美味しい料理と残念なイケメン
アーカルム
ゼノコロゥ
5凸間際のデス
fgo爆死
それでも私は、元気です
銀食器のナイフとフォークを両手に、今、僕とゴネットは食事を楽しんでいた。
ステーキのように大きなハトセエビ。剥き身のそれをまるごと一匹、柔らかなマルマキャベツで包み込み、コンソメスープで煮込まれたエビのキャベツロール。
エビの歯応えと、噛んだときの旨味が美味しすぎた一品だ。
小さな丘のように、幾重にも重ねた薄切りのハクダガモの肉。表面には程好く焦げ目がついていて、甘辛いソースが波線を描くように掛けられていた。その上には刻まれた数種の香辛料が添えられていて、ほんのりと料理を彩っている。
外と中の層によって固さの違いが面白く、ソースが美味しさを引き出していた料理だった。
飲み物は何種類かあって、好きに選べるらしく、僕はミドのジュースを選んだ。無難も無難な選択だったのだけれど、これが僕のところへ届けられたとき、素直に驚いた。グラスの中にはミドのジュースと、皮を剥かれた果肉のミドが入っていたからだ。
昔ふとした好奇心で挑戦してみた僕は、それがどれほど大変な技術なのかが良く分かる。これができるのは相当の変人だと言っても過言ではない。卵の殻を剥いても薄い層は傷つけない。それと同等の技術をここの料理人は持っているようだ。ジュースも普通に美味しかったし、流石は金貨二枚コース。恐るべし。
そんなところで、まぁ、気づかないふりが辛くなってきたことがある。実のところ、僕とゴネットは金貨二枚コースを頼んで、悠々と食事を楽しんでいたのだ。が、同じテーブルではもう一人、コースではなく単品の料理、最低価格銅貨二枚のサラダを頬張る人がいたのだ。
彼女の名前はトト。美味しさよりもお金を取った、悲しきベジタリアン。何かを言うわけでもなく、細々とソースと野菜を和えて、啄んでいる。時折、僕らの料理を羨ましそうに眺めているけれど、注文しようと思えば、トトも注文できたんだよ。今も単品で他のものを頼むことだってできるのだから、ベジタリアンはいつでも止められるのだ。
つまり、僕は気に止める必要がない。散々見られて食べづらいけれど、そんな精神への攻撃は美味しさの前では無力だったのだ。無論、ゴネットは素知らぬ顔をして料理を口に運んでいる。お皿には人参が残っていて、それを涼しい顔でパリト君に渡していた。さらっと嫌いなものを処理する瞬間である。
結局、トトは食欲に負けて銅貨三枚のパンを追加した。それでも合計銅貨五枚。残りの金貨一枚と銀貨九枚、銅貨五枚はしっかりとトトへ返却されていた。
「美味しかったぁ」
部屋に戻ってきて早々に、僕はベッドに腰かける。トトの単品とは違い、コースのパンにはバターもついていたのだ。他にも美味しいものばかりで、明日も食べたくなってしまう。けれど、聞くに宿代は一泊分しか払っていないそうだから、明日からは自腹なんだよね。
うん、一泊分払ってもらってるだけでも贅沢なんだから、文句は言わないし、言っちゃいけない。幸いお金はあるから、明日から稼ぐ方法も探さないと。
「ねぇ、白。聞いていい?」
だから、これは確認しないといけない話だ。自分勝手には進められない、どうしようもなく自分本意な話。
僕は、頭の上に乗っている白を抱えるようにして、膝上に移動させる。そして、指でその表面を這わせるように、白を撫でながら問う。
「……白はさ、魔物と戦える?」
これができなければ、一人旅は難しくなる。稼ぎだって、旅をしながらでは辛くなる。前提が脆くなってしまうのだ。
けれど、従魔にも感情はある。昔から、母さんの手が空いていないときは、母さんの従魔であるペチに遊んでもらっていた。追いかけっこをしたときは楽しそうにしていたし、揺れている尻尾を掴んだときは露骨に嫌がられていた。それなら、消滅するときはどんな感情を持たれるのだろうと、僕は想像をする。
きっと、嫌だろう。少なくとも僕は嫌だ。生き返るとしても、好んで痛い思いはしたくない。……タンポポに関してはあれだ。見た目が完全に植物だから罪悪感が湧かなかったけれど、こうして思い返してみると、もしかしてと考えてしまう。取り敢えず、帰ったら真っ先に謝る対象には加えた。
ともかく、僕は、僕の路銀を稼ぐために、白に魔物と戦えと言っているのだ。辛いことを押し付けるようなものだから、確認をしないといけない。白の意思を僕は聞かないといけないのだ。
白は、僕の問いに対して僅かな静止をした。そして、僕に一度の跳躍を見せる。以前にも使ったその行動の意味は、肯定であった。
僕は嬉しくて、申し訳なくて、自分の無力感に気づく。それでも肯定を返してくれた白に、僕はお礼を言いたかった。
「ありがとう。白」
少し、声が震えていた気がした。僕はそれ以上喋らなかったから、どうだったかなんて確かめようもないけれど。
その後、明かりを消した僕は眠りについた。白を抱えたままだったから、しっとりとした温かさが伝わってくる。それが心を落ち着かせてくれて、今夜はゆっくり眠れそうだと思わせてくれた。
翌朝。目が覚めると、窓からは明るい光がこぼれていた。それを見ると気持ちも晴れやかな気分になる。なったような気がする。さぁ起きようか。
抱き枕の如く扱っていた白は、いつの間にか脱出していたようだ。部屋の中でピョンピョンと跳び跳ねて、運動をしている光景を目視する。
白は僕が起きたことに気がつくと、跳ぶ方向を変えて、僕に飛びついてきた。どうしたのだろうと思いつつも、僕は白を撫で回す。そうして、実はパリト君並の甘えん坊だったのかな? とか考えながら、僕は身支度を終わらせた。
廊下に出て、そう言えば起こされなかったなと、僕は目の前の扉を見つめて思う。まぁ、まだ眠っているのなら、起こすのは野暮なことだろう。扉を叩いて、先に起きたトトがゴネットに何かしていたら申し訳ないし、僕は食堂で待っていようかな。もしかしたら二人はもう起きていて、先に食事しているかもだ。
階段を下りて、僕は食堂の方を覗く。しかし、ざっと観察してみても、ゴネットもトトもいなかった。
仕方ないので、銅貨三枚を握った僕は、食堂でパンを頼むことにした。起きて早々、沢山食べられない僕にはこれくらいの量が丁度良い。
どこで食べようかと周囲を見回して、端っこにあった空いているテーブルに座る。これでもかなりの早起きな僕なのだけれど、朝方の食堂は人で賑わっていた。これから働きに行く人達が、今日を乗り越える力を補充するためにやってきている……のかな。比較的男の人が多いよう見える。
そして、何気にパンが美味しい。夜とは違い、焼きたてで温かく、そしてふんわりとした食感。焼きたてだからこその、際立つ小麦の甘さ。本当にこれが銅貨三枚で良いんですか!? と、つい思ってしまう。
そんなパンを楽しんでいた最中、ふと視界に人影が立って、そちらに視線が動く。両手が飲み物と食べ物で埋まっている男の人だ。席からして、彼はまず間違いなく僕に声を掛けた。
「すまない。この席良いかな?」
「はぁ、良いですけど」
二十代中盤くらいに見える黒髪の人。腰のベルトにはナイフの鞘のようなものが七つ。けれど、そこに収まっているのはナイフなどではなく、切っ先の鋭い鏡? だった。
割れた鏡。どれも統一性のない割れ方で、一つの鏡に亀裂が入れば、あんな形になりそうだなって見た目をしていた。
うん、鞘から半分くらい出ているから結構見た目が分かるけど、何この人割れた鏡持ち歩いてるの? 普通に怖い。
最初に良く見ないで了承してしまったことを後悔しそう。けれど、確かに他のテーブルは埋まっている。早起きしたからテーブルにつくことができたけど、もし少しでも遅れていたら座れなかったかもしれない。そう思わせるほどにお客さんがやって来ていた。
もう了承してしまったことは仕方ないし、穏便にいこう。
「いやぁ、助かるよ。僕さ、ここに来るのは初めてなんだよね。こんなに混むなんて思っていなかったからさ」
「あっ、僕も初めてなんですよ。パンが凄く美味しいってさっき感動していたところです」
「そうか。じゃあ僕も、この後で頼んでみようかな」
彼はそう言って、お酒の匂いがするグラスを呷る。見た目はさ、男の僕が見ても格好良い部類だなって分かる見た目なんだよ。でもさ、社会人として朝から燻製肉とお酒ってどうなの。夜勤かもしれないから口にしないけどさ。
イケメンは欠点があるからイケメンなんだと思う。
追記、修正
ミドのジュースのくだりで
『昔からミドの実を食べている僕は~』
と、ありましたが、
四話では過去に二、三回しか食べていないと明言していました。(このポンコツゥ)
よって『昔から~』という言い方は不適切であり、修正致しました。
料理の隠し味や、その下準備中の果汁のみならもう少し回数多いんですけどね。
如何せん果実ですから。




