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相棒のスライムを連れて  作者: 野生のスライム
旅立ち
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旅の始まり

 


 保存食も買って家に帰った僕は、買い物袋を居間のテーブルに置いて自室へと急いだ。


 僕が今、手に抱えているものは内緒で買ったナイフ入りの木箱だ。旅立つための護身用、これが僕の両親に見つかれば、僕は何としてでも誤魔化さなければいけない。なぜならば、二人は僕の旅立ちに反対しているからだ。


 僕が昔に旅立ちを語れば、両親は決まってある程度の話を聞いて、最終的に危ないから止めなさいの一点張り。つまり、僕が旅立つにはその一点を掻い潜らなければならないのだけれど、両親に黙って行った方が早いよねってことで。僕は今までピクニックと称してリュックサックやテントを自然にねだり、なんとか集めてきたわけだ。

 今を振り返れば、僕の人を騙す術は両親の非協力から生まれたと言える。


 それで現在、父さんはたまの休日の夕方、必ず外でタンポポ以外の家庭菜園で土いじりをしていて、母さんはこの時間、台所で下準備をしているから居間には居なかった。で、家に入るまでナイフの木箱は買い物袋に入れていたから父さんは気づいていない。今の内にナイフを自室に隠せば母さんも気づかない。

 完璧という言葉がふさわしい結果で、隠すための引き出しを閉める音が、僕のナイフ購入作戦の終わりを告げた。


 夕飯、鉄板から香る肉の存在感と母さん作成のタレが僕のお腹を鳴らした。普段の主食はパンの我が家も、この濃いタレに合わせて今日はご飯となっているのだ。安いとはいえ何種類かに分けて買ったから色んなお肉が食べられる。

 それで白が僕の膝の上に陣取っていたから、僕は興味本意で聞いたのだ。


「白、お肉食べる?」


 すると小さく白は跳ねる。たぶんこれは肯定、食べたいらしい。なんとなくの直感だけど言いたいことは分かる。だから箸でいい具合に焼けた肉にタレをつけて白にあげた。白の上にポトリと落とすと、味わうようにゆっくりとお肉が消えていく。


 そうかそうか、美味しいか。そんな姿を見せられるとこっちも微笑ましくなってしまう。うん? 父さんのタンポポは一瞬で消えたけど、もしかして美味しくなかった?


「おいマテルぅ、その子の名前、白にしたのか? 安直というか、もっと考えてもいいんじゃないか?」


 父さんが、肉を頬張っていた父さんが、物申しげにこっちを見ていたかと思えば、それを飲み込んでそんなことを言ってきた。でもそれを言う資格は父さんには無いと思う。


「父さんのタンポポだってタンポポって言ってるでしょ?」

「いやいや、あいつにだってジェシカという父さんの初恋の人と同じ名前がだな」

「あら、初恋は私だとかぬかしてたのに、初耳ね?」


 捕捉しよう! 僕の母さんの名前は断じてジェシカなどではないと。

 あらまぁ、墓穴を掘っちゃって、僕知ーらない。時たまタンポポの水やりで、「ジェシカー、水は美味しいかぁ」とか言っていて、決まって母さんの前ではタンポポで突き通していたことなんて、僕知ーらない。

 と、二人のことは二人に任せ、僕は焦げそうなお肉を取ってタレにつけて食べる。


「うーん、白、お肉美味しいな!」


 そんな言葉に答えるように、僕の膝の上でパートナーが一回跳ねた。



 その日はいつもよりも早めに寝た僕は、夜が明けていない時間帯に目を覚ました。

 辺りは暗いけれど星明かりのおかげで見えないことはない。白はどうやらまだ寝ているらしくベッドの隅で動いていない。だから軽く叩いて起こす。


「さぁ、白。旅に出るよ」


 リュックサックに保存食は入れた。予備のナイフも入ってる。一本はオマケとして付属されていたベルトに携帯した。このベルトは木箱を開いたときナイフの横に入っていて、纏めて買ったらお得みたいな売り文句がカタログに書いていたから、ついこのセットを買っちゃったんだよね。

 二つ買ったからベルトも二つ。まぁ常にナイフを手に持っておくよりかは断然良いし、ベルトも予備としてね。


 起きた白を背中に、僕は家を出ようとしたらペチと目があった。居間に寝転がってはいても、頭だけは上げてこちらを向いている。そしてペチは器用にも、人間でいう親指にあたる指を立てて僕を見送る。それは確か良い旅をとかに使うハンドサインだったはずだ。あいつ絶対僕より頭いいって。


 そんなこんなで僕はペチに別れを言って、家を出る。この時間帯だ。周囲は寂しいほどに静かで、僕は暗い道を歩く。向かうのはゴネットの家。


「よっ!」

「わぁっ!?」


 辿り着けば玄関から静かに脱け出そうとするゴネットの姿があった。そっと扉を閉めようとする背後から声を掛けたものだから驚かせてしまったらしい。図らずも前回の仕返しができてしまった。

 彼は咄嗟に口を押さえるがそれは遅いと思う。でも彼の家族は起きなかったようで彼の家から物音はしない。


「驚かせるなよ! え? てか何でお前がここにいるんだ?」

「言ったでしょ? 旅立つからだよ」

「言ったって、いつだよ……」

「八年くらい前?」


 確かその頃に通ってた学校でゴネットと出会い、共に夢を語り合ったのだ。旅立つ提案はゴネットから、それに乗っかってドラゴンで旅しようと言ったのが僕だ。そして旅立つ日に互いが集合する場所はゴネットの家の前。よく遊ぶときは彼の家集合だったからその延長だ。


「俺達はもう子供じゃない。これからは妄想の世界じゃない。死ぬかもしれないんだぞ?」

「大丈夫大丈夫、そっちのドラゴン君は頼りにしてるから」


 パタパタと両翼を動かして彼の頭の上に居座っているドラゴンに僕は目を向ける。小さいながらも爬虫類のような黄金の鋭い目つきが格好いい。流石はドラゴン。惚れ惚れするね。


「こいつじゃお前を守りきれるか分からない。魔物が多ければ俺だけで手一杯かもしれないだろ」


 なかなかに食い下がるゴネットに僕は面倒臭くなってきた。いい加減しつこいというか、諦めが悪いというか、昔はもう少しのほほんとしていた気楽なゴネットはどこへ行ったのだろう。やはりあれか、大人になって子供心を忘れてしまった、みたいな。一種の現実思考な成長。


 これ以上続けるのは疲れるし、もうそんなに時間もない。さっさと行こう。そうしよう。


「……もうすぐ夜明けの時間だね。お互い時間は貴重だと僕は思うんだ」

「あのなぁ、毎回言い負けそうになると脅すの止めろよマテル」


 魔物も、野生動物にも、夜行性、昼行性と活動時間がある。どんなに恐ろしい魔物にだって睡眠欲はあるんだ。

 だから今、昼行性が寝ていて、夜行性も静かになり始める絶妙な時間帯に町を出なければならない。それがゴネットの考える安全策。八歳の頃にその提案をされて、僕は「ドラゴンで蹴散らせばいいじゃん」と理解できなかったけれど、今は違う。僕だって成長しているのだ。


「いいよ、分かったよ、ついて来たきゃ来いよ」

「うん。初めからそう言えばいいのに」


 そんな会話の中で、うちの白は向こうのドラゴンを真似しているのか僕の頭の上に移動する。

 それを僕が撫でてやると白は勝ち誇るようにやや伸びて、あちらさんのドラゴンがゴネットの頭に噛みついた。言わんとしていることは分かるけど、ドラゴン君、それは理不尽だと僕は思う。

 まぁ、これから町の外に行くってときだから、緊張が解れるって意味では正解なんだけどさ。いやはや従魔は気楽でいいね。


 少し歩いて行き着くのは町の端。町を囲む長い長い柵がそこにはある。

 それは外と内との境界線を意味するのだけれども、守護という役目に関しては魔物どころか野生動物にも意味を成さないものだった。それでも敢えて意味を言うのなら予防のために存在しているものと答える。


 魔物は頭が良い。この柵を越えて内へと赴けば人間の群れに狩られると理解している。だから魔物は柵を目安に近寄ってこない。

 野生動物はたまに迷い込むときがある。大抵は町に近づく前に魔物に食われたり、そうじゃなくても動物が嫌う臭いを発する植物が柵の周辺に植えられているから、町まで入ってくるのは鼻の鈍いやつか、魔物に追い詰められて逃げてきたやつだ。そういうのは柵に沿って見回りをしている警備隊に討伐されるから、基本的に被害はない。


 柵の前でゴネットは止まって振り返る。遠くなった自らの家がある辺りでも見ているのだろうか。そして何を思ったのだろう。僕には分からないことだけど、なんとなく彼の顔が哀愁を帯びているように見えた。

 僕が家族との別れを惜しんでいるから、彼の顔がそんな風に見えたのかもしれない。でも子供の頃の夢は叶えたいから悔いはない。だから、世界の色んな場所で色んな経験をして、今よりも大人になって帰ってくればいいさ。きっとその時は勝手にいなくなったことを怒られるけど、最後は笑って出迎えてくれる。

 その程度の楽観視くらいは許されても良いはずだ。


 最初に柵を越えたのは僕だ。広い草原は風に揺られて静かに草花を鳴らす。涼しい風が気持ちいい。雨なんて降っていない、旅立つのに最適な天気だ。


「行くよ、ゴネット。折角天気がいいんだから急ごうよ」

「……あぁ、そうだな!」


 吹っ切れた。いや、区切りがついたのかな? 何を悩んでいたのか。その辺り、ドラゴン君は興味なさげにあくびをしている。さっきまで早くしろとでも言いたげにゴネットの頭を尻尾で叩いていたからなぁ。もうちょっと召喚者に興味持ってもいいんじゃない? いや僕が言うのは筋違いなんだけどさ。


 未だ日は昇らない。だけれど空の暗さは薄くなってきた。星々は姿を隠し始め、僕らは前へと進む。

 こうして僕、マテルの旅は始まったのだ。




第一章、完ッ!

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