45・闘技場
振り向くとそこには、立派な全身鎧に顔だけを出している女騎士が居た。
顔立ちから見て、俺と同い年くらいだろうか。可愛いと言うより、美人と言った方が似合う女性だ。
「俺たちのことかな」
「そうだ君たちだよ。失礼だが少し時間をもらいたい。構わないかな」
いかにも騎士然とした物言いだが、何かの勧誘だろうか。その高価そうな鎧でも買わされるのかもしれない。
俺たちが田舎者に見えて、騙しやすいとでも思ったに違いない。
「いえ、間に合ってます」
そそくさとその場を後にした。
「あーちょっと待ってくれ! 私の話を聞いてくれ」
「だから間に合ってますって」
「いや、怪しいものじゃないから!」
「おもいっきり怪しいんですけど!」
女騎士は闘技場の入り口まで付いてきた。
「そのロッド持ちの子は冒険者なのだろう? となると君たちもそうじゃないのかい? パーティーなのだろう?」
そこでやっと足を止めて、女騎士の方を向く。
「だとしたら何なのだ?」
「いや、だから少し話を聞いてほしい」
俺はフォウを見る。特に警戒もしていないようだ。
この女騎士に悪意でもあれば、フォウが感じ取って教えてくれるだろう。
「私はこの闘技場のファイター兼スカウト担当のシャランという。まずは突然呼び止めた非礼を詫びさせてくれ。驚かせてすまなかった」
「スカウト?」
ファイターとは先ほど見た魔獣と戦う戦闘士の事だろう。スカウトは……その戦闘士を、という事か?
「私はこの闘技場で専属のファイターをやっている。元騎士だ。ファイターとはここで魔物と戦う者たちの事だ。それに加えて私はファイターのスカウトも一任されている」
思った通りだ。
「ほう」
それで杖持ちのサーラを冒険者と見て、声を掛けてきたらしい。
実際は違うのだが。……サーラのこれはお飾りだ。
「実は今ここの闘技場ではファイター不足でね。そこで目ぼしい冒険者がいたらスカウトしているのだ」
「確かに俺らは冒険者だが、強いとも限らないだろ? そんな手当たり次第に声をかけているのか?」
「いや、強さは関係ないのだ。魔物もランク毎に揃えている。ランクに合った試合を提供できるようになっている」
なるほど、だが俺のランクの試合などあるはずもない。あっても俺は戦う事はないけどな。
「ふーん。で、俺らをスカウトしたいと?」
「そうだ。実際君たちとこうして会えたのは僥倖だ。是非検討していただきたい。それで、実際のランクを参考までに教えていただきたいのだがどうだろう?」
それくらいは構わないだろう。
「俺たちは……Aランクパーティーだ」
正確には『Dランクの俺がAランクの天使たちを率いるパーティー』だ。
略してAランクパーティだ。
「Aだって? それは凄い! 私と同じだ。是非ここで試合をしてみないか?」
この女騎士もランクAらしい。俺は違うけど。さすが王都だ。ランクAとすぐに会えるなんて。
「どうしよっかなー」
俺はちらりとフォウを見る。またですか、という目で睨んでいる。
……どうしよう。フォウ先生がやる気にならなければ、この話は無しだ。
「もちろん報酬もランク別で用意している。ランクAの試合なら一回の戦闘で金貨十枚だ。ちなみにランクCだと金貨二枚でBだと五枚。この通りランクAは破格だ。もちろん魔物もAランクが出てくる事になるのだが」
「よし、検討はしよう。受けるとしたら君に言えばいいのか?」
報酬に釣られてちょっとその気になってしまったが、フォウがやる気無さそうなので、この場では決めないでおいた。
「そうか! 助かる。ではその気になったらこの闘技場の事務室を訪ねてくれ。私が対応させて頂く」
「わかった。今日の所は帰るが、その時はよろしく」
最初こそ怪しい感じだった女騎士だが、話をしてみれば真面目そうな元騎士様だ。
フォウが嫌だと言うのなら、無理にする事もないが報酬が魅力だ。金はあるに越したことはない。
女騎士と別れると宿に戻り、そこの食堂でパーティー会議だ。
「この一番高い肉とスープとサラダ、それにパンを四人分だ。……金ならある」
「節約はどうしたんですか!」
フォウの――天使の怒った顔も可愛いとか、もはや反則だろ。
「まあまあ、落ち着きたまえ。フォウよ。闘技場のギャラは金貨十枚だぞ?」
「誰が出るんですか? アランが出ると言うのなら文句もありませんが」
「いや俺は無理だろ、ランクAじゃないしー」
「ニナやるなのー」
ここでニナがやる気を出してきた。
もちろんニナだって強いから問題ないのだが、いったいどういう風の吹き回しだろう。
こいつは食い物以外、興味ないはずだ。
「だっておいしいおにく食べられるなの?」
……だそうだ。
「よし、じゃあ明日にでもあの女騎士の所へ行ってみようかニナ。ちょっと戦うだけでお肉食べ放題だぞ」
「はいなの!」
チョロいぞこの天使。大丈夫か。
ここの食堂で出されたステーキは、これまで食べたステーキよりよっぽど美味かった。値段もそれなりだったが。
ニナに追加の肉を与えた後、部屋へと移動する。
部屋にはベッドが四つある。だがニナは俺に引っ付いて寝るので、こっちのベッドに入ってきた。
それを見たサーラが、なにやらもじもじしている。
「あ……あの……もし……よろ……れば……フォウ様と……たい……です」
消え入りそうな声で、何かをフォウに訴えていた。
「わたくしは構わないですよ。ベッドも広いですし」
フォウはそう言うと、ベッドを半分譲った。
「あ……ありがとう……ござい……ます」
サーラは嬉しそうに、フォウの元へ行く。
あのサーラが一人寝は寂しいというのだ。なんともフォウに懐いたものだ。
それを見て俺は嬉しくなった。だってそうだろう。あのサーラが、だ。
絶対に他人に心を開きそうもないサーラが、フォウに対して心を許しているのだ。
馬車でずっとフォウと一緒に寝ていたから、いつの間にかそれが落ち着くようになったのだろう。
明日からは二人部屋でいいかな、と思う俺なのだった。




