く。お酒を飲んでいるというのに、やはり酔った様子を見せない毅然とした態度は慣れだろうか。
飲まない僕には分からないことだと、そんなどうでもいい疑問をジュースと一緒に喉の奥へ流す。
ショーンの言う通りであれば、例えば報酬目当てとして壁に文字みたいなのを彫って虚偽の報告など、あり得るのだろうか。
そんな偽造が通るとは僕は思わないのだけど、きっとそうは思わない人もいるのだろう。その場合、傷をつけた時点で遺跡としては価値を落とすことになりかねない。だから報酬は安い方が良いと。
「じゃあ、報酬が安いとそういった人は出てこないの?」
「一概にそうとも言えないけどね。でもその辺りはダァシャイヤスの裁量だ。遺跡に入る人間はある程度選別されているんだよ」
つまり、遺跡に入ろうとする人数を抑えた上で、更にふるいにかけているのか。
まぁそもそも、遺跡調査は調査団の分野で、僕らみたいなのは内部の魔物なんかを片付けるのが役目だもんね。となると、その過程での発見はお小遣い稼ぎのようなものと言える。
こう考えてみると銀貨三枚、それなりに多い量なのだろう。もっと稼ぎたいのなら、本命である魔物を狩れってことだ。
それは分かったのだけど、遺跡に入れるのがダァシャイヤスさんの裁量次第となると、僕が入れたのはどういった判断だったのだろうかと、ふと気になった。
「ちなみに君は僕が保証人って形で入場が許可されたんだと思うよ」
どうやら顔に出ていたらしい。
なるほど、四騎士の保証ならばどこぞの誰だとしても責任は問えるだろう。
つまるところ僕が何かやらかしたらショーンのせいになるということだ。そのときが来たら素直にごめんと言おう。
「ところでさ」
咄嗟に口にできたにしては上出来な疑問。勿論のこと、調査団から銀貨を受け取った時点で抱いてはいた不満ではあったけれど、それは解消された。
ならばこそ、なればこそ、他に現実から目を逸らす話題を持ち合わせない僕は、我慢の限界を理解した。ある種の我慢大会であったのならば、ここで切り出した僕はきっと負けになるはずだ。
テーブルに鎮座する白は僕の悩みなんて気にするところではないようで、悠然と僕にミドの実を催促する。
だから言葉を切って、ミドの果実を少し、コップを傾けるようにして白にあげた僕は、疑問を再開する。
「あの子、ショーンの知り合い?」
僕が指差す先には、見たことのある女の子が立っていた。
日に照らされて鈍く輝く綺麗な茶髪の少女。その風貌からも分かるけれど、遺跡の中ですれ違った女の子に違いなく、店の外からガラス越しにこちらを覗き込んでいた。
ただ、僕らの席は店の中心に寄っている。すなわち、ガラスの張られた壁際、女の子の近くには別のお客さんがいるのだ。
あちらはなんともまぁ食べづらそうに料理を口に運んでいた。しかもあの女の子の視線から察したのか、「お前らの知り合いだろ? 早くなんとかしてくれよ」と言わんばかりにこちらをチラチラと見て訴えかけてくる。言葉にしないのは確信が持てていないからだろう。今はそれに感謝しかない。
仕方ない話だけれど、僕があの娘に気づいたのは先程の疑問を切り出す前であり、彼の必死な訴えが偶然目についたそのときからだ。
明らかというか、あからさまな面倒をわざわざ自分から拾おうとする感性を僕は持っていない。だから僕は無関係を装いたかったし、それを貫きたかったのだけれど、視線が僕を貫いてきて耐えられなかった。
まぁよくよく考えてみれば、このままだとあっちの人からだけではなく、営業妨害とかでお店の方からも訴えられかねないので、僕は意を決してあの触れづらい現実を直視したのだ。
「いや、僕は今日あの遺跡で見たのが初めてだ。僕としてはむしろ、君の知り合いだと思っていたのだけれど」
「それなら遺跡で会ったときに言葉を掛けてる」
「まぁ、そうだろうね」
要するに、今日遺跡で初めて会った僕らを見かけて、「あっ。あの人知ってる~」とあの子はあの場所に立ったまま、僕らを見ているのだろうか。何それ怖い。
とにかく、あのままだと他の人達に迷惑というか、僕らに迷惑が被りそうなので、手で招いてみる。
すると、女の子はキョロキョロと周りを見回して、「私?」とあまりにも不思議そうに首を傾げたのだ。そうだよ早く理解してって、そんなことを言っても聞こえないだろうから、僕はうんうんと首を縦に振るのみに留めた。
「こんにちは~!」
来店直後の開口一番がこうである。
「あれ? 手招いてた相手って私じゃないんですか?」
「いや合ってるけど」
流石に「他の人の邪魔だったから呼んだ」と素直に告げるのは辛辣だろう。
だからまろやかに、厚手の衣を着せた物言いを僕は考えていた。だが、その傍らにショーンはスパッとこう言った。
「あの場に君が止まっていると迷惑する人がいるからね。少し呼ばせて貰ったんだ。僕らに用があるのなら遠慮なく言ってくれて良い」
遠慮のない言葉と共に、少女を無下にしないその心遣い。到底僕には真似できない芸当を難なく口にできるとは、これが格差かと少し羨ましく思う。
「あっ、そういうのじゃないんで」
まぁ、真似しようとは思わないのだけど。
「じゃあ何で僕らを見てたの?」
少し声のトーンが冷めた一撃により、この場を仕切れそうなイケメンが心なし撃沈したので、代わって僕が質問をする。
「久しぶり……っていう期間じゃないけど、見知ったあなた達を見かけたから声を掛けようかなって迷ってね。あはは」
それであの場に立ち続けていたと。
今日初めて会った相手と数時間ぶりに再会。それで「久しぶり」なんて言葉は、僕の勉強不足でなければ普通使わないはずだ。
だからだろうか。目の前の少女が恥ずかしそうに笑っているのを『誤魔化している』と感じるのは。
「じゃあ遅れたけど、こんにちは。僕の名前はマテルで、あっちがショーン。よろしくね」
わざわざ呼んでおいて名乗らないのもどうかと思ったから、僕は僕とショーンの自己紹介を簡単に述べた。印象は良いに越したことはないのだ。
「あっ、私はホゥ……ハウって言うの。十四歳です!」
噛んだのか、二度名前を口にしたハウ。最後は若干勢いに任せて胸を張って締めた。
僕としてはその辺り、名前を噛もうが噛みまいが気にするところではないのだけど、最後だけはあまりにも聞き逃せない内容だった。
「成人していないのに、遺跡に?」
その言葉はショーンからだった。ハウからの突き返しに面食らっていたのかは知らないが、それから早々に復活したようだ。僕の考えを代弁したかのように、同じ疑問を持ったのだろうショーンが会話に交ざる。
「うん、実は家計が火の車でね」
そう答えるハウに、変わる態度は見受けられなかった。何の戸惑いも、躊躇も、危うげすら感じさせないその落ち着いた態度が、変化しない態度が、僕には酷く理解し得ないものに見えた。
普通はあり得ない。どのような理由であろうと従魔を持たない人間が、より言うなれば生身の人間が、魔物に挑もうとするなど正気ではない。
状況が良ければ、知恵を絞れば、魔物が生物の範疇に止まっている程度であれば、一応は狩ることができると聞いたことはある。
だけれども、その一々に命を賭けるにしては、理由がどうしようもなく淡白に過ぎる。
僕がセパリヌから旅立ったのは、白がいたからではない。あのときは白の活躍が未知数だったのだから、そんな無謀はできるはずがない。
始まりの一歩を踏み出せたのは、一重にドラゴンの従魔であるパリト君を連れたゴネットがいたからだ。決してゴネットだけと行こうとは考えないし、パリト君がいなければゴネットだけ旅立つのを見送ろうとも思えない。
世間からの、いや僕の知ってる常識として、ドラゴンの従魔とはそれだけの信頼をして然るべき最低保障なのだ。
今は白に頼っているから、ゴネットがいなくても僕は立つことができる。でもだからといって立ち続けることはできないし、不安は常に抱えている。
だからだろうか。
感情に揺らぎのないハウの喋り方が、他人事のように語るハウの理由が、それらの状況に則していない矛盾に思えてならない。
何をどう否定していいのかは僕にも分からない。自分と違うからといって、ハウを否定したいわけではない。
けれど、水と油が完全に混ざりあっているかのような光景を、一言「あり得ない」と否定できない自分の手持ち無沙汰さが、そう思わせるハウが、どうにも……。
ーー気持ち悪い。
そんな僕のものとは思えない感情が、ふつふつと湧いて出た。
楽しくなってきたぜヒャッハーッ!
と私は今回を書き終わって思うのですが、如何せん3週間も空けたのが申し訳ないです。
毎日顔を覗かせてくれた方が同じ方かは私の知り得ないところですが、アクセス数が0にならなかったのが結構モチベーションの救いになりました。
その辺りを含め、コツコツ書けたことへの感謝を伝えさせてください。
ありがとうございました!
そして、来週からペースを戻せるかなと。
1ヶ月は空けないので、その点は安心くださいと言えないのが今の辛い立場。まぁなんとかなるさ。




