第5話:『見えないノートと栄養ドリンク』
前回のハプニング動画のミスをきっかけに、ついに「解散」を告げて部屋を飛び出してしまったたける。
残されたしょうた、かずと、たくみの3人は、たけるのデスクから彼が一人で抱え込んでいた「本当の負担」と、リーダー・しょうたが陰で支えていた秘密の足跡を見つけることに。
すれ違ってしまった4人の絆は、もう元には戻らないのか――。
『フラワーボーイズ』激動の第5話、開幕です!
たけるが部屋を飛び出してから、どれだけの時間が経っただろうか。
壁の時計が刻むチクタクという音だけが、やけに大きく響いている。いつもはうるさいはずのかずとさんは頭を抱えて床にへたり込んだままで、たくみは破り捨てられたブルーシートを見つめて微動だにしない。
「解散って……マジかよ。そんな、たった一回のミスで……」
かずとさんの掠れた声に、たくみが小さく肩を震わせる。
「俺のせいっす。俺が原始人なんかやるから、コードに……」
「たった一回のミスじゃないよ、二人は」
ずっと黙っていたリーダーのしょうたが、静かな、だけど重みのある声で二人の言葉を遮った。しょうたはゆっくりと、主を失って真っ暗になったたけるのデスクへと歩み寄る。
「しょうた……?」
「あいつ、ずっと限界だったんだよ。数字が伸びて、二人が表でチヤホヤされて、企画が過激になっていく裏で、あいつにかかる負担だけが何倍にもなってた。……あ、これ」
しょうたがたけるのデスクの引き出しから、一冊の古いノートを取り出した。パラパラとめくると、中から大量のカラー付箋がハラハラと床に落ちる。
「それ、たけるさんのテロップノートっすか?」
落ちた付箋を拾い上げ、目を見開いたかずとさんが驚愕の声を上げた。「……これ、しょうたの字じゃねえか?」
そこには、一見呑気に見えるリーダー・しょうたの不器用な筆跡で、びっしりと文字が書き込まれていたのだ。
『ここのたけるのツッコミ、タイミング天才。音量少し上げて強調したい』
『たけるの負担がデカすぎるから、次からテロップの基本の型は俺が作って渡す。あいつを寝かせろ』
「……あと、これ」
たくみがデスクの下から、一つの見慣れた段ボール箱を見つける。たけるが「最近Amazonの誤配送でよく届く」と言いていた栄養ドリンクの箱だ。その底には、しょうた名義のクレジットカードの領収書が貼り付いていた。宛名は、たけるの自宅の住所になっている。
「しょうた、お前……これ、全部陰でやってたのか? たけるの手伝いも、差し入れも……」
「あいつ、プライド高いだろ?」
しょうたはバツが悪そうに頭を掻きながら、ふっと寂しそうに笑った。
「面と向かって『手伝うよ』って言うと、『俺の仕事が遅いってことか』って怒るんだよ。だから、気づかれないようにやるしかなかったんだ。……俺さ、あいつの編集とツッコミがあるから、安心してステージの上でバカやれてたんだよね」
かずとさんがガチガチと奥歯を鳴らし、拳を強く握りしめる。涙がその目から溢れそうになっていた。
「俺たち……動画の再生数ばっかり見て、一番大事な相方のこと、一ミリも見えてなかった。……このまま終わらせてたまるかよ!」
「たけるさんを連れ戻しに行きましょう。謝って、もう一回……」
「あたりまえじゃん。行くよ」
しょうたはノートをポケットに押し込み、不敵に、だけど強い決意を秘めた目でドアを見つめた。
「あいつを一人で泣かせとくわけにいかないだろ」
◇
夜の公園。街灯の冷たい光が、ブランコに座る俺――たけるの足元を照らしている。
画面の消えたスマホを睨みつけながら、俺は胸の奥のドロドロした感情を持て余していた。怒りは消えない。だけど、それ以上に――猛烈に寂しかった。あの騒がしい部屋に、もう俺の居場所はないような気がして、胸が引き裂かれそうだった。
「たけるーーーっ!!!」
静かな公園に、信じられないくらい大声の、だけどどこか情けない声が響いた。
振り返ると、肩で息を荒くした三人が、夜の闇を裂いて走ってくるのが見えた。ハァハァと激しい息遣いが近づいてくる。
「……しつこいんだけど。解散って言っただろ」
立ち上がって立ち去ろうとする俺の前に、しょうたが恐ろしいスピードで回り込んで立ち塞がった。そして、ポケットから一冊のノートを取り出すと、俺の胸元にドンと押し付けてきた。
「……っ、何だよこれ。俺のノート……」
「俺さ、お前の編集が世界で一番面白いと思ってる。お前がいないフラワーボーイズなんて、ただの痛い素人の集まりだよ」
「だったら、何でもっと早く……!」
俺の叫びに、しょうたは一歩も引かなかった。
「だから、賭けをしよう」
「……は?」
唐突なしょうたの言葉に、俺の思考がフリーズする。
「お前は『表でヘラヘラしてる俺らが楽そうに見える』。俺らは『裏方の大変さを分かってない』。だったら、次の動画、全員のポジションを完全にシャッフルして一本撮ろう」
後ろでは、かずとさんとたくみが、今までに見たこともないような真剣な目で俺を見つめていた。お笑いごっこの目じゃない。本気の相方の目だ。
「それで俺たちが使い物にならなくて、お前がやっぱり『こいつらとは無理だ』って思ったら、本当に解散していい。だから……もう一回だけ、部屋に戻ってきてくれ。頼む!」
しょうたが、そして大声担当のかずとさんも、シュールボケのたくみも、俺に向かって深く、深く頭を下げた。
手元にあるノートを見る。そこから覗く付箋には、俺の気付かなかったところで、俺を全肯定してくれるリーダーの言葉がびっしりと詰まっていた。目頭が熱くなるのを、俺は必死で堪えた。
「……ハプニング動画のデータ、半壊だからな」
俺はフイッと顔を背け、小さくため息をついた。
「お前らが夜通しで復旧作業手伝うなら、一回だけ戻ってやるよ」
「たける……っ!!」
「よし、ネゴシエーション完了! たけるの部屋に戻るぞ!」
しょうたがニヤリと笑い、全員の背中を強く叩いた。
4人が再び、あの狭い俺の部屋へと歩み出す。俺の胸のトゲはまだ完全には抜けていない。だけど、ポケットの中のノートの重みが、冷え切った心に少しだけ体温を取り戻させてくれた。
第5話までお読みいただき、本当にありがとうございます!
しょうたの男気あふれる(?)提案によって、まさかの「ポジション完全シャッフル」で動画を撮る賭けに出たフラワーボーイズ。最悪の結末である解散は一歩手前で回避されましたが、果たして表と裏が入れ替わった彼らの次なる動画はどうなってしまうのか……!?
必死に復旧作業を手伝うメンバーたちの姿を想像すると、ちょっと微笑ましくもありますね。
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次回、波乱のシャッフル回(!?)もお楽しみに!




