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転生失格 ~転生して記憶も能力もない俺が行き着く所~  作者: 山下香織
第5章 王都編~闘技場のあれこれ~
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46・闘技場の女騎士

 翌朝早くから四人揃って闘技場へ向かう。女騎士と打ち合わせをした後で、街を散策する予定だ。

 闘技場はまだ早朝という事もあって、昨日の喧騒はどこへやら静まり返っている。


 まず事務室を探さなければならないが、目立つ所に案内板があった。それに従って奥へ奥へと進みやがて、目的の扉の前に立つ。


 もしかしたらこんな早朝から、人は居ないかも知れない。

 そんな考えでいたから、ノックもおざなりに扉を開けた。


「!!!」


 着替え中だったらしい。

 無言の鎧が飛んで来た。


 ガコーンと高らかに音を響かせて、俺の頭に命中したそれがゆっくりと床に落ちてゆく。

 朦朧とする意識の中で、俺はあるものを捉えるべく前方に集中した。

 

 このまま倒れるわけにはいかない。

 本能とも言うべきそれは、俺に使命を与えていた。

 その刹那とも言える瞬間に見えた、女騎士の下着姿をしっかりと脳内へ焼き付けつつ、俺は意識を失った。

 

 彼女は脱いだら凄かった……

 凄かった……

 凄かっ……


「アラン!」

「なの!」

「はいよ」

「……」


 フォウが叫び――ニナが魔法を展開――俺が復活し――サーラが呆れる。


 ニナの魔法によって、瞬時に状態異常回復を施された俺は、さらに女騎士を見てやるべく復活する。

 目を皿のようにしてその姿を探したが、すでに居なかった。


「すまん。誰か来るとは思わず、鍵も掛けなかった私が悪い」


 事務机の下の方で声がする。


「ちっもう隠れたか。痛い思いした分、もう少し見せてほしかったところだ。だが一瞬とはいえ、凄いものを拝ませてもらった。俺は心の内で眼福眼福と呟くのであった」

「すまんがそういった台詞は、心の中でお願いしたいのだが……」


 あれ? 声に出したのか? 心の声が口から洩れたらしい。


「そしてその鎧を、こちらに投げてくれるとうれしい」

「どうしようかなー」

「アラン!」

「……」


 先ほどと同じ呼びかけなのに、全く違うニュアンスで叫ぶフォウが怖かったので、大人しく鎧を投げてやった。

 サーラも先ほどから何気に視線が冷ややかだ。

 まずい、このままではサーラもフォウ側となって、俺を常に軽蔑の眼差しで見るようになってしまう。


 投げた鎧は見た目に反して凄く軽かった。


「いや君たちが来るかも知れない、という事を失念していた。私の落度だ」


 机に隠れて、ごそごそ着替えているらしい。外に出ろと言われないので、ここで待機する。


「俺も返事を待たずに開けたからな、お互い様だ。むしろ良いものを見せてくれて、ありがとうございます」

「礼まで言わないでくれ……手を合わせて拝まないでくれ……」


 声が頬を染めていた。


 いかにも事務所といった部屋だが、更衣室はないのだろうか。


「普段はあまり人も来ないのでね。しかしさっきのは驚いた。……気絶した君を瞬時に回復させて、倒れる時間も与えないとは」


 女騎士は机の下で鎧を着こむという、高等技術を完遂し姿を現す。


「これでも一応ランクA冒険者なもんでね、それくらいの芸当出来なきゃ生きていけないのさ」


 ニナを指さしながら言った。俺はただ気絶しただけだが、神速をもって無詠唱回復をやってのけたのはランクAのニナだ。嘘は言っていない。


「さすがはランクAパーティーの連携と言ったところだな」


 女騎士は素直に賞賛してくれる。うんうんと腕を組み、頷きながら俺は尋ねる。


「ところで例の試合の件だが、俺らの中で誰でもいいのだろう?」

「そうだ。試合の契約をする前にギルドカードの提示をお願いするだけだ。誰でもいい」

「ならこいつがやる」


 俺がニナを指さす。


「ほう。先ほどの無詠唱の回復は見事だった。少女よ、名を教えてもらえるか」

「ニナなの!」

「私は昨日紹介したと思うがシャランという。ところで状態異常の回復は正統回復魔法と違い、他の系統の魔法も使えると聞くがそうか?」

「ニナはどっちも……」

「はーいはいはい。それ以上はマネージャーの俺を通してからにしてくださいねー」


 俺は慌ててニナの口を塞いだ。天使たちの魔法は騒ぎの元だ、詳細まで教えてやる必要はない。


「そうだな。すまなかった。魔法については各師弟の決まりごとや、相伝によって受け継がれしもの」

「う、うん、そうそう、それそれ」

「私が迂闊だった。ただ回復魔法を習得せし者は、他の魔法が使えないと聞いていたので、それだと魔物と試合が出来ないのでは、と危惧してしまったのだ」

「そ、そうか? そこまで心配してくれなくても……大丈夫だぞ」

「だが状態異常回復は別だとも聞くので確認したかったのだ。他意はない。許してくれ。いやしかし君の頭に怪我も無いようだな」


 ほんと素直な騎士様だな。悪いが回復についてはスルーさせてもらう。


「まぁ試合すればわかる事だが、ニナは普通のAランクの魔物が出たくらいでは瞬殺だろうよ」

「それほどなのか……。だとしたら逆に、少しは見せ場を作ってほしい所なのだが、ニナ殿の名誉とプライドのために無理強いは出来ないな」


 なるほど、観客あっての見世物だからな。瞬殺されてはたまらないのだろう。


「手を抜けという事か? それなら問題ない。おいニナ、戦う時はめちゃくちゃ手を抜いて遊べ。すぐに倒したりするなよ、観客が居るんだからな。ちゃんと出来たら、ご褒美は肉だ」

「はいなの! ニナはちゃんとできるなの!」


 ニナはいつだって、いい返事をしてくれる。


「それは助かる。なんにしても命の危険のない程度でお願いする。ここの雇われファイター達ならいざ知らず、臨時にお願いする貴殿たちに無理はさせたくない」


 その言葉を聞いて、この女騎士は本当にいいやつなんだと確信した。


「じゃあ交渉成立だな。いつからやればいい?」

「急で申し訳ないが出来れば今日と明日、メインの試合でお願いしたい。大丈夫だろうか?」

「了解だ。メインってのはいつだ?」

「夕方の六時にはここに来てほしい。それまでは自由にしていてくれ」


 ならそれまで予定通り、街の散策に出かけるとしよう。


 次にこの部屋を訪れる時も、ノックはせずに扉を開けようと心に誓って、その場を後にした。




  

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