美味しいの?
この前、くしゃみが完全にウルトラマンな人を見かけたんですよ。
「ヘァッ!」って。
珍しいくしゃみだなぁ~って思っていたんです。
で、昨日。
この作品のブクマがさりげなく3件になっているのを見ましてね。
「ヘェッ!?」ってムスカみたいな声を上げて二度見しました。
ありがとうございます!
では本編始まります!
実際のところ、ショーンと僕らとの距離は、想像をしていたよりも離れてなどはいなかった。足下が見易いとは言え、薄暗さの残る視界が見えない距離を作っていたようだ。
だからダァシャイヤスさんとの会話がそこまで積もることなく、僕らは開けた広場のような場所に出た。
「随分暴れられたみたいだな」
「あぁ、逃げられたけどね」
壁の方を見れば、通路にはなかった模様のようなものが刻まれていて、よくよく見ればその中に絵のようなものもある。大勢の人々が不定形の円のようなものに、石みたいな何かを差し出している、もしくは突き出している絵だ。
そして、僕らの向く先には三つの分かれ道ができていて、最初にショーンが言っていた『入り組んでいる』要素はそこから始まるのだろうと予想がついた。
床には壁とは違う出鱈目な引っ掻き傷のような跡があり、会話から察するに先程できたもののようだ。遺跡自体に価値があるとは?
「ねぇ、その、遺跡って傷つけちゃ駄目なんじゃないの?」
不安に思い、僕はそう聞いてみた。しかし、二人はそう大したことでもないように、その答えを返す。
「魔物相手に完全無傷なんて、鼻から誰も期待していないからな。修復できる程度に抑えれば問題ない」
「壁画には傷一つ付けなかったし、文句は言われないさ」
同じ遺跡でも壁画と単なる床では文化的価値が異なる。そして、単純な床の方が元に戻しやすいから大丈夫、ということなのだろう。
「まぁ、この付近は最初の調査である程度記録を取っている。万一にも致命的ということもない」
ということは、裏を返すと未調査の場所で暴れたり、暴れられたりするのは駄目と。何だその難題は。
もしかして遺跡内部ではなく、普通に外にいた方が心身共に穏やかな状態で狩りができるのではないか。そう思い始めたところで、ショーンがダァシャイヤスさんに問い掛ける。
「それで、僕らはどこに向かうんだい?」
内容からして、この先の三つある分かれ道のことを言っているのだろう。その内のどれかまでは分からないけれど、中から何かが蠢いている音が響いてくる。取り敢えず、人間の足音ではなさそうだ。
「左の道だ。調査団もそっちに進んでいるが、お前らはある程度行って分岐してもらう」
「はぁ、掃討ね。取り逃がしたのもそっちに逃げたし、丁度良いと言えば丁度良いか」
ショーンの言葉が不穏でしかない。いや、手負いだから良いのかな? ともかく、いきなり一人にはなりたくないから、僕がショーンについていくことに変わりはない。遺跡内部であれば、ショーンの側が一番安全だと思うし。……うーん、既視感。
「じゃ、行くか」
そう言い、ダァシャイヤスさんは薄暗い道を突き進んでいく。
思えば、あの人は従魔も連れずに遺跡内部まで案内の為に来てくれているんだ。それなのに自ら先を進んで行く姿は、無謀とも頼れるとも取れる。少なくともその背中は、僕の僅かな臆病さをも押さえつけて、白のいる僕が頑張らないとと思わせるものがあった。
ダァシャイヤスさんに続いてショーンが、それを追うように僕が、足音の木霊するその道を進んでいく。
道は再び通路のような構造をしていた。壁画などは続いておらず、最初の通路と瓜二つのように見える。だがそれでも違いはあり、はっきりとした直角の曲がり角をまちまち見るようになった。
また、些細な違いとして、床の跡が挙げられる。ショーンが逃がしたというそれの跡かは知らないが、何かを引き摺ったような傷が線を引いていた。
そして現在、恐らくは近くに、薄暗さを取り払えば、次の角を曲がれば気づけるかもしれない向こう側に、それはいるのだろう。ひっきりなしに耳に入る音が先程からやけに大きく感じる。頭の上の白は遺跡に入る前とは打って変わってそわそわと、端的に言って落ち着きがないようだった。
「ショーン、一応聞くが、逃がしたのは甲殻類か?」
振り向かず、ダァシャイヤスさんは歩きながら問う。
フィシアム王国は海から距離があって、一般で売られている海産物なんて干物くらいしかない。飛行できる従魔での飛行便運輸はあるけれど、そんなものは庶民が気安く手を出せるような値段ではないのだ。日持ちする魔物食とかも聞くけれど、それも高いし、海鮮系統の魔物だって沿岸などでしか発見されていない。
それらを踏まえてこう思う。この遺跡にはカニやエビなんかがいるのだろうかと。まぁ、わざわざ聞くのだから以前の調査で発見例があったのかもしれない。見つけたら食べてみたいな。
「いいや、蜘蛛だよ。嫌に硬い外骨格を持っていてね。子牛くらいの大きさだった」
しかし、答えたショーンは甲殻類を否定する。流石に見た目が多少似ていようが、カニの代わりに蜘蛛食べようとは思わない。まぁ、どちらも食べたことはないから比べる意味がないのかもしれないけれど。取り敢えず、虫類は無理だ。
「あぁ、あの蜘蛛か」
ダァシャイヤスさんが角を曲がったところで、そんなことを言う。個人的に、その言葉は心当たりがあったときにだけ使ってほしかったなって。
否応なしにカタカタと、先程から聞こえていた音が、遠ざかることを止めて迫ってきたようだ。一向に差のつかない距離に、むしろ縮まるその差に、背中からやられるよりは正面から迎え撃った方がマシだと考えたのだろうか。
体の向きを変えないままダァシャイヤスさんは数歩下がり、ほの暗さの中に何かが光を反射した。
その姿は先頭のダァシャイヤスさんが僕らよりも先に視認している。というか、ダァシャイヤスさんは丸腰なのだから、その蜘蛛が魔物であれ、単なる虫であれ、蜘蛛の大きさ的に状況が不味いのではないだろうか。
そう考えた僕は咄嗟に頭の上の白を両手で掴む。ボールを投げる要領で白を飛ばせば、その蜘蛛も溶かすか、無理でも足止めをするくらいはできると思ったのだ。
けれど、そうする必要を感じさせないくらい、僕を除いた場は穏やかなもので、緊張感の欠片も漂ってはいなかった。また、その理由もすぐに明らかとなった。
もう僕にも見えるそこには、びっしりと短い毛の生え揃った大きな蜘蛛がいる。後肢が折れているようで、膨らんでいる腹を引き摺るようにして動いていたのだろう。だが、今はぐったりと倒れ伏し、痙攣のような挙動を見せていた。
「はんっ、素直に俺を狙いやがって、そんなに無防備に見えたか蜘蛛野郎」
はい、見えました! と僕は内心考えるが、蜘蛛野郎ではないので口は閉じる。そしてそっと白を頭の上に戻した。何事もなかったかのように取り繕うのは苦手ではない。
実際のところ、一瞬で終わってしまったそれを僕が正しく理解できているかは分からない。
ダァシャイヤスさんは蜘蛛が現れるなり、懐から手に収まる程度の石を持ち、それを投げつけた。僕にとってその結果が不思議なのだけど、投げられた石は瞬く間に加速したように見えたのだ。そして、それが蜘蛛に辿り着いたときには、どうやら一撃で仕留められるほどに加速していたらしい。
僕が理解できたのはそれが全てあり、そうして現在に至る。
階段設置の話からして、失礼かもしれないが腕力などは人並みか、それにやや劣るほどしかないように思えたから、何かしらの仕組みがあるのだろう。主に投げられた石がモガシャイヤスで、そっち方面に秘密があるのだろう。僕にはそうとしか思えなかった。
「待てぇっ! 今晩のおかずぅ!」
そんなこんな目の前の不思議に目を向けていると、そこへもう一つ、聞こえてくる音があった。蜘蛛同様にこちらへと駆け寄る足の音。そして聞き間違いか、女の子の声がする。
「うぇぁ!? 人? あっ、蜘蛛が……」
曲がり角から急に現れたその女の子は、向こうからしても僕らが急に視界に入ったわけだから、驚いた様子で咄嗟に足を止めた。まぁ今は僕らが眼中にないのか、落ち込んだ様子で蜘蛛から目を離そうとしない。
視線の先から察するに、どうやら彼女の今晩のおかずは、僕の聞き間違いでも何でもなく、その蜘蛛を指していたようだ。蜘蛛ってそんなに美味しいのだろうか。
素揚げにして食べると美味しいらしい。
本当だったとしても私は食べたくないですがね。




