第9話:世界をバグらせた1分30秒
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前回の怒涛の収録から明けた今回、ついにネットの海へ動画が放たれます。彼らの運命がひっくり返る瞬間を、ぜひ見届けてください!
――昨日まで誰も俺たちを知らなかったネットの海が、その1分30秒で、完全にひっくり返った。
「よし……動画、音声、テロップのズレ、全部修正完了した」
時計の針が午前4時を回った頃。たけるが、真っ赤に充血した目で、だけどどこか満足げな顔でエンターキーを叩いた。画面の中では、俺たちの魂を削ったカオスな音声が、T×3(ティーバイスリー)さんの描いたハイクオリティなキャラクターたちと完璧にシンクロして躍動している。
「T×3さんにデータ送信したぞ。……俺は、もう限界だ……」
そう言い残して、たけるは泥のようにベッドへ沈んでいった。
かずとさんもたくみも、床に雑魚寝したまま微動だにしない。
俺は、そんな3人に毛布をかけながら、送信完了の通知をそっと見つめていた。俺たちのすべてを詰め込んだ爆弾は、今、ネットの海へと放たれたんだ。
***
翌日の夕方。
仕事を終えた俺たちは、吸い寄せられるように再びたけるの部屋へと集まっていた。
T×3さんの公式チャンネルに、俺たちが声を当てた2.5次元ショートアニメ動画がアップされてから、ちょうど10分が経過した頃だった。
動画のタイトルは――『【カオス】個性がバグり散らかしてる5人組の日常』。
スマホの画面を、俺たち4人は息を呑んで見つめていた。
「……おい、しょうた。これ、更新するたびに数字がおかしいんだけど」
たくみの震える指が、画面をリフレッシュする。
1,000再生。
5,000再生。
20,000再生。
カウンターの数字が、まるでバグったスロットマシーンのように、ものすごい勢いで跳ね上がっていく。
「おいおいおい、通知の嵐でスマホが熱いんだけど!?」
かずとさんが自分のスマホを握りしめながら叫んだ。
コメント欄を開くと、スクロールが追いつかないほどのスピードで、無数の言葉がタイムラインを埋め尽くしていく。
『待って、この限界オタク女子の声、早口すぎて脳がバグるwwスレww息してないww』
『ツンデレJSの間が天才すぎるだろ!中の人、絶対にプロの仕業』
『優香ちゃん1人なのに、しょうたの声とたけるの声が入れ替わり立ち替わりで中身がバグり散らかしてて草』
『最後の機械メタのツッコミで腹筋崩壊した。この声優陣、一体何者!?』
「バズって……る……?」
かずとさんが呆然と呟く。
「バズってる、なんてレベルじゃないよ、これ……!」
俺の声も完全に上ずっていた。画面の中で、いいねと共有の数がリアルタイムで何千、何万と膨れ上がっていく。
ボイチェンと喉の限界を超えた割り振りが生み出した、全員が性別を超えたカオス劇団。
ただの綺麗なアニメじゃない、ネット住民の脳を直接殴りつけるような「狂気」のテンポ感が、アルゴリズムの波に乗って世界を侵食していく。
たけるがコンマ数秒単位で削り倒したあの「隙間」が、観る者を惹きつけて離さない圧倒的な中毒性を生み出していたんだ。
「やったな、たける……! お前の編集、世界に届いたぞ!」
俺がかずとさんの肩を叩き、たけるの背中をバシッと叩く。
「うおぉぉぉ! 俺の限界オタク声が世界に響いてるぜぇぇ!」
「おい、うるさい、静かにしろ!」
たけるが、自分のデスクで何かに気づき、鋭い声を上げた。その手元にあるPC画面。俺たちのメールボックスに、新着を告げる赤いバッジが灯っていた。
送信者は、T×3さんだ。
俺たちは言葉を失い、パソコンのモニターに顔を寄せた。
『素晴らしい。僕の想像の100倍のカオスだ。これなら――次の“大型プロジェクト”を動かせる』
文面の最後には、一枚の新しい企画書のデータが添付されていた。
そこに踊るタイトルの文字を見た瞬間、俺たち4人の目が、限界まで見開かれた。
『――地上波アニメ化・同時展開プロジェクト』
新章の幕開けを告げるその巨大すぎる文字を、俺たちはただ、言葉もなく見つめ返していた。泥まみれの失敗から始まった俺たちの部屋から、今、とんでもない奇跡が動き出そうていた。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
ついにバズった4人の動画、コメント欄の『ツンデレJSの間が天才すぎる』とか『機械メタのツッコミ』とか、どんな動画かちょっと見てみたくなりますよね(笑)。
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