現在の従魔学
台風やら猛暑やら
もうやだこの季節ぅ
台風もあんだけ激しいならアブラゼミかっさらってよ!
鳴いて許されるのは『ひぐらし』と『つくつくぼうし』だけなんだよ!
私の中ではなぁッ!
記述その一『生活環境による従魔の違い』
唐突だが、避けては通れない話として、私の従魔は魚であることをここに記す。姿は一般的なマルメスタアジであり、大きさは成人男性の手のひらからややはみ出すほどである。移動手段は空中を泳ぐとしか言いようがなく、またマルメスタアジのように海中も問題なく泳いでいた。
少し身の上話をしてしまうが、私は港町出身であり、父親が漁師をしていた。だから子供の頃から魚は見慣れていたし、自慢ではないが捌く腕も中々のものだと自負している。
話を戻すが、今回の観点、私が注目をしたのは魚を召喚したという事実である。調べると、父親の漁師仲間、またその子供もやはり、何かしらの海に関係する従魔を召喚していたことが分かった。それは必ずしも魚ではなく、水の従魔のような、塩水を真水と塩に分ける液状の従魔など、既存の生命体とは違う特徴を持つものもいた。
従魔とは神により遣わされた友である。そんな一文は、こういった事実から来たのだろう。ただの動植物からではまず見ることのない姿は、確かに妙な説得力がある。だが、それで納得してしまえば、思考を放棄したのと同義である。
だから、一定の偏りがあるのならば、何かしらの法則があるのではないかと私は考えた。
次に着目したのは、他の地域との差異である。私が住んでいた町だけでは、法則性の裏づけをするのには不十分だからだ。偏りを偶然と言われてしまえばそれで終わる。だが、これを調べるのには苦労をした。
まず、召喚された従魔の情報は全て教会により保管されている。その資料さえ見ることができたのなら、私はどれほど苦労をしなかっただろうか。思い出すと苦労が再来する。
これは神の存在を否定するような研究だ。早い話が、率直に問うと教会から拒否されたのだ。「そのような理由で貸し出すことは許されません」と。かといって虚偽の目的で閲覧することはできない。なぜならば、こうして本に記すのに過程を書くことができなくなるからだ。過程を省けば根拠に欠ける。真実を書けば私は教会から訴えられることだろう。
ではどうしたか。答えは新聞にあった。毎年、各地域の新聞社が地元で召喚された従魔を取り上げていた。それを思い出した私は、高い金を払って一国分の情報を集めたのだ。
当然、紙面には地域一つ分の全てを記載できる面積がない。注目度の高い従魔は、他よりも大きく枠が取られているからだ。情報としては穴空きだが、それでも私には充分だった。後はその地域で召喚された従魔を町別に並び替え、各町と照らし合わせてみる。
すると、やはり偏りが見えた。従魔とは往々にして個性が出る。記載されていた従魔には私の知らない類いの名前があった。それらの性質を一つずつ確認するのは、召喚者が分からない以上、不可能だろう。だからそれらを省いたもので私は統計を取った。
結果としては、予想通り。残されたものの内、約四割は地域とは関係のない独自性の高い従魔であり、残りは何かしらの関連性を確認できた。
このことから、地域、ないし召喚者の生活環境が、召喚する従魔に変化を与えていると仮説を立てた。しかし、私には仮説の域を出ることができなかった。懸念として、記載されていない従魔の数、割合が不明であるからだ。
この問題が解けない限り、この話は先に進むことができない。故に、私はこの観点からの研究を一端の終わりとした。
記述その二『従魔召喚と星との関係』
古来、いくつかの文化では、惑星『ティア』の輝きが最も美しい日に召喚すると良い従魔に恵まれる。と伝えられていたそうだ。
従魔の研究を始め、世界の各所に足を伸ばしていた頃、とある村の泊まり先で私はそんな話を聞いた。何分、古い言い伝えでしかなく、その村も今は教会によって召喚をしているため、本当かどうかを証明する根拠はなかった。
けれど、その村だけならただの文化で終わるのだが、別の国、別の村落でも私は似たような話を耳にした。
夜空に輝く無数の星々の中でも、一際大きな惑星ティア。誰しも一度は見たことがあるだろう。灰白色の表面に、黒色の模様があるあの星だ。
ちなみに、正式名称だとティアの黒色部分を『海』と呼ぶらしいが、昔は『星の涙』とも呼んでいたらしい。国によっては『カニ』や『ウサギ』に見立てるようだが、今は関係ないだろう。
星の専門書を何冊か漁ってみると、ティアの満ち欠けの周期や、『スーパーティア』と呼ばれるティアが大きく見える現象について事細かに書かれていた。特に、召喚が年に一度であることと結びつけることができるように、欠けのないスーパーティアもまたほぼ一年周期で起こる現象なのだそうだ。
現在の召喚日、つまり成人式は、その年の終わりの日に行われる行事である。ほぼ一年周期とはいえ、そこには多少のズレがあるスーパーティア。当然、決まった日に行われる成人式と、決まっていないスーパーティアの起こる日が、毎度重なるわけがない。
だからスーパーティアと従魔とを結びつけた私は、早速以前のスーパーティアについて調べてみた。スーパーティアが重なった成人式と、全く離れた成人式とで、違いを探すためである。
結果は曖昧であった。成人式と重なるスーパーティアの文献は、あるにはあったのだが古すぎた。人魔大戦終結直後の疲弊した年にスーパーティアと成人式が重なったらしい。
しかも、この年から法が制定され、成人式という一斉召喚日が作られていた。が、その日が初めての試みであったから、召喚された従魔の詳細な記録は教会も所持していないという。駄目元で教会に直接聞きに行った私は、そう返された。
だが、それで諦めては仮の答えすら出せずに終わってしまう。故に私は幾冊かの歴史書を読み解いた。すると、その年は往年と比べ、従魔が如実に強かった年、『宝年』とも呼ばれていることを発見した。
なので、一例だけでは根拠に薄いが、それでも一つの関連性を見出だせたことをここに記す。今後は過去ではなく、未来のスーパーティアに注目して研究をすると目標を定め、これもこの辺りで一端の終わりとする。
追記──専門書によると、六十五年も昔に一度、スーパーティアの倍ほど大きくなる『エクストラスーパーティア』という現象が起こったようだ。成人式とは重ならなかったようで、私は調べることを後回しにしていた。だが、他の観点は行き詰まったのでこちらに手を伸ばした。
何分、本を書いている最中に調べ始めたことだ。大雑把でしかないが、簡潔に述べると流石に、その当時の新聞を見つけることはできなかった。けれど、七十前後の方々に聞いてみると、「比較的ドラゴン並の従魔が多かった年」と、誰もが答えてくれた。
例が一つではなくなったのだ。しかし、エクストラスーパーティアはそれ以来確認されていない。現象が珍しすぎて他との比較が取れないのだ。それ以前の記録はスーパーティアなのか、エクストラスーパーティアなのかが明記されておらず、ティアが大きくなった年程度しか分からない。
やはり、この観点は未来に託すしかないだろうことをここに追記する。
記述その三『従魔と魔物との類似性』
これは敢えてタイトルには載せなかった観点である。そして、これもまた仮説でしかない。だが、これが真実であるのなら、人類は大きな勘違いをして──。
「マテル、待たせてすまん」
「ん? あぁゴネットか。思ってたより早かったね」
肩を叩かれた僕は、文字から目を離してそちらに向く。声からも分かってはいたけど、そこに立っていたのはゴネットだった。パリト君がいないけど。
まさか僕を呼ぶためだけに入館料を払ったのかな。なんて考えてみると、ゴネットから離れた後ろに、アーリさんとトトがいた。そういえばただ待つだけの僕に、アーリさんは入館料を払ってくれたんだよね。それなら迎えも払っちゃう……のかな? あと、珍しくゴネットの側に居ないと思ったパリト君は、楽しそうなトトに撫で回されていた。大事なのは楽しんでいるのがパリト君ではなく、トトだというところ。パリト君も抵抗はしていないけどね。
「それで、これからどうするの?」
「アーリさんが宿の予約取ってくれてるんだと。んで、俺達はそこに泊まる感じだな。朝夕飯付きだとさ」
本を読んでいると、僕のお腹が何度か鳴ることがあった。昨日は質素な乾燥肉。今日は朝のミドの実だけ。空腹で鳴るのも仕方ない。図書館内に設置されている時計に目を向ければ、意外と時間が過ぎていた。時間としては夕食を食べ初めてもおかしくない夕刻。本を探す時間が長かったのだろう。
だから、夕食付きという言葉は抗いがたく、僕は本を閉じた。気になるところだけど、これ以上グーグー響かせるとは精神的に辛い。静かな図書館だからこそ、一層恥ずかしいのだ。
「というわけで、行くぞ」
「うん、ちょっと待ってて」
僕はそう言うと、閉じた本を元の場所に片付けた。
思い返すと、マテルって旅に出てからほとんど食事してないんですよね。
水分だけはしっかり摂ってるから大丈夫だけど。
……宿でちゃんとした食事をさせようか。
ちなみに、トトの入館料もアーリが全持ちです。




