蛇の鱗、売却
日曜日更新が定期的になっている今日この頃、皆様はどうお過ごしでしょうか?
私は今、ニーア獲得をアストラ80枚に邪魔されております。
初めての十天衆最終も目指しちゃったりしています。
この話にオチはありません。
本編どうぞ
一つ、こんな問題があったとしよう。
そこは食事処で、一つのテーブルを囲む四人組がいる。その内の三人がもう何も食べていなくて、雑談をしていた。しかも、残りの一人も丁度食べ終わったときた。それでも追加の注文もなく、話に夢中になっている四人組がいたとしよう。
このときの店側の心情を答えよ。
「あの、お客様。大変申し訳ないのですが、こちら食事用テーブルとなりますので、お食事をなされないようでしたら、他のお客様に譲って頂いても宜しいでしょうか?」
また、店員に声を掛けられるまで長話をしていた自覚のない四人組の心情も述べよ。ただし、注意をされて初めて周りの客の目に気づいたものとする。
「あっ、ごめんなさい。すぐ退きます」
こうして僕らは、荷物を持って『サルメスタ』を後にした。他の三人は知らないけれど、僕は無性に体温が上がったような気がした。主に頬が熱かった。
ショーンの提案というか、宝探しという言葉には、どこか心引かれるものがあった。
だからゴネットとトトと別れた僕は、ショーンと一緒に都内便の馬車で揺らされている最中なのだ。この広い王都を移動するには、専用通路で王都全体を巡回する都内便が便利だ。乗車に銀貨二枚持っていかれたけど、歩くよりかは断然ましである。
ゴネットは遺跡について行きたそうにしていたけれど、トトに引っ張られて敢えなく塔の方向へと連れ去られていった。気持ちは分かる。
他の町だとどうかは知らないけれど、セパリヌの町では一時期、男子の間で『宝探しごっこ』が流行っていた。当時セパリヌに訪れたかの劇団、『パッチワーク』が公演した劇内容に、『遺跡探索物語』があったからである。
トレジャーハンターである主人公が、嫌らしい罠を掻い潜り、古代の秘宝を手に入れるといった内容。とある仲間の裏切りや、命からがらの予想外な展開に息を呑みつつも、最後の場面は感情移入してしまい、達成感がこちらにも伝わってきたものだ。あれを見た男子は真似したいと思わざるを得ない。
ともかく、現実では物語のようなことはありはしないのだろうけど、遺跡探索というだけで心は躍る。
別に、今すぐ王都から出ていく理由もないのだから、生活費を稼ぐべく魔物の素材を集めに行くだけでも良い。向かう遺跡は魔物もいるそうだし。
「ねぇ、ショーン。最初は遺跡じゃなくて、魔物の素材を売りに行きたいんだけど」
今のところ都内便には僕ら以外の客がおらず、会話で顔をしかめられることもない。だからその内に言っておきたいことを言おうと僕は考えた。
未だ僕のリュックサックには、平原で出会った蛇の鱗が入っている。これがとにかく邪魔なのだ。大きさからして銀貨に換えた方が綺麗に纏まる。適当な露店から飲み物も買ったし、水筒に入れてもらったから零れないだろうけど、そのとき鱗が邪魔で仕方なかった。それで心情として、リュックサックの中を整理したい気持ちがある。
「安心するといい、マテル。今向かっている方角にも、君の望んでいる店はある」
「そうなの?」
「あぁ、君はつくづく運というか、間が良いらしい」
そう言われて、僕は下車するまでぼぅっと外の景色を眺めることにした。途中で他のお客さんが乗ってきたということもあるけれど、今までを思い返して、確かに僕は運が良いなと自分自身で思ったからでもあった。
ショーンが下車するようなので、僕もついていくように都内便を降りた。そして、ショーンが突き進むのは門の方向だった。遠目にも大口を開けた門が見えるし、このまま直進すれば漏れなく外に出る進路となる。昨日、ラナーが駆け登った隣の門ではなく、その隣に位置する門まで来たから、外の様子は分からない。でも、常識的に考えれば外に店があるとかいう話ではないだろう。
「人通りが一番盛んなのは門付近だからね。荒稼ぎしたい商人が集まるのさ」
なるほどと、納得いく回答が聞けた僕は、無意識な感心が漏れた。そういえば、昨日だってそれなりに、隣の門にも人がいた覚えがある。如何せん衛兵さんのお世話になっていたから周りを見ていなかったけど、思い出すと市民のような格好の人は少なかった気がする。八割くらいが大荷物を運んでいたような。……うーん、衛兵のお世話になったって単純に聞くと違う意味に聞こえるなぁ。
「確か……あぁここだ。僕が贔屓している店の一つ、その支店だ」
「へぇ、ショーンが贔屓にしてるお店かぁ」
通りの脇でショーンは足を止め、並ぶように僕も立ち止まる。
そこには『モルセット魔物店』と書かれた看板を飾る小規模店舗があった。お世辞にも大きなお店とは言えないけれど、隣接する他店と比べると見劣りするほどではなかった。
まぁ、買いに来たわけじゃないから、大きいとか小さいとかは関係ない。ちゃんと妥当な金額で買い取ってくれるかが重要だから、そこに着目しよう。ショーンが贔屓しているとも聞いたし、ある程度は信用するけど。
「買い取りを依頼したいんだが……誰かいるかな?」
扉を開けて、僕とショーンが店内に入るも、そこには誰もいなかった。もぬけの殻、というわけではなく、奥の扉から物音が聴こえる。
まさか空き巣に居合わせたのかと勘繰るも、ショーンの言葉で奥にいた誰かはやって来た。
「いやはや、すまんね、お客さん。ちと先客の鑑定をしていたものでね」
パッと見て、四十代くらいだろうか。頭にタオルを巻いていて、作業着のような、汚れても見立ちそうにない色合いの服を見に纏ったおじさんだ。
「それで? お客さんが売りたいもんは何だい?」
「ほら、マテル」
「うん。今出すから」
白は頭の上にいるから、遠慮なく僕は背から腹へとリュックサックを回し、その中の物を取り出す。取り出した物は手近な机に置かせてもらった。
全部で十二枚の蛇の鱗。本当はこの内の三枚、ゴネットの取り分なんだけど、正直に言うと今の今まで失念していて渡す機会がなかった。
「これを全部かな。十二枚あるんですけど、いくらになりそうですか?」
「ちょっと待ってな」
一枚の鱗を手に取ったおじさんは、向こう側の壁に掛けられた道具を取りに行った。
あれは片眼鏡といえばいいのだろうか。レンズがいくつか重なっている作りのそれをおじさんは装着する。きっと細かいところもよく見えるのだろう。他にも指で挟んだり、金属製の道具を持ち出して軽く叩いた音を聞いたりと、色々調べていた。
一通り試したおじさんは、時間にすれば大したこともない間ではあったけれど、疲れたように一息ついた。装着していた片眼鏡を外し、元の場所に片付けると僕らの方へ帰ってきた。
ちなみに、おじさんが調べている間、僕らは椅子に座って待たせてもらった。流石に、入り口で立ちっぱなしは迷惑だろうからね。
「一応、それなりの強度が確認できた。加工品としちゃあ、胸当てなんかに需要がありそうだし、全部で銀貨十八枚ってのはどうだい?」
提案された金額は、想定内の妥当な金額であった。勿論、ゴネットの鑑定眼を信じるならば、の話ではあるのだけど。
気になるところは一枚の内訳だろうか。銀貨十八枚ってことは銅貨換算で百八十枚だから、十二で分けて、鱗一つが十五枚。直すと銀貨一枚と銅貨五枚。だからゴネットに返すのが銀貨三枚と銅貨五枚で、僕の手元に残るのが……。
「あー、なんか不満があるなら言ってくれねぇと分からねぇんだがな」
「あっいえ、考え事をしていただけですから。はい、十八枚でお願いします」
人生初めての金品取引。動くお金の額は人によって些細なものだと思うかもしれないけれど、それでも僕には感動するような気持ちが溢れていた。少し違うけれど、初めて家事の手伝いでお小遣いを貰ったときと似ているかもしれない。
お金を渡されるまでの待つ時間。表には出さないけれど、これは悪くない緊張感だ。初めての感覚でもあるから、内心僕は高揚していた。
「はいよ、銀貨十八枚丁度。確認してくれや」
奥の扉へと行ったおじさんが、帰ってくると小包を机に広げる。すると中の銀貨がじゃらじゃらと音を立て、小さな銀貨の丘を机上に作る。僕はそこから一枚一枚取っていき、五枚ずつ重ねながら正確な数を数えた。
こうして、僕は何ら問題もなく、銀貨十八枚を手に入れたのだった。
区切りとして、次から新章にしようと思います。
区切り方が微妙ですが、物語の趣旨としては切り替わります。
今章は『マテルが出だしで転ばないための章』です。周囲の関係者が心配性で、実行しちゃうならそうするだろうなというお話。
つまり、次章からはサポートがほとんどありません。補助輪を外した自転車のような話。まぁ、転びそうになったら後ろに配置されたショーンが支えるとは思いますが、今章ほどではありません。
そして! 出す出す言って匂わせる程度にしか出さなかったマテルのヒロインが! ついに!
はい、あんまり語ると面白味が欠けるので、今回はここまで。ではまた来週!




