第8話:「1.2倍速の脳内再生スピードへ!波形を刻むクリエイターたち」
お待たせしました!『フラワーボーイズ』第8話です!
前回の地獄のシャッフルを経て、4人のポテンシャルは限界突破!?
今回はついに始まったショートアニメのボイス収録編です。
メンバーそれぞれの喉が火を噴く中、かずとさんのパートでまさかの事態が……?
どうぞお楽しみください!
――それは、俺たちの喉が、未知の領域へと足を踏み入れた瞬間だった。
「――っし、録音スタート! しょうた、いつでもいけるぞ!」
たけるの鋭い合図とともに、たけるの部屋の空気がピンと張り詰める。
俺たちの前に置かれたモニターには、T×3(ティーバイスリー)さんから送られてきた絵コンテと、俺が徹夜で書き直したカオスな台本が映っていた。ターゲットは、わずか1分30秒のショートアニメ動画だ。
この作品のメインキャラである『優香』は、俺とたけるの二人で一つのキャラクターを兼任して演じ分ける。
「じゃあいくよ……。そんなことより私の新作コーデ見て! 超映えてない!?」
「ボイチェン(高)」のスイッチを入れた俺の声が、機材を通して優香の片面である「ちょっと計算高くて最高に可愛い映え姉ちゃん」の声へと化ける。
すかさず、たけるが自分のマイクを引き寄せた。
「はぁ。あなたの言う『映え』は科学的に分析すると単なる彩度の暴力よ。それより私のこの、古代エジプトのミイラ作成における防腐剤のうんちくを聞きなさい」
たけるの喉から、優香のもう一つの面である冷徹でめんどくさい「うんちく姉ちゃん」の声が飛び出す。一人のキャラクターを俺たちの二人三脚で兼ねていくこの掛け合いのテンポ、自分でディレクションしておいてアレだけど、めちゃくちゃ気持ちいい!
「あ、あの……べ、別にあんたたちのために、ジュース買ってきたわけじゃないんだからねっ!」
たくみが、顔を真っ赤にしながらマイクに向かって絶叫した。
「ひな(マセガキツンデレJS)」のセリフだ。その、コンマ数秒遅れて入ってくる絶妙な「ツンデレの間」の破壊力に、ブースの全員が悶絶する。
「……っ、たくみ、お前天才かよ! ボイチェン通したらマジで合法JSじゃねえか!」
「うるさいです、かずとさん! 早く次行ってください、恥ずかし死ぬ!」
ここまでは完璧だった。俺たちのポテンシャルは、間違いなく昨日の地獄のシャッフルを経て、何倍にも跳ね上がっていた。
だけど、そいつは「4人目」の収録で、突然牙を剥いた。
「よし、次はかずとさん! 『限界オタク女子・さき』の、推し語り15秒マシンガントーク、いくぞ!」
たけるがデスクを叩く。
「おっしゃ任せとけぇい! 喉ちんこ飛ばしていくぞオラァ!」
かずとさんが首筋に青筋を立て、マイクに掴みかかる。
「はいスタート!」
「――あぁぁぁ待って無理尊い死ぬ無理! 今回の限定SSRの作画神すぎて語彙力ログアウトしたんだけど!? 待って推しの顔面がルーブル美術館! 国宝! 宇宙創造! 運営に家賃振り込ませてお願いぃぃぃぃ!!」
「はいカットォ!」
たけるの無情な声が響く。
「……え? ダメ? 結構ロリ声で限界感出てたろ!?」
息を荒くしたかずとさんが抗議するが、たけるは首を横に振った。
「声のトーンと狂気は100点だ。だけどな、かずとさん。今のパート、予定より5秒押してる」
「へ?」
「T×3さんのショート動画は、1分30秒の尺の中に全キャラの見せ場を詰め込まなきゃならない。かずとさんのセリフは15秒。なのに、滑舌が追いついていなくて20秒かかっているんだ。これじゃ、最後に俺がやる『相棒(機械メタ)』のオチが入りきらない」
画面に表示された波形データは、完全にかずとさんのパートだけが後ろにハミ出していた。
「マジかよ……。これ以上早く喋ったら、噛みまくるぞ俺」
がっくりと肩を落とするかずとさん。ゴリゴリの体育会系である彼に、早口のオタク女子マシンガントークは、フィジカル的な壁が高すぎた。
「……じゃあ、削るか? セリフを」
俺の提案に、かずとさんは悔しそうに唇を噛む。この熱量を削りたくないのは、全員同じだった。
その時、キーボードを叩く「カタカタカタッ!」という激しい音が部屋に響きわたった。
「いや、セリフは1文字も削らなくていい」
たけるが、モニターを睨みつけたまま不敵に笑った。
「かずとさんは、今の狂気のままで限界まで早く喋れ。滑舌がちょっとくらい潰れても気にするな」
「え? でも尺が……」
「余計な『隙間』は、俺が全部コンマ数秒単位でカットして詰める」
たけるがマウスを握り直す。その目は、完全にプロの職人のそれだった。
「音と音の間の無駄な呼吸、発音の終わり際の残響……。それを全部手作業で削って、1.2倍速の脳内再生スピードまで圧縮してやる。最後の『相棒』のツッコミまできっちり収めてみせるよ。かずとさん、喉枯れるまでリテイク付き合えよ?」
「……たける。お前、最高にシブい裏方だな」
かずとさんがニカッと笑い、再びマイクの前に立つ。
「望むところだ! 脳のネジ外して、光速で叫んでやるよ!」
そこからは執念の戦いだった。かずとさんが叫び、たけるが波形を刻む。たくみが間を調整し、俺が全体のテンポをディレクションする。
深夜、たけるの部屋のPCに、1本の完成データが出力された。
「……できた。1分30秒、カオス凝縮版だ」
たけるの言葉に、俺たちは泥のようにベッドや床に倒れ込みながら、だけど確かに、かつてない達成感で繋がっていた。これが、世界をバグらせる爆弾になるとも知らずに――。
第8話を最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
限界オタクを光速で叫ぶかずとさんと、それを力技(鬼の波形編集)で圧縮する職人たけるのコンビ、いかがでしたでしょうか?
「世界をバグらせる爆弾」となった彼らの動画がこれからどうなっていくのか、ぜひ見届けていただけると嬉しいです!
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