遺跡探索のプロローグ
これが古戦場インターバルの有効活用じゃい!
一人ぼっち団でも本選行けるんすね。Cクラスですけど。
あっ、ちなみに読者様の中でグラフェス引いた方います?
私は気温の変わり目に風邪を引きました。
……はい、これが言いたかっただけなので本編どうぞ。喉痛い。
──明日、四騎士の任を終える君に、新たな仕事ができた。
これはショーンがマテルと出会う前日のことである。
普段、ショーンが滅多に入らない塔の最上階。そこへ迷いなく入室してきたアーリ・ヘンスは、淡々と、彼の前でそう述べた。
だが、彼ことショーンからしてみれば、それは不思議でしかなかった。別に、その日、ショーンはアーリ・ヘンスに会おうとは思っていなかったし、感情の伴わない行動も、してはいなかったはずなのである。
ただ明日が四騎士としての最終日であるから、せっかくだしいつもはしない方の仕事でもするかと、誰にも伝えず一人でそこに籠っていた。だというのに、目の前には自分を見つけたアーリ・ヘンスがいるのだ。いったいどこから居場所の情報を得たのかと、ショーンは疑問でしかなかった。
しかし、アーリ・ヘンスの提示する内容には、ショーン・ナコディにとって、安心感を与えるものがあった。
およそショーンに対してあらゆる方向に動く物事を、簡潔に表してしまえれば、トト・リンメートの立場が最も近しいと言えよう。その理由こそ大いに違うものの、トト・リンメートの立場が該当しないわけでもない。
つまるところ、ショーンもまた、知りすぎている人間なのだ。四騎士という立場に縛られている間は、フィシアム王国も監視のみに留めている。
その監視する者がどの程度のものなのかは、ショーンも計りかねてはいる。だが、少なくともアーリ・ヘンスはそちら側の人間だという確信はあった。というのも、今回のような指示とも取れる知らせが、アーリ・ヘンスから今までいくつかあり、それらがショーンの中で根拠としてあるのだ。
ショーン一人では、到底アーリ・ヘンスには勝てない。戦術が近距離と中遠距離という差こそあるが、それでも地の戦闘力が違いすぎた。
アーリ・ヘンスとは、魔物に牙を突き立てられようが、爪で引き裂かれようが、鎧の有無に関わらず、平気でいるような男だ。そのような人間は、もはや人間ではない。いくら鎧を着込もうが、それは格好だけであることを、ショーンは知っていた。何度か戦闘を共にしていれば、そのような場面に出くわすこともある。本人は見間違いだろうと、平然を装い誤魔化してはいたが、しかし、ショーンはハッキリと眼にしていた。
そういったことを含め、ショーンは己が知りすぎていると自覚している。だから四騎士を辞めてしまえば、手綱を握れないとされ、口封じをされるかもしれない。無論、王国側は大変理性的である。そんなことが公になれば、王国の威信は地に落ちると理解できるだろう。だが、それは同時に秘密が守られることともなる。
万が一は、王国も口封じを最後の手段として執行することだろう。しかし、過去の歴史の中でそのような事態に至ることは一度もなかった。史実に残されていないわけではなく、それは事実として存在しないのだ。
四騎士の本質的な仕事にして、秘匿しなければならない仕事が成り立つのは、王国共々互いが理性ある人間だからである。大雑把にしてみれば、過去の四騎士は二種類の人間がいた。当然のこと、その二種類は王国が選別したが故である。
一つは、アーリ・ヘンスのような世界全体のために秘匿する者だ。こういった者の志は、世の破滅願望者の発生抑止。もしくは、身勝手極まりない行動の被害を生まないために。など様々あるが、大抵は王国と共通意志を持つ。
もう一つは、トト・リンメートのような保身のために秘匿する者だ。この手は、信頼はされないがそれなりに信用はされる人間である。けれど、我が身可愛さに脅されれば僅かでも生き長らえようとするかもしれない。故に、信用は絶対ではない。
フィシアム王国はショーンを後者に分類しているし、ショーンもそういった扱いだと理解している。
確かに、秘匿をする理由が世界のためかと問われれば、ショーンは否定をするだろう。保身のためかと問われれば、迷いなく肯定を返すはずだ。しかし、この秘密は命を脅かされたからといって、そう易々露呈させていいものだと、ショーンは思ってなどいなかった。
それを王国側に言ったところで無意味な問答にしかならなかったが、最近のショーンの唯一の不満点はそこにあった。
とはいえ、このまま無理を言って任期を延ばし、四騎士の仕事を続けたところで、これ以上の泥沼に嵌まるだけだろう。ショーンにはそんな予感があった。
だからこそ、アーリ・ヘンスのその話には助け船のようなものを感じたのだ。己に利用価値があると思われている分には、下手に処理はされないだろうと。また、アーリ・ヘンスから述べられた内容にもショーンは興味を得た。
「ショーン、君には明日、サルメスタという宿で一人の青年と接触してもらいたい」
「それは良いけど、だからと言って適当な青年でいいわけじゃないんだろう?」
「勿論だとも。端的に言ってしまえば、影ながらの護衛任務だ。対象は決まっている」
アーリ・ヘンスが口にする名前と特徴、連れている従魔を聞いて、ショーンは思う。
護衛をするのであれば、その人物は命を狙われる立場にあるはずだと。しかし、聞く限りでは成人したばかりの一般人。しかも連れている従魔も水の従魔と、命を脅かすような特異性はない。つまり、絶対的に守らなければならない必要性が薄いように感じたのだ。勿論、魔物に襲われれば自衛手段に乏しい分、守る必要があるだろうが、そこに命以外の意味はない。
だからこそ、そのマテルという青年は、王国が守護対象とするような想像だにしない価値を持っているのだろうと考えた。ショーンはそれを気になりはしたが、不必要な詮索をする蛮勇を持てはしなかった。なので、きっと特殊過ぎる産まれや環境、もしくは知識を有するのだろうと勝手に憶測し、興味を呑み込んだ。
「では、伝えることも伝えたし、私は帰るとしよう」
「あぁ、それはいいが、その前にいくつか聞いていいかい?」
ショーンは呑み込んだ興味以外にも、聞きたいことはあった。分かりきってはいるが、もしそれがショーンのみの認識であれば、食い違いが発生する。意図なく裏切り行為をするかもしれない可能性がある以上、認識は擦り合わせたいというのがショーンの考えだ。
だから丁寧に確認をしていく。
「影ながらの護衛は、『護衛であることを知られないように』という意味でいいんだよね?」
「その通りだ。最悪、護衛であることは明らかにしても良い。絶対的な失敗は護衛対象の死亡のみだそうだ」
その言葉でおかげで、余計にショーンは訳が分からなくなる。護衛であることを隠さなければならないのなら、相応の理由があるはずなのだ。始めからあってもなくても同じような条件を態々付ける意味がショーンには分からなかった。
だが、これは仕方のないことだ。当初はフィシアム王国国王、バルラルド・フィシアム直轄の精鋭隠密部隊。早い話が影ながらの護衛や諜報活動を得意とする者から護衛が選ばれることとなっていた。これらは孤児から拾い上げ、国家に命を捧げる程度の教育を施された者達なのだが、これは却下された。
却下したのは言わずもがな、第二王女アーニスである。むしろ熟考し、誰から見ても問題のない国王の案を却下するなどという暴挙は、アーニスにしかできないことだろう。そもそも、この話は秘密裏のものであり、その二人しか交ざっていないのだから、当人が気にしない以上、暴挙も何もないのだが。
つまり、ショーンが護衛となったのはアーニスの采配によるもので、選ばれた理由は丁度良さそうな駒がそこにあったからという、ただそれだけであった。
隠密部隊ではマテルを完全に守りきってしまう。アーニスはそう考えた。例え怪我をする程度なら助けなくてもいいと命令しても、転びかけるだけで支えに行くだろうなと予想したのだ。
また、実際に隠密部隊が護衛につけば、その予想は見事的中しただろう。何せマテルの両親、ダインとジェシカの手紙をバルラルドの下へと届けるのも隠密部隊が経由している。マテルが王家の血を引いていると教えられている数少ない人間達であり、王位継承権がなかろうと、現在忠誠を誓うバルラルドの孫なのだ。そんなマテルを護衛をしろと言われれば、任された者はその名誉に狂喜乱舞し、身命を賭して、擦り傷からも守ろうとする。ちなみに、選ばれなかった者は悶えに悶えることだろう。
とかく、アーニスは、これがマテルの成長には繋がらないと考えたのだ。バルラルドからしてみれば、マテルと行動させることで予想以上に行きすぎてしまった隠密部隊の性格を更正させようといった魂胆があったのだが、マテルを利用するという一点のみでアーニスに却下された。
そんなこんなが裏であったとも知らず、知らされず、ショーンはアーリ・ヘンスが述べたそれらを記憶した。
質問はその後もいくつか並べ、最低限を詰めていき、ショーンは仕事の内容を把握する。やがて、問答も終わりに差し掛かる。
「最後にさ、一つ聞いていいかい。アーリ?」
アーリ・ヘンスの去り際、ショーンはそのままに、質問をした。これは仕事とは関係のない、完全なる私的な疑問であった。だからこそ、答えることを断られても問題ないように、最後の最後に持ってきた質問だ。
ふっ、と出ていこうとしたアーリの足が止まる。
「何かな? 話すことはそれなりに話したと思うんだが」
公私混同をしないのがアーリという男である。例え相手が友人であろうが、仕事中の対応と友人同士の対応には明確な温度差がある。無論、その違いは大袈裟に表面には出てないが。
そして、この時だけは先程と違い、一人の友人に向ける優しげな面持ちであった。
「君のところの補佐官、前々から気になってたんだけどさ。僕はあの子の従魔をこの四年間、一度も見たことがないんだ」
明日が最後の四騎士務め。四騎士の塔に簡単に入ることができるのも、明日が最後となる。
ショーンは好き嫌いがハッキリした人間であり、交遊関係はそれなりに選別されていた。そして、アーリが担当する塔の補佐官の女性は、ショーンにとって好きの部類となる。ただ異性としてではなく、人として好きといった話だ。
だが、関わりを持とうにも体よくあしらわれ、塔への客人としてしか扱われない。そんなショーンは、ふとしたある日、彼女が従魔を連れていないことに気がついた。極々小さいわけでも、完全な透明というわけでもない。それはショーンの従魔が確認済みであり、従魔がその場にいないことをショーンは気になっていた。
しかし、アーリはこれを一笑し、何だそんなことかと言葉にした。
「そうだな。私は言っても良いと思うんだが、怒られてしまうかもしれないからな」
言い淀みはするが、即座に答えたくないとは言わなかった。
アーリはそうして、曲がりなりにだが、一つの秘密を友人に贈った。それは彼なりの信用の仕方である。だが終始ショーンは理解できなかったから、ショーンが信用を裏切ったとしても、結局のところ問題はなかった。
「『ショーン、君は彼女の従魔を知っているし、見たこともあるはずだ』」
それが例え、どこぞの鳥が盗み聞いていたとしても。
アーリは四騎士務め三年目
つまり、ショーンの方が先輩なんですよね。
人生経験はアーリが上なので立場が逆に感じますけど。




