玉座の境界線
おっ、くるりん。そろそろフィンブ……斧かよぉ。
グラブルあるあるだと思います。
更新遅れるのも全部フィンブルってやつが悪いのさ。
廊下を悠然と歩くアーリさんの後ろを、僕は数歩分空けて離れすぎないようについていく。トトとゴネットに関しては、最初の分かれ道でいなくなっていた。
途中、何人かの使用人と思われる人達と僕はすれ違い、頭を下げられた。それがアーリさんに対してなのか、その後ろの僕に対してなのかは分からない。ただ、ここで働いている人達の動きが綺麗で、気づけば僕は息を漏らしてその姿に見惚れていた。
僕の中での働く大人とは、父さんのような人間を指していた。下らない下ネタが好きで、母さんにバレていないと思っているへそくりがあって、自ら墓穴を掘るような迂闊な発言をする。そんな人間。
無論、極端な例だってことは僕も分かっている。学校の先生を見れば全員が全員、そんな大人ではないことは理解できる。でも、それでもやはり、覇気がなかった。特に、現代社会の先生は、日に日に目に見えて元気がなくなっていた。
だから僕は結論として、大人とは苦労が多くて、大変な生き物なんだという像を作っていた。それでも、たまに行く商店街の人達は明るくて、こういっては何だけれど、悩みが少ないように思えた。つまり、早速僕の中には矛盾がある。矛盾を抱えたまま、僕は旅に出たのだ。
どうしたいという思いはあっても、その活動源、根本は曖昧でしかなくて、聞かれると困ってしまう。
この漠然とした気持ちを言葉にして汲み取るのなら、僕が旅に出たのだって、子供でいたかったから、結論を出せないまま大人になりたくなかったから。そんな理由であったり、子供の頃の夢を叶えないまま大人になりたくない。そんな割り切れない思いも、考えてみればあるのだろう。
要するに、僕は大人になれる自信がなかったのだ。今だって、成人式を迎えて、従魔を召喚したって、気分は子供の頃と変わらない。
ここの人達は、商店街の人達に似ていた。風格なんて天と地ほども差があるけれど、どちらも活き活きとしているのだ。自分の仕事を誇るように、活力に満ちていた。それはとても、僕には眩しいものだった。
「凄いですね。ここの人達」
「……ん? すまない。もう一度言ってくれるかな?」
見惚れた感想を述べただけのそれは、おおよそ独り言の部類なのだけれど、もう一度言わないといけないらしい。
「ここの人達は凄いなぁって思ったんです。なんというか、動きが綺麗で」
「そうだろう。ここにいるのは王家に仕える者達だ。専門教育を積んだ精鋭揃いで、あぁ私の補佐官もここの出身でね」
補佐官、というと、誰だろうか。ここの人達みたいに動きが綺麗で、アーリさんの関係者。……あ、受付嬢さんか。確かに動きが似ていなくもない。
ところで、なぜアーリさんは話を聞き返したのか。声が小さかったわけではないと思うのだけれど、少し遅れて聞いてきたことから、他のことに意識を割いていたとか。
「ところで、さっきは考え事ですか?」
思いきって僕は聞いてみることにした。こんなところを黙々と歩くのは緊張してしまうからだ。だから騒がしくならないような声音で、僕は簡単な雑談がしたかった。
問われたアーリさんは短く、考え込むような素振りをすると肯定を返した。
「そう、だな。少し意外に感じていたんだよ」
「何をです?」
「トトのことさ」
聴くに、アーリさんはゴネットの性格こそ知らないが、二年間の付き合いのあるトトに関しては疑問に思うところがあるらしい。トトは状況判断や決断力に長けている面はあるが、あんな短い間で会ったばかりの相手と恋仲になるような性格はしていないと言う。
「でもキスしてましたよ? 馬車の中で。しかもトトからほぼ一方的に」
「そうか。……ふむ、ならば早すぎる展開を納得させる理由が必要か? となると……」
歩きながらアーリさんは再び考え込む。そして何かに辿り着いたのか、ふと一つの答えを僕に求めた。
「マテル君、トトがゴネット君にキスをする前か後に、ゴネット君に惹かれた理由など、本人から聞いているんじゃないか?」
「理由……あ、それなら言ってました。ゴネットは好条件だから逃がしたら後悔しそうだって」
「好条件か。はてさて、どういった意味で言ったのやら。残念だが考える時間はもうないらしい」
ここでも置き去りですか。どういった意味ってどういった意味? と僕は思う。まぁ、アーリさんも分かっていない様子だし、僕だけ答えを理解していないわけではないのだろう。差異は考えている途中経過を知っているか知らないかだけ。僕は何が何やらの状態だ。
だが、それはこの際どうでもいい。アーリさんは一際彫りが拘られた両扉の前で止まる。後を沿うように、僕の足も自然と止まった。それはあからさまに周囲の扉と違ったのだ。どういった部屋であるのかなど、察するのは容易でしかなかった。
眼前の重厚な両扉をアーリさんが引くと、僕はその先の光景に意識を吸い寄せられた。
そこには絢爛な光景が広がっていた。淡い青、空を思わせるような透き通る材質を基本に、百人の人間と百匹の従魔が自由に動けるような部屋があった。合間合間には天井を支える柱があって、そこにはフィシアム王国を象徴する国旗が一枚ずつ垂れ下がっている。
両扉から玉座と思われるところまでは、緋色で金の彩飾のある道が直線に敷かれていた。天井からはそれだけでも価値が計り知れない大きなシャンデリアが中心に、それの半分ほどのシャンデリアがいくつか、規則的に配置されていて部屋全体を照らせそうだった。
つまり、この場を言葉で表すのは簡単だ。教科書にも載っているような、一目で判断がつくような部屋。ここは、いわゆる謁見の間と呼ばれる場所なのだろう。生憎と、今は誰もいないようだけれど。
アーリさんはそんな謁見の間を突き進み、僕は恐る恐るついていく。僕だけ場違いな感じがして嫌だけど、「国王様直々の頼みだ」とアーリさんは言ったから、僕が進まないといけないのだろう。
ふと、そんなときだ。白が肩に移動しようとするから、僕はそちらに意識を割いて、落ちないようにと手で支えたときのこと。今更ながら、アーリさんの従魔であるラナーを見ないなと僕は思ったのだ。
書類うんぬんで別れた後、僕はラナーを見掛けていない。馬車に乗ったときだって、馬車を引いていたのはラナーではなかった。いやまぁ、四騎士の仕事をするのであれば、ラナーと分かれるのも頷けるから不思議なことではない。きっとアーリさんがこうしている今、ラナーは王都周辺を警備しているのだろう。
別に、それについてとやかく言いたいわけじゃない。利点は理解できるし、効率的だと納得もできる。でも少し、そういう関係は寂しいなと感じるだけだ。所詮は個人の感想でしかなくて、できるだけ白と一緒にいようと僕が思ったのも、個人の価値観でしかない。
だから僕は脈絡なく、何とはなしに白を撫でた。緊張を和らげるためが主だけれど、それでも白は喜ぶような様子を見せて、そんな白に僕の口元は綻んだ。
そして、この謁見の間にて僕は謁見をするのかと思ったのだけれど、どうも違うらしい。アーリさんは進み続け、玉座の脇のこれまた細部まで作り込まれた扉に手を掛けて、一度僕の方へと振り返った。
「ここから先は『玉座の境界線』を越えることになる。つまり、王族以外が入ることは許されない領域だ」
アーリさんの説明に僕は耳を貸した。フィシアム王国の歴史として、『玉座の境界線』は授業でも聞いたことのある話だ。
その昔は一般と王家とを区別するための線引きとして。やがて謁見時、玉座より後ろの領域は不可侵であることから、王族は直々に一般のために足を運ぶという、王家が一般のために動く格好が形成され、その過程でいつしか『玉座の境界線』という言葉が生まれたと云う。
「残念なことに私はついていけないが、なに、心配する必要はない。この先の廊下を真っ直ぐ進んだところに両扉がある。マテル君はそこをノックすればいい。簡単な話だろう?」
簡単ですね。えぇ、簡単です。でもですね、アーリさん。僕が「理不尽だ!」って叫ぶことの方が、より一層簡単だと思いませんか?
次回、マテルが抱いた謎が明らかに!
さて、どれでしょう。




