ひとつだけ願いが叶うなら ( アリア 視点 )
読んでいただきありがとうございます。
「アリア、気を付けてね」
「エレナ様、お世話になりました」
私は深く頭を下げて、馬車に乗り込んだ。
馬車の窓を開けて、もう一度エレナ様を見る。
「ランドルフには、ちゃんと渡すからね」
エレナ様は私に小さなピンク色の包みを見せる。
「はい。よろしくお願いします」
馬車が、ゆっくりと走り出す。
私はこのまま、隣国の叔母の元に養女として向かう。
私が産まれた伯爵家は、決して貧しい家でなかったかが、お父様はとても優しい人で、騙されやすい。
数年前に、友人と事業を始めたが失敗、その友人は事業を始めると直ぐに、資金を持ち逃げてしまい、父はあっという間に大きな負債を抱えることになった。
まあ、騙されたのだ。
父は、借金の返済に駆けずり回り頑張ったが、爵位の返上を考えるまでに追い詰められる。
そんな中、隣国の侯爵家に嫁いでいた、母の妹であるセシリア叔母様が、伯爵家に支援を申し出た。
叔母様は、結婚して6年間、子供が出来ずに悩んでいたため、私を養女に迎えることが支援の条件。
私には年の離れたお兄様がいて、私が養女に出るのは伯爵家的には特に問題はない。
ただ、極貧伯爵家で、娘に教養やマナーの教育をすることも出来ず、家畜のヤギを追いかけまわして、すくすく育った5歳になる野生児の私を、妹の嫁ぎ先とはいえ、そのまま侯爵家に出すわけにいかないと、両親は、隣の領地に住む、アルバ侯爵家の大奥様に私の教育を願い出た。
大奥様のエレナ様は、快く無償で私の教育を引き受けてくれ、私は養女にいくまでの半年間を、エレナ様の元で過ごすことになった。
エレナ様の元で過ごす時間は、いろんなことをたくさん教えてもらい、綺麗な服を着せてもらい、とっても幸せな時間。
私は馬車の後ろの窓から、アルバ侯爵領を振り返る。
「ラル様…………。」
ラル様とは、エレナ様のお屋敷で過ごす、最後のひと月を一緒に過ごした、アルバ侯爵家のご子息だ。
「ふふ」
私は、ラル様との出会いを思い出して一人でほほ笑んだ。
「お前、名前は、なんて言うんだ」
お屋敷の裏庭で、花を積んでいた私は、大きな声に振り返る。
そこには、くせのある銀髪が光にキラキラと反射して、紫の瞳が綺麗な少年がいた。
「お兄ちゃんだあれ?」
私は初めて見る、眩しい少年に返事をする。
「ここは、僕のおばあ様の家だぞ、お前が先に名乗れ」
綺麗で高級そうな服を着ているし………きっと偉い人なんだわ。
「グリフィス伯爵家のアリアと申します」
私は、エレナ様に教えていただいた、挨拶の方法を始めてやってみた。
ん。どこで頭を上げたらいいのだったかしら…………。
「ア アリア!頭を上げていい。俺はアルバ侯爵家のランドルフだ!アリアはどうしてここにいるんだ?」
それからの毎日は、魔法にかかったみたいな楽しさだった。
ラル様と、ザリガニや魚を取ったり、木登りしたり、夏祭りに出かけたり、一緒にマナーやピアノを教えてもらったり……最後の日は、ちょっと冒険しすぎて…………怖くて、ドキドキしたけど。
「最後に、もう一度会いたかったな」
私達のやりすぎた冒険は、侯爵様を怒らせ、ラル様は5日間、自室で反省する様に言い渡された。
私は予定通り、隣国へ旅立つ…………。
「ラル様、ブレスレット喜んでくれるかな…………女の子じゃないぞって嫌がるかな」
✿ ✿ ✿
「お嬢様、着きましたよ」
エレナ様のお屋敷を出発して3日、私は漸く新しいお家となる、ライド侯爵家にたどり着いた。
「んん。ララ、もう着いたの?」
「はい。お嬢様が寝ている間に」
ララは、私を見てにっこり笑う。
馬車の中で眠るのに、お膝を貸してくれていたララは、私の侍女で、アルバ侯爵領まで私を迎えに来てくれた、7歳年上のしっかりしたお姉さんだ。
「さあお嬢様行きましょう。きっと旦那様も奥様も、首を長くして待っていますから」
私は、ララと手をつないで馬車を下り、大きな玄関ホールへと足を踏み入れた。
「まあ。よく来てくれたわね~アリア」
お母様にそっくりな女性が、私を抱き上げる。
「セシリアお、お母様」
「うー。かわいい」
セシリアお母様は、私にごしごしと頬ずりをする。
「やあ~。本当にセシリアにそっくりだな」
大柄で、がっしりした男性が、私に手を伸ばす。
セシリアお母様は、満面の笑みで、私を男性に手渡した。
「やあ、初めまして、今日からアリアのお父様になる、ジェームスです」
クマさんみたいに、大きなお父様が、私にかわいらしい挨拶をする。
「初めまして、ジェームスお父様」
私が挨拶すると、お父様は笑顔の顔をますます緩ませる。
「やあ。妻に似た可愛い娘が出来て、お父様は凄く嬉しいよ」
ジェームスお父様にぎゅうぎゅうに抱きしめられる。
「あなた、アリアが潰れてしまうわよ」
「ああー。力加減がわからなくてごめんよ、アリア痛くなかったかい?」
お父様は、私を床に降ろした。
「はい。お父様、大丈夫です」
私は改めて、お父様とお母様に、カーテシーをする。
「アリアと申します。今日からよろしくお願いします」
「「「 はあ~ 」」」
私の挨拶を見て、お父様とお母様、周りにいた使用人たちが大きく息を吐いた。
あれ…………私、うまくできていなかったかしら…………。
顔を上げると、みんなが笑顔。
「アリア、うちの子になってくれてありがとう」
「カーテシー上手だったぞ」
お父様が私の頭をごしごし撫でる。
はあ~。新しいお父様とお母様は、とても優しい人で良かった。
✿ ✿ ✿
お父様とお母様の優しさに応えるべく、侯爵令嬢としてマナーや習いごと、お母様の進めてくれるものは、なんでも頑張ってやってみる。
そんな毎日が穏やかに過ぎ、私が侯爵家に来て2年が過ぎたころ。
「おぎゃー。おぎゃー」
私に弟が出来た。
名前はオリバー。
お父様と同じ、青みがかった黒髪と、お母様の濃い紫色の瞳を持つオリバーは、むちゃくちゃかわいい。
「アリア、抱っこしてみる?」
私はコクコクと頷く。
「ほら、お母様の隣に座って」
私はお母様の隣に移動して、ぴったりとはりついて座る。
「さあ。ここに手を添えるのよ」
私の手の中にやってきたオリバーは、暖かくてふわふわ、なんだか甘いにおいがする。
「わあ。お母様、オリバーふわふわだよ~。かわいい」
「そうね、アリアもお姉ちゃんになったのね~」
寄り添う私達の横で、家令のマイクが、ぽそりとつぶやいた。
「ご嫡男が産まれ、これでライド侯爵家も安泰ですね」
……………………。
ああ………そうか、私はもうこの家には、いらない子になったんだ。
そう思ったら、胸が急に苦しくなった。
「お母様、オリバーを落としたらいけないので、お返しします」
オリバーを、お母様の腕に戻すと、眼に涙が滲んだ。
私はみんなに涙を見られない様に、部屋を飛び出す。
「アリア!」
お母様が呼ぶ声が聞こえたが、振り返らずに自室に駆け込んだ。
「家令殿!無神経すぎではありませんか!」
お母様のお部屋の近くにある私の部屋に、ララが怒る声が聞こえる。
………やっぱり、みんな私のことは…………。
胸が苦しくて苦しくて、部屋の隅で膝を抱えて丸くなる。
………………………………。
しばらくすると、コンコンと、ドアをノックする音がした。
「アリア。入ってもいいかな?」
「お父様…………。」
私は、重い体を持ち上げて、ドアを開ける。
「アリア」
ドアを開けた瞬間、お父様は私を強く抱きしめる。
お父様の暖かさが、どんどん私の体にしみ込む。
「アリア」
お母様がお父様ごと私を抱きしめる。
私の眼からは大粒の涙がぼろぼろこぼれて、止まらない。
「アリア、不安にさせてごめんな、オリバーは確かに嫡男だが、アリアは私達の大事な娘で、オリバーのお姉ちゃんだ」
「そうよ、お姉さまが返して欲しいと言っても、アリアを返す気は無いわ」
お母様が私の頬を拭う。
「オリバーを授かることが出来たのも、アリアのおかげよ、妊娠がわかった時にお医者様がおっしゃったの。アリア嬢が養女に来て、跡目を産まなければならないと言う強いストレスから、奥様が解放されたことが良い結果につながったのだろうって」
お母様が、私のおでこにキスを落とす。
「おい。セシリア!お前だけずるいぞ」
今度はお父様が、私のおでこにキスをした。
「私は、ここにいても良いのですか?」
「もちろんだ」「もちろんよ、出て行くって言ったら、お部屋に閉じ込めちゃうんだから」
「おい、セシリア、過激だな」
「ふふふ」
お母様が笑い始めると、私もお父様も声を出して、三人で笑った。
✿ ✿ ✿
穏やかに季節は流れ、私は18歳になった。
お父様とお母様の愛情に応えるため、頑張っていた私は、なんと首席として半年後に学院を卒業する。
「やあ、今回のテストも、アリアにはかなわなかったよ~」
隣でニコニコ笑っているのは、この国の第二王子リアム殿下。
「リアム殿下。点数をご覧になりましたか?殿下と私の差は1点だけです」
「その1点の違いが、俺の負けなんだよな~。ところでアリアは、婚約者を決めないの?僕、お勧めしたい人が居るんだけどな~」
私は、ちらりとリアム殿下を見る。
んー顔が緩みっぱなし。
「殿下は、オリビア様と幸せいっぱいですものね~、私はお父様とお母様の、お役に立てる婚約を結びますので、殿下のおすすめはいりません。何度おすすめしても無駄です」
リアム殿下は、半年前に以前から思いを寄せていた、アビゲル公爵令嬢のオリビア様との婚約を、正式に発表したばかりでラブラブだ。
「つれないな~。俺のおすすめも、ライド侯爵家の役には立つし、家格も釣り合ってるんだけど。たぶんライド侯爵は、アリアのどの縁談も渋ると思うんだ、だから直接会ってもらいたいんだけど」
「リアム殿下、お父様の納得しない縁談は、お受けできません」
「うーん。じゃあ作戦を考えよう」
にやにや笑うリアム殿下と、教室に戻るため生徒会室から廊下に出ると、学院の門にライド侯爵家の馬車が見える。
「あれ、アリアの侍女殿じゃない?」
馬車の横で、ララが手を振っている。
「お嬢様!」
リアム殿下と馬車に近づくと、ララが真っ白い顔でたっていた。
「ララどうしたの、体調が悪いの?」
「いえ、お嬢様…………急ぎ屋敷にお戻りを」
ララは、リアム殿下をちらりと見上げる。
「んー。僕がいない方が、いい感じかな?でもアリアのピンチみたいだから、一緒に行くよ、王家が役に立つかもしれないしね」
リアム殿下は返事も聞かず、侯爵家の馬車に乗り込む。
「リアム殿下…………。」
私は、馬車の外から殿下を睨みつけるが、効果は無く………殿下はどんどん話を進め指示を出し、護衛の皆さんが、早退の連絡や王家への連絡などなど、指示に従い散っていく。
「もう。とにかく急いでいるんですものね、ララ行きましょう」
私は、ララと馬車に乗り込み、三人で侯爵家に戻る。
家の中は驚くほど静かで………。ララに、リアム殿下を応接室にお通しする様に指示を出して、私はお父様の執務室に入る。
執務室には、うなだれるお父様と家令のマイク、少し離れたソファーにお母様とオリバーが座っていた。
「お父様…………。」
声を掛けると、お父様は弾かれたように顔を上げた。
「アリア…………すまない」
お父様が、私に頭を下げる。
「どうされたのです?」
「ことの説明は私から」
マイクが一歩前に出た。
「数週間前に領地で起きた、豪雨災害のことは、お嬢様もご存じのことかと思います」
「もちろん知っているわ」
「当家はきちんとした災害への準備がございましたので、問題なく復興支援を始めたのですが、復興作業に入った業者に逃げられました」
私が驚いて眼を見開く。
「いつもは、ある程度作業が進んだところで、お金を払うのだが、以前から関係のある業者だったし、信頼していたんだ。資材の調達に金が足りないと言われ、給金を前払いした俺がいけなかったんだ、アリアすまない」
お父様がまた頭を下げる。
「あの、お父様、私の生家は12年前、お父様に支援していただき、既に力を取り戻していると聞いています、今回は伯爵家の力を借りてはどうでしょう?」
私の提案に、お母様が立ち上がった。
「そうよ、お姉様にお願いしてみましょう」
コンコン。
ドアをノックする音に振り返ると、空いたドアの外に、細身で長身の男性が立っていた。
「皆様、お取込みのところすみません、そろそろ主に返事を持って帰りたいのですが」
…………。
「なかなか、ご両親からはお話ししにくいようでしたら、私がお話ししましょう」
私は、突然会話に割り込んできた、男性に向き直る。
「両親から話しにくいとは、私に関することですか?」
「さすがアリア様、まだお若いのに聡明であられる、我が主人が惚れ込むのも無理はない」
男性は、私に一歩近づいて、深々と頭を下げた。
「お初にお眼にかかります、私はモックス伯爵家で家令を務めております、ハンスと申します。本日は、我がモックス伯爵からアリア様への婚姻の申し込みに参りました。お受けいただいた際には、今回領地の復興にかかる資金はすべてモックス伯爵が負担するとの提案です」
私は、お父様を振り返る。
「アリアのデビュタント以降、モックス伯爵から、何度もアリアに婚姻の申し込みが来ていたが、伯爵は俺とほとんど年齢が変わらない、アリアに相談するまでもなく、私がずっとお断りしていた」
お父様と年の変わらない男性…………。
それでお父様は、先ほどから私に何度も謝っているのね。
私が、モックス伯爵に嫁げば、ライド侯爵家の助けになる。
そのために今まで頑張って来たのだもの、家族の助けになるならば、どんな方の元へでも、嫁ぐ覚悟はできています。
私は深く息を吐き、眼を閉じる。
………瞼の裏に、ラル様の笑顔が見える。素敵な男性に成長されているのでしょうね………………ひとつだけ願いが叶うなら、もう一度、ラル様にお会いしたかった。
私は、もう一度深く息を吸って眼を開ける。
「その婚姻」
「やーやーやーやー失礼しますよ」
空いたドアから、リアム殿下が手を上げて、ニコニコしながら入ってきた。
「僕、たまたま全部、話が聞こえたんだけど、この復興支援についての事案は、王家が一度預かろう」
ハンスが、リアム殿下の前に出る。
「御前失礼いたします。私はモックス伯爵家で、家令を務めますハンスと申します。いくら王子殿下とはいえ、貴族間のもめごとや婚姻に、口をはさむのはいかがなものかと、ましてや殿下はまだ成人されていないのではないですか?」
「やあハンス、僕は先月18歳になり成人の儀を済ませたよ、モックス伯爵家の家令ともなれば、この国の王家審議機関のことは知っているだろ、このシステムはもともと貴族間の問題を第三者が公平に判断するために設けたものだからね、特に預かりにしても問題ないだろ、それとも何か審議されることに問題でも?」
ハンスはギリリと歯ぎしりをして、後ろに下がる。
「いえ殿下。特にモックス伯爵家には、何も問題はありません」
ハンスは執務室の入り口まで足を運び、振り返って深く頭を下げる。
「では、アリア様、10日後にお迎えに上がります」
カツカツと大きな足音を響かせて、ハンスは帰って行った。
「お姉さま」
オリバーが、私にしがみ付く。
「オリバー、怖かったの?大丈夫よ」
「お姉さま、僕がいっぱいいっぱい頑張るから、お姉さまは家にいて、あんな奴の家にいかないで」
ウルウルした瞳で見上げるオリバーを、私はぎゅっと抱きしめる。
「そうよアリア、お母様が守ってあげる」
「もちろん俺も守るぞアリア!」
お父様が、みんなを一緒に抱きしめると、お父様の脇腹に、お母様の鉄扇がお見舞いされた。
「がぁっっ」
お父様は脇腹を抱えて倒れこむ。
「ははっははは。相変わらず、ライド侯爵家のみんなは仲良しだね、モックス伯爵家は悪い噂しか聞かない、大丈夫絶対にあいつが何とかすると思うよ」
リアム殿下は、私を見てパチンとウインクした。
ん?あいつ?
お父様が脇腹を抑えたまま立ち上がり、リアム殿下に深々と頭を下げる。
「リアム王子殿下、深謝申し上げます」
「侯爵、頭を上げてください。まあ、うまく言ったら僕のお願いをひとつ、聞いてもらえると嬉しいですけど」
お母様が、ぐんとお父様を押しのけ前に出る。
「殿下のお望みは、このライド侯爵家、全力で叶えさせていただきます」
「はは、夫人。そんなに張り切らなくても大丈夫、僕のお願いはみんなが幸せになるからね」
お母様の後ろから、オリバーが顔を出す。
「リアム殿下!かっこいい」
「そうだろオリバー。もっと言っていいぞ」
殿下はオリバーを抱き上げて、クルクル回る。
もう。本当につかめない人だ。
✿ ✿ ✿
10日後、私達は王宮に呼び出された。
審査部門のホールに入ると、既にモックス伯爵とハンスが待っていた。
正面には、事務官が数名とリアム殿下。
さあ皆さん、席におかけください。
リアム殿下の隣に座る事務官が立ち上がり、私達に声を掛ける。
私は、お父様とお母様の後に続いて席についた。
お父様の向かいに座る、モックス伯爵は、38歳と聞いたがとても若く見える。
伯爵は私を見つめてにっこりと微笑む。
私は膝に置いた手を、ぎゅっと握った。
「それでは、リアム殿下がお預かりしました、ライド侯爵領の豪雨災害に関する事案について、判断を申し上げます」
事務官が、数枚の資料を私達の前に提示する。
そこには、数々のモックス伯爵家の不正と、災害復興の業者にモックス伯爵が金を渡し、隣国に逃げる様に指示したことが記載されていた。
モックス伯爵が立ち上がる。
「このような紙切れ、何の証拠にもなりませんな」
モックス伯爵が、パチンと手を打つ。
「そうだ、リアム殿下は半年前に、アビゲル公爵令嬢のオリビア様との婚約を、発表されたばかりなのに、美しいアリア嬢にまで、手を伸ばされるおつもりで?」
「モックス伯爵!王族を愚弄する気か」
リアム殿下の低い声が響く。
まあ。あんな声も出せるのね。
「では、動かぬ証拠を見せてもらいましょうか、証拠など無いでしょう」
リアム殿下が手を上げると、奥の大きな扉が開いた。
開いた先には、縄を掛けられた男性と…………。
私は、声が出そうになり、慌てて口元に手を当てる。
少し癖のある銀髪を後ろでひとつにまとめ、騎士服を着た男性。
その男性の紫色の瞳と眼があった。
「ラル様…………。」
同じタイミングで、ハンスが、がたりと椅子を下げ立ち上がる。
「ハンス、見覚えがあるだろう。お前が直接金を渡し、隣国に逃がした業者の一人だ、今回隣国であるルリット王国、アルバ侯爵令息ランドルフ殿の協力により、逃げた業者を捕らえることが出来た、これでも申し開きができるか!」
モックス伯爵も立ち上がり、ハンスを睨む。
「殿下、これは私を思うあまり、ハンスが勝手にやったこと、私は何も知りません」
「モックス伯爵、証拠はこれだけではない、派手に悪事を働き、隠し通せると思うな。二人を連れて行け」
王宮の騎士が、暴れる二人を、あっという間にねじ伏せて連れて行く。
ラル様は、連れてきた罪人を王宮騎士に引き渡すと、私をじっと見つめたまま近づいてきて、さらりと隣に座る。
「ラル様」
「アリア」
隣に座るラル様は、よく見るとあの時、創に巻いた私のリボンを黒いリボンと編んで、自分の髪を結っている。
左手には、プレゼントしたブレスレット。
胸のポケットには、傷にあてたハンカチまで!
「さて、事務官の皆さんお疲れ様、後の処理もお願いしますね。ライド侯爵家の皆さんは、僕のお願い聞いてもらうから、とりあえずお茶にしよ!さあこっち」
リアム殿下にいて、王宮の中庭に向かう。
既に、様々なお菓子と紅茶が準備されている。
「さあみんな座って、はい、公爵と夫人はこっち、アリアとランスはこっちね」
ラル様はさらりと私の手を取った。
お父様が、むちゃくちゃ睨んでいる。
「そういうわけで、僕がずっとアリアにお勧めしていたのは、隣にいる従兄弟のランスなんだけど、どうかな?二人は知り合いなんでしょ?」
私は、成長したラル様が眩しすぎて、真っ赤になってうつむいた。
「おや、いいみたいだね。ライド侯爵、事件解決の僕からのお願いは、アリアとランスの婚約なんだけど、いいよね?ちゃんとした釣り書も昨日届いたでしょ?」
「殿下、私は可愛い娘を他国に嫁……」
ガン!
立ち上がろうとするお父の肩に、お母様の鉄扇がさく裂して、お父様はそのまま抑え込まれた。
「もちろん、殿下のお願いは、全力で叶えさせていただきます。少し寂しいですけど、娘のあんなかわいい顔を見たら、止められませんわ」
お母さまパチンと手を打った。
「まあ、ランドルフ様。あんなところに、手ごろなガゼボがありますから、積もる話はあちらでどうぞ」
少し離れたところにあるガゼボを、お母様が指さす。
「母上、お言葉に甘えさせていただきます」
そう言ってラル様は、私の手を引きガゼボに向かうと、ぴったりとくっついたまま、ガゼボの椅子に並んで座る。
「アリア、漸く会えた」
「ラル様…………。」
近距離で見つめるラル様の熱い瞳に、私は吸い込まれそうになる。
「あの、ちゃんとお別れ言えないまま、いなくなってごめんなさい。私もラル様に会いたかった」
私は、ラス様の左手首のブレスレットに眼を落とす。
「ずっと、持っていて下さったんですね」
「もちろんんだ、アリアの残した物はすべて」
そう言ってラル様は破顔して、私をきつく抱きしめる。
「あの日から、アリアを迎えに行くために、ずっとずっと頑張ったんだ、いつでもアリアを守れるように、カイセルに剣術も習った。あの屋敷は、狐が住み着かない様に綺麗に管理している」
ラル様は、抱きしめる腕を緩めて、私の瞳を覗き込む。
「アリア、初めて会ったあの日から、ずっと大好きだ。僕の隣にいて欲しい」
「私も、ラル様が大好きです。ずっと一緒にいてください」
「やったー」
ラル様は、いきなり私を持ち上げてお姫様抱っこ。
「あの夜、アリアをさっと抱き上げたカイセルに嫉妬した。次に会ったら、必ず俺もアリアを抱っこするって決めてたんだ」
ラル様は、楽しそうにクルクル回る。
私は振り落とされない様に、しっかりラル様に掴まった。
あの時の、一度だけのお願いを誰かがかなえてくれたのかも。
~ 終わり ~
(´艸`*)
リアム殿下は小さな頃、ラルの着けているピンク色のリボンをからかって以来、アリアとの再会作戦に巻き込まれました。
何度もキューピットを願い出るもうまくいかず。くじけそうになるとオリビアの好きなアルバ侯爵特産のイチゴでラルにつられて、何とかくっつけようと頑張ります。
告白のあの日、ライド侯爵を止めるため、騎士団にも協力してもらいました。
連載にしたのでエピローグを追加します。




