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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第5章 王都編~闘技場のあれこれ~
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45・闘技場

 振り向くとそこには、立派な全身鎧に顔だけを出している女騎士が居た。

 顔立ちから見て、俺と同い年くらいだろうか。可愛いと言うより、美人と言った方が似合う女性だ。


「俺たちのことかな」

「そうだ君たちだよ。失礼だが少し時間をもらいたい。構わないかな」


 いかにも騎士然とした物言いだが、何かの勧誘だろうか。その高価そうな鎧でも買わされるのかもしれない。

 俺たちが田舎者に見えて、騙しやすいとでも思ったに違いない。


「いえ、間に合ってます」


 そそくさとその場を後にした。


「あーちょっと待ってくれ! 私の話を聞いてくれ」

「だから間に合ってますって」

「いや、怪しいものじゃないから!」

「おもいっきり怪しいんですけど!」


 女騎士は闘技場の入り口まで付いてきた。


「そのロッド持ちの子は冒険者なのだろう? となると君たちもそうじゃないのかい? パーティーなのだろう?」


 そこでやっと足を止めて、女騎士の方を向く。


「だとしたら何なのだ?」

「いや、だから少し話を聞いてほしい」


 俺はフォウを見る。特に警戒もしていないようだ。

 この女騎士に悪意でもあれば、フォウが感じ取って教えてくれるだろう。


「私はこの闘技場のファイター兼スカウト担当のシャランという。まずは突然呼び止めた非礼を詫びさせてくれ。驚かせてすまなかった」

「スカウト?」


 ファイターとは先ほど見た魔獣と戦う戦闘士の事だろう。スカウトは……その戦闘士を、という事か?


「私はこの闘技場で専属のファイターをやっている。元騎士だ。ファイターとはここで魔物と戦う者たちの事だ。それに加えて私はファイターのスカウトも一任されている」


 思った通りだ。


「ほう」


 それで杖持ちのサーラを冒険者と見て、声を掛けてきたらしい。

 実際は違うのだが。……サーラのこれはお飾りだ。


「実は今ここの闘技場ではファイター不足でね。そこで目ぼしい冒険者がいたらスカウトしているのだ」

「確かに俺らは冒険者だが、強いとも限らないだろ? そんな手当たり次第に声をかけているのか?」

「いや、強さは関係ないのだ。魔物もランク毎に揃えている。ランクに合った試合を提供できるようになっている」


 なるほど、だが俺のランクの試合などあるはずもない。あっても俺は戦う事はないけどな。


「ふーん。で、俺らをスカウトしたいと?」

「そうだ。実際君たちとこうして会えたのは僥倖だ。是非検討していただきたい。それで、実際のランクを参考までに教えていただきたいのだがどうだろう?」


 それくらいは構わないだろう。


「俺たちは……Aランクパーティーだ」


 正確には『Dランクの俺がAランクの天使たちを率いるパーティー』だ。

 略してAランクパーティだ。


「Aだって? それは凄い! 私と同じだ。是非ここで試合をしてみないか?」


 この女騎士もランクAらしい。俺は違うけど。さすが王都だ。ランクAとすぐに会えるなんて。


「どうしよっかなー」


 俺はちらりとフォウを見る。またですか、という目で睨んでいる。

 ……どうしよう。フォウ先生がやる気にならなければ、この話は無しだ。


「もちろん報酬もランク別で用意している。ランクAの試合なら一回の戦闘で金貨十枚だ。ちなみにランクCだと金貨二枚でBだと五枚。この通りランクAは破格だ。もちろん魔物もAランクが出てくる事になるのだが」


「よし、検討はしよう。受けるとしたら君に言えばいいのか?」


 報酬に釣られてちょっとその気になってしまったが、フォウがやる気無さそうなので、この場では決めないでおいた。


「そうか! 助かる。ではその気になったらこの闘技場の事務室を訪ねてくれ。私が対応させて頂く」

「わかった。今日の所は帰るが、その時はよろしく」


 最初こそ怪しい感じだった女騎士だが、話をしてみれば真面目そうな元騎士様だ。

 フォウが嫌だと言うのなら、無理にする事もないが報酬が魅力だ。金はあるに越したことはない。

 女騎士と別れると宿に戻り、そこの食堂でパーティー会議だ。




「この一番高い肉とスープとサラダ、それにパンを四人分だ。……金ならある」

「節約はどうしたんですか!」


 フォウの――天使の怒った顔も可愛いとか、もはや反則だろ。


「まあまあ、落ち着きたまえ。フォウよ。闘技場のギャラは金貨十枚だぞ?」

「誰が出るんですか? アランが出ると言うのなら文句もありませんが」

「いや俺は無理だろ、ランクAじゃないしー」

「ニナやるなのー」


 ここでニナがやる気を出してきた。

 もちろんニナだって強いから問題ないのだが、いったいどういう風の吹き回しだろう。

 こいつは食い物以外、興味ないはずだ。


「だっておいしいおにく食べられるなの?」


 ……だそうだ。


「よし、じゃあ明日にでもあの女騎士の所へ行ってみようかニナ。ちょっと戦うだけでお肉食べ放題だぞ」

「はいなの!」


 チョロいぞこの天使。大丈夫か。


 ここの食堂で出されたステーキは、これまで食べたステーキよりよっぽど美味かった。値段もそれなりだったが。

 ニナに追加の肉を与えた後、部屋へと移動する。




 部屋にはベッドが四つある。だがニナは俺に引っ付いて寝るので、こっちのベッドに入ってきた。


 それを見たサーラが、なにやらもじもじしている。


「あ……あの……もし……よろ……れば……フォウ様と……たい……です」


 消え入りそうな声で、何かをフォウに訴えていた。


「わたくしは構わないですよ。ベッドも広いですし」


 フォウはそう言うと、ベッドを半分譲った。


「あ……ありがとう……ござい……ます」


 サーラは嬉しそうに、フォウの元へ行く。


 あのサーラが一人寝は寂しいというのだ。なんともフォウに懐いたものだ。

 それを見て俺は嬉しくなった。だってそうだろう。あのサーラが、だ。

 

 絶対に他人に心を開きそうもないサーラが、フォウに対して心を許しているのだ。

 馬車でずっとフォウと一緒に寝ていたから、いつの間にかそれが落ち着くようになったのだろう。


 明日からは二人部屋でいいかな、と思う俺なのだった。




  


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