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相棒のスライムを連れて  作者: 野生のスライム
四騎士の塔
27/43

『  』として

さりげなく十万文字突破。

なのでストーリーの重要なところに触れる幕間をば。


 


 マテルが部屋から去る背中を、彼は最後まで『国王』として見送った。

 彼、現フィシアム王、名をバルラルド・フィシアムは、そこでようやく疲れたように息を吐く。

 そして昨晩も読んだ一通の手紙を、机の引き出しから取り出した。マテルを呼び出すまでに至った事の始まりは、その昨日に届いた特徴ある手紙が切っ掛けだったと言えよう。


 昨日も毎日のように、バルラルドは各国の要人から届く手紙を頭の中に叩き込んでいた。外交の際はその内容を前提として話が進むことがあり、覚えているといないとでは持たれる印象が変わるからだ。

 といっても、全てを暗記しているわけではない。国王とて人間だ。毎日当たり前のように百、二百と増えるそれらを纏めて覚えることなどできるわけがない。

 新年ということもあり、時候の挨拶や、嫌がらせのように長々と綴った建前が溢れる内容。しかし、国王を務めてもう長いことになるバルラルドは慣れたもので、最低限の人名と内容の本質だけを精査し、それだけを記憶する。後は本番で平然を取り繕えばいい。

 バルラルドはそうして数ある手紙を一つずつ目を通すのだが、次の手紙をと手を伸ばした先で、タンポポ(・・・・)を象った封蝋が目に止まった。


 タンポポに関しては一人、バルラルドの記憶に思い当たる男がいた。最後に会ったのは、もう十六年も昔のこととなる。

 バルラルドがその男を初めて見たのは丁度、娘のジェシカ(・・・・)が成人した頃のことだ。年に一度、四騎士は一人入れ替わることになっており、一人の年期が四年ある。そしてそれに合わせて、四騎士引き継ぎの数ヶ月前から志願者を集め、国王として志願者を激励する催しのような日が設けられている。バルラルドが彼の者と会ったのはその日が初めてだった。


 誰も彼もが一目置くような従魔を引き連れている中で、冗談にもその男は鉢植えを両手にタンポポを咲かせていたのだ。周りとは違う意味で目を引くのも無理はない。

 その後、志願者から四騎士を決めるトーナメントが開催される。これは一般に公開されることはない。なぜならば国王が自ら試合の結果を見届け、国に必要な人材を探す為だからだ。護衛こそ存在するが、不確定要素は少ない方がいいといった考えである。


 タンポポの男の名はダインと言った。トーナメントで見事勝ち残り、『ソディー』の位についた彼は、ダイン・ソディーと名を改め、四騎士となった。

 予想外でしかない。タンポポが、タンポポにしか見えない何かは、それでも力の限りを尽くして、四騎士となれた。その結果は表面上の強者が四騎士になるよりも大きく、未来の志願者に希望を与えた。それは庶民だけでは止まらず、一国の王女にまで影響を与えたのだ。


 翌年、フィシアム王国第一王女、ジェシカが王位継承権を破棄し、四騎士へと志願した。婚約者はそれを激怒し、婚約は解消するなど、一時期問題が起こった。まぁ、その婚約者はすぐに第二王女との婚約を求めたのだから、何を欲しているかなどは明らかでしかない。当然、そんな人間だと分かった以上、バルラルドは婚約を許しはしなかった。


 その後、未曾有の魔物が王都に襲来したり、ちょっとした事件が発生したりなど、なんやかんやあった。なんやかんやあって、バルラルドが知らぬ間にダインとジェシカが親密になり、ダインが任期を終え、次いでジェシカが任期を終えた年、二人は結婚した。二人は密かに付き合っていたらしく、その話を聞いた日に、バルラルドは久方ぶりの深酒で後日二日酔いとなったのだが、この話は割愛しよう。


 翌年、秘匿法により名前を変え、身分を庶民としてひっそりと暮らす娘から、手紙で孫が産まれたこと、孫の名前はマテル(・・・)であることをバルラルドは知る。その際も、手紙の封は特徴的なタンポポの封蝋であった。ダインの手作りだと娘が自慢してきたその日は、何とも言えないもどかしさにバルラルドは包まれる。ちなみに孫が産まれたと知ったときは素直に喜んでいた。


 そして、それから再び手紙が送られたのが十五年後、マテルが成人した日である。秘匿法があるとはいえ、王家に手紙を出せる一般人が怪しくないわけがない。無論、手紙は信頼できる王家の息の掛かった者が、さりげなく仲介を挟みに挟んで王城まで運ばれる。だから無関係者に悟られることはないに等しいが、可能性がないわけではない。故に何かしらの大事以外で手紙は送られてこないのだ。


 つまり、手紙が送られてきたということは、孫が産まれたことと同等の大事が起こったということだろう。と、バルラルドは考えていた。具体的には「二人目か、二人目なのか!?」といった具合に。

 しかし、封を切ると、そこには予想とは全く違う雰囲気の文面が綴られていた。

 曰く、マテルがセパリヌから旅立つらしい。きっと最寄りの王都に向かうはずであり、途中まではタンポポを使って警護するつもりだと。けれど『火吹き』の噂が本当ならタンポポではどうにもできないから、どうか守ってはくれないかと。そういった内容であった。


 巣立ちは見送らなければ成長にはならない。構ってばかりの小鳥は、飛ぶ方法を知らないまま巣と運命を共にする。だが、守れる分には守りたい。そういった願いなのだろう。バルラルドは読み終わると同時に、仕方ないとばかりに息を吐く。

 長女であったジェシカは、弟、妹の手本になろうと我が儘らしい我が儘を言うことはなかった。次女は正反対で姉に甘やかされていたが、ともかく、バルラルドはジェシカと、その夫のダインからの願いに『父親』として腰を上げたのだった。


 人魔大戦以降、教会主導の秘匿存在。その一例であるアーリ・ヘンス護衛のもと、マテルが帰っていった頃。バルラルドはいつものように、午後の手紙の精査を始めていた。

 そんなときだ。部屋に三度のノック音が響き、誰かが入ってくる。そも、ここは玉座の境界線を越えた場所だ。マテルのときこそ、事前に「儂の客だ」と使用人に伝えてはいたが、そうでなければ四騎士のアーリが連れていたとて止められる。その上で、バルラルドの私室に来るような相手など限られていた。


「よろしかったのですか? お父様」


 フィシアム王国第二王女、アーニス。来年にはアーニス・フィシアムとして女王になる予定の彼女は、ブロンドの艶やかな髪を揺らして入室すると、己が父、バルラルドに問う。


「主語を省略するな、アーニス。何が言いたい」


 手紙の文面から目を離すことはなく、バルラルドは問い返す。その言葉に最もだと納得したのか、アーニスは言い換えた。


「そうですね。簡単に述べますと、二つほど。本当に、姉様の子を行かせてよろしかったのですか?」


 粛然とした態度のアーニスだが、その目は非難に近かった。普段の父親に向けるものでも、況してや国王に向けるものでもなく、人間をふるいに掛けるような選別がそこにはあった。


「構わない。他人に指示された人生と、他人に助けられた人生は、意味が大いに異なるものだからな。儂にできることなど、せいぜいが側付けを向かわせるくらいだ」

「そうですか。充分だと思います」


 不満ないと顔に書いているように、アーニスは微笑む。彼女の中で、バルラルドは父親という立ち位置を守った。バルラルド本人がそれを理解しているかは怪しいが、自然な振る舞いが彼女の望む行動に沿うのなら、それに超したことはないと彼女は考える。


 アーニスは姉が好きだ。家族として、人間として、妹として、姉が好きだ。だから姉が好いたダインも好きだし、姉の子であるマテルを大切に思う。姉が放棄した王位も拾い上げるつもりで、他の兄達を黙らせる。彼女にはそれを為し得てしまう才能と従魔がいて、およそ唯一止められるであろう姉は、この場にはいないのだ。


「では次に」


 一歩、二歩、とバルラルドの方へとアーニスは歩く。そこまですればバルラルドも、どうしたんだと目を向けるのだが、アーニスの目的はその後ろにあった。

 彼女は、バルラルドの背後にある窓を開くと、一匹の鳥を入室させた。勿論のこと、野生の鳥ではない。アーニスの従魔である。


「リプレイン。聞かせてあげて」


 黄緑色の、頭から足にかけて黄色が強くなる配色の鳥、リプレインはアーニスの指を止まり木のようにして羽を畳む。そうして、過去を再現するように鳴き出した。


「『宇宙(そら)を観るためだと儂は聞いている』『宇宙(そら)を観るためだと儂は聞いている』」


 声も、調子も、何もかもが全く同じ音であった。まるで蓄音機の如く、リプレインは鳴く。アーニスが撫でるとそれは止んだが、こうなると単なる鳥にしか見えない。

 そんな鳥に、バルラルドは嘆息を漏らして言う。


「どこにでもいるな。その鳥は」


 呆れを強く感じさせる声色だが、バルラルドの内心はそれと異なっていた。視線はリプレインの方へと向けられているが、決してアーニスの方へずれる気配は見せない。

 しかし、それでも関係なしとアーニスは続ける。


「あの子に危ない情報を持たせるなんて、どういうつもりですか?」


 話を逸らせない。バルラルドはそれを悟ると、止まっていた手紙の文章へ目をやって、諦め混じりに答える。


保険(・・)のつもりだ。ほぼ無意味かもしれないが、有事の際はこの有無が出る……かもしれない」

「どういうことでしょう?」


 問い詰めるアーニスは、何を言おうが不動だろう。

 バルラルドの後継者として、最も優れていると考えられるのがアーニスだ。だから、どの道その情報を知ることにはなるのだが、今教えるべきかとバルラルドは束の間思案する。そして、アーニスの鋭い眼差しに負けた。


「このまま行けば、お前が女王となるのは確実だろう。故に、これから儂が語る話は、口外無用のものとする」


 おもむろにバルラルドが語り出したのは、フィシアム王国にある言い伝え、『黒き巨塔』であり、その真実であった。

 人魔大戦終結後、フィシアム王国を筆頭に、世界から秘匿した最重要機密事項。今の人類にはどうすることもできないが、その秘密がどうしようもなくあらわになる日が近づいていること。

 それは約一年後、そう遠くない未来の話だ。アーニスはそんな話を、まるで星が落ちてくる戯れ言のように、半ば信じられないまま耳に入れていた。やがて、それが訪れた場合の、世界の被害を考えながら。

















Q:窓にリプレインがいたのに、何でアーニスはバルラルドとマテルの会話を知ってたの?

A:一度戻ってきたリプレインから情報を掴んだアーニスは、他にも何か漏らすのではと、再度リプレインを派遣したから。

 あと、リプレインの能力はバルラルドも知っているので、連れたまま入るのは事前に質問内容を悟られると考えたからというのもあります。不意討ちからの勢いが大事。リプレインは普段から情報収集のために外へ飛ばしているので、アーニス単品の方が怪しまれないのです。

ちなみに、リプレインの記憶には、『マテルが生まれる要因の音声』もしっかり録音されていたりして、10歳の時はそれを初めて聞いて、以降毎夜それを供に……。

度の過ぎたお姉ちゃん大好き妹(現在26)


確認のための簡易図

長女ジェシカ(現在36)

長男

次男

次女アーニス(現在26)

三男

三女

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